【第一章】第九部分
「ちょっと君。なんだか、ヒンヤリするんだけど、そろそろ手を放してもえかな。」
「あっ、スミマセン!」
慌てて、手を振りほどいたゆめのクリアな瞳に写った姿。
『キラキラ、キラキラ。』
「眩しいわ!」
白い歯が煌めいて、ゆめの視界を奪ったのである。ゆめはまだ起き上がってはいない態勢である。
「あれ?でもなんだか、フツーと違うわ。何、この違和感。」
紫色の学ラン。紫水晶学園の男子生徒であることに相違ない。しかし、何かがいつもと違う。相手の顔が近い、近すぎるわ。
ゆめは、その顔をじっと見つめた。銀色の髪は肩にかかるまでしなやかに伸びている。切れ長の蒼い瞳は妖艶に光り、鋭く通った鼻筋に釣り合っている。ほんのわずかにへこんだ頬骨は精悍さを醸し出す。
「恐ろしいほどのいイケメンだわ。はあ~。」
波目になり、口の中にヨダレをダムにしつつあるゆめは、視線を上に上げた。
「あれ?ここにも同じ顔があるわ。突然のデジャブ?」
ゆめは恥ずかしがることもなく、男子を凝視した。
「顔がふたつ!?双つ首竜!?それも横並びじゃなく、縦にふたつ!きゃああ、化け物!」
「おいおい、ボクをモンスター扱いするとはひどいなあ。ほら、こっちはただのイラストだよ。」
男子は胸の辺りを指差した。
「たしかに、これは絵、ゼッケンみたいだわ。つまり、この人は、自分の顔イラストを胸に貼って歩いてるってこと?」
「そうさ。ボクは紫水晶学園生徒会長の滝登鳴志主だよ。」
「生徒会長!?ハックョン!」
ゆめはビックリして、くしゃみをした。飛沫が生徒会長の胸に飛んでしまった。