初めての国外旅行(1/3)
ご無沙汰しておりまして、あの、その、えーと、
マリッサ、もしもの備えをいっぱいひきつれて隣国に家族旅行です。
ガタゴトガタゴトと馬車に揺られ、セドラス国との国境にやってきた。普段なら厳しい入国審査も、自国の第二王子と第六王子の御一行ということですんなり通れた。
とんでもない爆弾を抱えているというのに呑気なものだとディックは思った。彼は落ち着きを取り戻してきた自国に、春休みにかわいい弟とちょっと帰省しようと軽い気持ちだったのだ。
それがどうして、爆弾を背負って、他国の王子やその側近まで引き連れての帰国になったのか。
さりげなく護衛に加わってるあの人は騎士団長じゃなかろうか。あっちのローブは魔術師団長じゃなかろうか。古の巨人もいるし、あれ、このメンツでうちの国滅ぼせるんじゃないか?
そんなことをツラツラと考える虚ろな糸目のディックの向かい側には、同じく虚ろな目をしたマリッサが座っていた。キースがマリッサと一緒にいたがったため、泣く泣くノービターク家の馬車に相乗りさせてもらったのだ。可愛い弟はマリッサの膝枕でお昼寝中だ。こんなことならドラコ達男子馬車に素直に乗っておけばよかった。お兄ちゃん悲しい。
「馬車つらい…レディの口からは言えないとある部位がものすごくつらい…転移したい…転移門使いたい…ハンモックだしていい?寝袋に入って天井に吊るしてもらう?あれ?そもそもキースと旅行のはずがなんで家族全員?なんで殿下達までいるの??」
いつも陽気で能天気なマリッサが呪詛のようにブツブツと口から文句を垂れ流している。
そう、マリッサは今まで馬車に長時間乗ったことがなかったのだ。ノービターク家の長距離移動は、トラブル回避のため転移門がメインであった弊害とも言える。
「他国に転移で入ったら不法入国だからね。転移門はまだ国内でも機密性が高いから気軽には使えないんだよ。ハンモックや寝袋は…馬車に一人だけの時にしてくれ。それに大人数で旅行も楽しいじゃないか。」
エリックが妹の戯れ言に几帳面に返事をする。なんだかんだと妹大好きな兄バカなのだ。
「あ!父さま!マジックテントみたいに空間魔法で馬車の中を拡げて、ふかふかの絨毯ひいて寝転がるのよくない?」
「ふむ。あまり拡げて重量がですぎると馬に負担がかかるからなぁ。でもアイディアとしてはいいね。」
「ゴンちゃんにひいてもらえば平気じゃない?」
それはもう馬車ではない。ゴーレムが攻めてきたと大騒ぎになること間違いなしだ。母からの冷たい視線が突き刺さる。
「ゲフンゲフン、あ、ほ、ほら、父さま、少し拡げて、足元からフットスツールをスライド式でひきだせるようにして、背もたれは角度をつけて倒せたら良くない?」
「なんと。それはいいな。いますぐ欲しいくらいだ。」
「あと絶対トイレが欲しいです。兄さま、脱水と消臭を瞬時に行う魔法薬って作れない?」
こうして長距離移動の間にいくつもの魔道具や魔法薬のアイディアが生まれていった。母からの説教も免れた。
途中何度か第二王子を亡き者にしようと刺客が襲ってきたが、護衛に紛れ込んでいる魔術師団長の防御壁とノービターク家の誇る魔道具で『おや?鳥でもぶつかったかな?』ほどの衝撃で全て弾かれていた。弾かれた刺客の後始末は護衛に紛れ込んでいる騎士団長がきっちりつけた。
備えあれば憂いなしである。
セドラス国ではドライエの門で他国を危機に陥れた責任を取り最大派閥を率いていた第一王子が継承権を返上している。その後の粛清や混乱も落ち着いてきたものの、まだ第二王子の暗殺を目論む一派が残っていたのだ。
しかし、送った刺客はすべて連絡が途絶え、岩を落として馬車の進路を塞いでも、橋を落として迂回させようとしても、何事もなかったかのように、あっという間に通り過ぎてしまった。
もしかしてモンテーヌ王国で強力な後ろ楯を得たのでは?
あれ、第二王子を敵にまわすとまずいのでは?
ディックが自国の王都にたどり着く頃には、その地位は確固たるものとなっていた。
母「目の前にいる安心感」
父「いつもの備え(魔道具)に加えて予備の備え(見守り隊や騎士団長達)まである安心感」
兄「安心感があるからこその不安感」




