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いつか、君の隣へ  作者: U
第四章 伝統、行き着く先

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第二話 組み合わせ

「武闘演」→「天武演」へ名称を変更しました。(2023/12/4)

 翌朝。食堂と共用スペースが受験者でごった返してた。

 理由は明朝に張り出されていた今日のペア戦の組み合わせ。数ヶ所に掲示された為、自分のパートナーと対戦相手の名前はすぐに確認できたが、肝心の名前の主が誰かわからない。せめて支部名も併記されていれば、取っ掛かりが付いたものの名前しか記載がない。手をこまねいていれば、連携の作戦も相手の情報収集もできない。自信のある者以外はパートナー捜しに必死になる。

 一回でも受験したことがあればこの仕様は知っている為、経験者は初日の試験で顔と名前の一致に必死になり、自分の番以外は会場を渡り歩いている。

 しかし有名人はそんな事をする必要がない。相手が見つけてくれるからだ。昨年の優里菜も、それで迷子にならずに済んでいる。

 また、相手を捜索しなくて良い例がもう一つ存在する。

「うわ、なにこれ」

「まじか」

「……」

 他の天子よりゆっくりと起きてきた千花と優里菜、大樹が掲示された組み合わせを確認し、三人とも目を疑った。


 [ 月永優里菜 & 藤森千花 VS 瀬戸光 & 櫻守大樹 ]


 そう、知り合いならば何も問題にならないのである。

 ただ顔見知りじゃない者が一名載っている。

瀬戸(せと)ひかり? ひかる? って誰だ?」

 それを聞いてぎょっとしたのは千花だけでなく、周りの天子も驚いている。

「は? 知らないの?」

「悪かったな」

「瀬戸(ひかる)。前回の天武演準優勝者よ。雷と宝星(ほうせい)槍術の使い手」

 優里菜はその流派に聞き覚えがあった。どこで聞いたかと、検索をかける。武術の流派なら、広輝か円からのはず。

「宝星槍術、宝星……あ、四国の」

「そうです。星月流剣術と同じく、天子の一族で伝えられてきた武術です」

 言い切ってから、千花は優里菜も知らなかったことに気づく。大樹にツッコまれる前に話題を変える。

「それにしても、彼とペアを組まされるなんて、相当低く見られたのね」

「ああ?」

「この組み合わせ表見た感じ、どこも実力が拮抗するように作られてるみたいよ」

「ケンカ売ってんのか?」

「この試合頑張らないと落ちるって言ってんの」

 それは千花が自分にも言っている忠告だった。

 話題を掻っ攫った[アクア・ドラゴン]の優里菜と組まされるということはそういうことだ。やはり昨日の試合は、そういう風に映ってしまったようだ。

 バチバチと火花を散らす二人の間で優里菜はあえて仲介をせず、苦笑いを顔に貼り付けるに留めた。千花の忠告の仕方が本当に広輝に似ていて、言葉の裏に気づいてしまっていたから。

 素直になれない彼女らなりの、超遠回しの親切に。

「ちょっとごめんよ」

 そこに一人の背の高い青年が現れる。体の線は細く見えるが、幹が通ったようにがっしりしている。肩幅があり、半袖から伸びる腕に鍛えられた筋肉が見える。

 髪は整髪剤で整えて清潔感がある男前の顔をしていた。左目下の泣き黒子が特徴的である。

「君が櫻守大樹だな」

「え、あ、はい」

「よかった。俺は瀬戸光。作戦を詰めたい。今からいいか」

 光が大樹に右手を差し出すと、大樹は光の顔を見てその右手を握った。 

「よろしくお願いします」

 光は固く握った手を離し、視線は噂の人物へ。

「で、そちらさんがーー」

「月永優里菜です。今日はよろしくお願いします」

「これはどうもご丁寧に……って、やっぱり君があの(・・)[アクア・ドラゴン]か」

「……不本意ながら」

 光はその称号は誉だと思っており称賛したつもりだったが、優里菜の顔に少し影が出たので、触れずに話題をするりと変えた。

「そうか。でも、今日はそんな大技撃てる隙なんて与えないから。覚悟しておくことだ」

 それは宝星槍術という流派を聞いてから優里菜は百も承知だった。広輝に、円にあの大技が効くと思っていない。千花にだって、昨日は不意打ちのように行使したから命中しただけ。

 だからそんなことで臆したりはしない。

「はい。でも、私よりも千花ちゃんに気をつけたほうがいいと思いますよ」

(え?)

「私と違って、剣術も天術も一流のオールラウンダーですから」

 優里菜は誇らしげに千花を自慢する。優里菜の嘘偽り無い本心だった。

 その横で千花は優里菜が自分のことを高評価してくれていることに戸惑いを覚える。半年前に対立し、騒動後も会話できていない。そして昨日も、ほとんど嫌味しか言っていない自覚がある。そんな人が自分を好意的に受け入れ、高評価していることに違和感があった。

 優里菜の言葉を真に受け、光の視線が千花に降っていく。光と千花の身長差は三十センチ。見上げるように光を見る目は、何にも臆していない。

「へえ。楽しみにさせてもらっていいのかな」

「これでも中伝です」

 千花は左手を刀を差しているように腰に添えた。

「試合で存分に確かめさせてもらおう」

 光は満足そうにニヤリと笑うと二人に背を向けた。

「大樹。早速作戦会議だ。いくぞ!」

「はい」

 優里菜に一礼し、大樹は光の後を追っていた。

 取り残された二人は、

「まずは朝ごはんにしよっか」

「ーーはい」

 混雑している食堂から何とか席を確保し、順番にバイキング形式になっている朝食を取りに行った。

 優里菜は、海藻のサラダに鮭の塩焼き、玉子焼きに漬物をつけ、白米をよそって味噌汁を揃えた和食。

 千花は、コールスローにベーコンエッグ、サンドイッチを二切れとコンソメスープの洋食。

 二人揃ったところで両手を合わせて「いただきます」。

 朝ごはんを食べ始めた。

 千花はコールスローを数口食べ、サンドイッチに手を伸ばす際、ちらりと正面の優里菜を窺い見る。やはり疑問に思った。お手頃のビジネスホテルで出てくるレベルの食事を、優里菜が美味しそうに食べていることが。この国でも名家中の名家、星永に並ぶ三家の一、月永のお嬢様のはずなのに。

 金銭感覚や物への価値観が円や慧輔たちと何ら変わらない。他の天子への態度もそうだ。同等の名家だろうと源子だろうと態度を変えない。目上かどうかで敬語を使うか使わないかだけ。血統主義の中心家系だとはとても思えなかった。

 サンドイッチを口に運ぼうとした手が、机の上に戻る。

 玉子焼きに箸を伸ばす優里菜に千花は尋ねてみた。

「さっきの、どこまで本気で言ったんですか?」

「ん?」

 優里菜はパクリと箸を咥えたまま目をパチクリ。箸を抜き取り、左手で口を隠し、もぐもぐして飲み込むと千花に聞き返す。

「さっきの?」

「わたしが、その……オールラウンダーって」

「全部本心だよ?」

 『嘘ついていないよ』『裏表ないよ』その表情が、その碧い眼が訴えてくる。何に疑問を持たれているのか、全身で不思議がっている。

 社交辞令やお世辞だと疑った千花が馬鹿を見ている気持ちになってくるくらいだった。

「わたし、負けたのに」

「あれは、なんというか……対人戦してたところに大砲打っちゃったような感じだから……えっとごめんね。上手な言い回しが思い浮かばない」

 優里菜にも不意打ちに等しかったという自覚はあるらしい。昨日の試合を思い返してみても優里菜が千花に勝っているところが天力量しか思い浮かばない。

「剣の腕は間違いなく千花ちゃんの方が上だし、天術の使い方も私よりも上手だったよ」

「慰めはいらないです」

「ううん、事実。だから私は[水龍の牙(アクア・アグナ)]を使うしかなかった。私にはあれしか手が残ってなかった」

「…………」

 千花は視線を逸し、黙ってしまった。優里菜が嘘をついていないと理解しつつ、でも腑に落ちなかった。剣術も天術のコントロールも自分が上なことは、驕り抜きで千花も分かっている。それでも力でねじ伏せられたから納得できないのだ。

 優里菜は箸を置いて千花に語りかける。「広輝くんと円さんが言ってたんだけど」と

「『千花は、弱点がないから特出した技能が無いように見えるだけで、ステータスは総じて高い。数年後、無欠の天子になるだろう』って」

「つまり器用貧乏ってことですよね」

「『今はまだ』」

「…………」

 サンドイッチの具がにゅるりと飛び出し、溢れそうになる。

 悔しさが見て取れた。

 ここからは優里菜の言葉。

「知ってる? スポーツの世界ではその頂点にいる人たちを"鉄人"っていうんだよ」

 トライアスロン然り。陸上の十種競技や競泳の個人メドレー……複数の種目を鍛え上げ、全てを一人で成し遂げる。その偉業は一つを極めた者とはまた違う栄誉と称賛を得る。

 その頂は、全てを鍛え続けた彼ら彼女らにしか辿り着けない領域。 

 千花にはそれを可能にする剣術と天術の才、そして努力ではどうしようもない先天的な才能である天力量。万能者(オールラウンダー)になる才能が全て揃っているのだと、皆が認めていた。

 心のモヤモヤが一気に晴れていくようだった。目を大きく開いて見たモヤの向こうには優里菜の笑みがあった。全部見通されていたようで、恥ずかしくなり、千花は悪態をついてしまう。

「わたし、そんなガチムチじゃありません」

 ほんのり赤く染まった頬の中にサンドイッチを勢いよく頬張った。



  ***



 宿舎から少し離れたところに、建てる場所を間違えたかのような豪勢な洋館と庭園がある。

 正面に大きな玄関を構え、その左右に二つの三角屋根。ダークブラウンのレンガ壁とアイボリー(乳白色)の窓枠。

 中は絢爛なシャンデリアやランプ、インテリアが並び、隅から隅まで高級な家具が配置されている。中世ヨーロッパを彷彿させる空間で、目を閉じればクラシックが聴こえてきそうだ。

 この贅沢の限りを尽くした洋館は、宿舎を含めた一帯の管理事務所であり、特別ゲストの宿泊場所でもある。

 そのゲストの為に用意された部屋のある一室には、暗い紅色の絨毯の上にテーブルとそれを囲うようにソファチェアが四脚。

 奥の一脚には口周りと顎髭を綺麗に整えた白髪の老人が足を組んで背もたれに体を預け、葉巻を更かしている。煙は音静かに回る天上のシーリングファンが巻き取り、排気口へと向かう。

「月永の娘は失敗作と聞いていたが、認識を改める必要がありそうだな」

 灰色のスーツに身を包む老人から、往年の力強さが感じられる。

「そのようですね。あの娘が天武演に出場する可能性も踏まえ、なるべく伏せておいた方が良いかと」

 背筋を伸ばして座る壮年の男性が人差し指でメガネをクイッと直し、老人に助言する。

 それを反対側の強面の男が懸念を指摘した。

「ガキどもから伝わるだろう」

 後頭部と側面を刈り上げたパンチパーマの男は極道のそれにしか見えない。老人とメガネの男と違い、ピアスやネックレス、ブレスレット、指輪の装飾品が目立った。

 メガネの男が強面の指摘を些事だと返す。

「下級天子から見たら凄かった、と伝われば良い」

 所詮、白と黄の若輩者たち。自分たちの最大天術の出力が"10"ならば、"100"を見ようが"1000"を見ようが、"凄い"ことには変わりない。

 "若者にしては凄かった"となれば、大人共の評価も変わる。

「その辺は主に任せる」

「御意」

 老人は葉巻を吹かし、欲望を口にする。

「しかしあの器量、失敗作ではないなら鳴上に潜らせるのも手か」

 天子の平均寿命からするとかなり長生きしているこの老人。まだまだ自分の版図を広げることに余念がない。

 戯れに聞こえる今の発言も半分は本気であり、本気にした部下が戯れを成功させれば、老人に気に入られる。いわば出世の邪道ルート。

 強面の男は、そのルートを辿ってここにいた。あらゆる無理を通そうとしてきたが故に、その可否と難易度も感覚で理解する。

「恐れながら」

 開いた膝に肘を置き、手を組んで老人に上申する。

「あの娘、[堕天子]の庇護下にあります。近づけさせるには策を練ねばなりません」

「[堕天子]? ああ、二年前に大損させられたあの劣子(れっし)か」

「はい」

 劣子とは、源子の蔑称である。血統主義に使う者が多い。

 鳴上でこの呼び方を聞かないのは、血筋関係なく実力主義を敷く陽本がすぐ隣にいて、その源子の中にも侮れない者がいると辛酸を嘗めさせられたからである。

 老人はテーブルの上にあるガラスの灰皿で葉巻の灰を折り、軽く叩いて灰を落とす。

「そんなに厄介か」

「実績を並べるのなら、[神堕とし]一件、あの[雷鬼]に勝利、一年前の吸魔事件に終止符を打ちました」

「それで?」

 老人は強面の懸念を吐き出させる。その程度、強面はどうにかしてきたからだ。わざわざ老人に上申するほどではない。

「岳隠の流れを汲む為、こういった手に敏感です。今の月永直系を含め、慎重に事を運ばなければ、以前の白鷺(しらさぎ)の二の舞を演じることになるかと」

 老人は再び背もたれに体重をかけ、煙を口に含む。

 味わった煙と一緒にため息を吐き出した。

「つくづく厄介だな、クズ星の劣子どもは」

 星永は自分の血筋を続けつつ、源子を養い、力を付けさせ、道を示し、一人の人間として世に送り出す。

 血統主義のような才能と優秀の掛け合わせでエリートを生み出し、使える者を優遇して重用し、半ば人生を強制する彼らとは反りが合わなかった。

「今回も当たりを付けておくに留めておくのが無難かと」

「そのようだな」

 老人はひとまず諦めたようだが、頭の中まではわからない。

 メガネの男性が冗談交じりに種火を撒く。

「お孫さんも二人、いらしてましたよね。事故させて(使って)みては。弟さんは女好きですし」

「ふん、あいつとて、ガキなど相手にせん。それに奴らも成功はしたが言うこと事を聞かん……早々に弱み(家族)を作らせねば」

「御意」

 撒いた火種は燃え上がることなく、鎮火。メガネの男性も大人しく引き下がった。

 そこにノックが三回。若い優男が礼儀正しく入室し、老人たちに一礼。

「そろそろ、お時間です」

「わかった。すぐ行く」

 この不穏な会話をしていた三人は、天子協会の五大支部の一つ、天戸支部の重鎮。

 そして、昇格試験の運営委員を務める重役でもある。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 昇格試験内部の重鎮が不穏すぎますね。 今章の敵はこの人たちですかね〜。
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