【第一章】第十二部分
「緋景お嬢様、ただ今到着しました。」
着ぐるみが牛車の重そうな扉を開くと、山吹色の和服姿が地上に現れて、地面を凝視した。
「バイキンがうようよいますわ。消毒しないといけませんわね。」
彼女は、マイボトルを胸元から取り出して、地面に吹き掛けた。
「アナログ魔法では殺菌ができないから不便ですわ。日差しはいい具合に落ちましたわね。魔法は健在ですわ。」
緋景はマイボトルと同じ柄物の日傘をさした。高く透き通った声に、黒く長い艶やかな髪。ブラッシングが行き届いていて、小さな星がキラキラと浮かんでいる。
「お兄様、おはようございます。今日も天気は曇ってしまいましたわ。前途不洋々たる一日の到来ですわ。海の底を這いつくばるヒラメの気分になりますわ。」
緋景は、いきなり地面で張り付いた。
「異常なことはやめるんだ緋景。今日も悲観主義者を全開してるな。ちょっと登校も遅いみたいだし。」
鳴志主に促されて、やおら起き上がって、着物の埃を払った緋景。
「車や人が、ワタクシの行く手を阻むように、集まってきては止まってしまい、道が混んでしまいましたわ。そして、道の窪みに何回もはまって、牛車が転倒しっぱなしでしたわ。世界はワタクシに不公平なのですわ。」
よく見ると、牛車には小さな傷が無数に付いていた。
「それは牛車に乗って通学するからだろう。美しいボクと一緒に、屋敷のクルマで来ればいいんじゃないかい。」
鳴志主はわずかに眉をひそめた。
「お兄様と同きんなんて、恥ずかしくてできませんわ。ぽっ。」
純白の頬が赤く染まった。