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【第一章】第十四部分

翌日、緋景は商店街にひとりで出掛けていた。これはお忍びであり、牛車は使っていない。

緋景は悲しくなるとヨンリオショッピングに行くのが通例である。

商店街の中では標準的な2階建ての店舗がヨンリオショップである。

店内には磨きあげられたキラキラのガラスショーケースが並べられている。壁にはポスターやイベント案内が貼られている。壁面に設置された棚には小物類が整然と配置され、店舗全体としての調和を演出している。しかし、店内には殺伐とした限りなく黒に近い灰色の空気が充満している。

喜怒哀楽というが、怒哀のグッズしか置いてない。強いて言えば、怒哀大中小である。小は涙ぐみと苛立ち、中はすすり泣きとプンスカ、大は号泣と憤怒というレベル分けである。

店員はピンクのウサミミ付きのヨンリオウサギ着ぐるみ姿で顔は見えない。しかし、両目を眼帯で塞いでおり、ふたつの頬にはギザギザの傷跡があり、かわいいとは真逆の状態である。

緋景は自動ドアをゆるりと通って店内に入ってきた。

「ああ、この腐りかけた肌ツヤ、見事に再現されてますわ。」

緋景はウサギのフィギュアを手にとって、しみじみと見つめている。耳の片方が食いちぎられていて、額と背中にはリアルに流血痕を付けている。

「ああ、この傷口のファンキー加減、実に癒されますわ。」

恍惚とした表情の緋景はガラスケースから、フィギュアを取り出して、頬ずりしている。

「客人、商品を手に取るのは結構だけど、顔に当てるのは遠慮くださいなのだ。」

店員らしからぬ言葉使いは、緋景の耳に違和感を残したが、悪いのは自分なので、沈黙した。店員に注意を受けて、さらに枯れた花びらとなった緋景。

「たったひとつの居場所も奪われてしまいましたわ。もうこれからいったいどうすればいいのやら。このまま、老後を過ごすデイサービスを探さないとですわ。年金はいくらもらえるのかしら。」

15歳にして、デイサービスと年金を考えるのは、超少子化世界では重要である。


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