【第一章】第十一部分
「もしかして、いやもしかしなくてもあたし。まさか、生徒会長はあたしを始めからターゲットにしていた?すべて意図的な行為なの?あたしはまんまとエサに引っ掛かったってわけ?つまり、ナンパされたんだ。今日は初ナンパ記念日だわ。ナンパ・・・。あたしは古本屋で売ってる安物なんかじゃないんだけど。でもなんて熱いパッションなの。」
思考からメタモルフォーゼして勢いよく走り出した妄想は止まらない。但し、映像は鳴志司の生産物である。鳴志司が影の女子を強く意識していることが、ゆめには、ハッキリとわかった。それは、好きという強い想い。なぜ好意を持たれたのかはわからない。でもそれが本当の愛だということは疑いようがなかった。愛は本能が認知するものなのだから。
キャンプファイアーの炎がメラメラ燃えている。困難を乗り越えて、結びつこうという確固たる意志。細く切れそうな糸。しかし釣糸のように粘り強い。背中への視線からはそんな想いが伝わってきた。
ふたりの影が寄り添った。そして鳴志司らしき影がゆめの背中に腕を回した。
「こ、これは。次もベタなら、アレにシフト!?」
ふたつの影は順調にキスに移行した。
「きゃああ、あたしの初めてが~!」
ゆめは妄想を自分の経験として受け入れてしまった。妄想癖をこじらせてしまった結果である。
「きみ、名前は。」
「赤空ゆめです。1年生です。今、初めてを生徒会長に捧げました。」
「はい?なんのこと?」
突然、青かった空が灰色に変化した。
『ドドド~!』
猛々しい土煙と一緒に何かがやってきた。
箱型の装甲車のようなクルマがやってきた。よく見ると、クルマではない。大きな車輪、引っ張っているのは牛の着ぐるみを着た人間。クルマは黒光る鋼鉄製の牛車である。