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いつか、君の隣へ  作者: U
第四章 伝統、行き着く先

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プロローグ どうかこの子を

新章、そして第二部の始まりです。

よろしくお願いします。

 因習――目的を忘れた仕来りは人を獣にし、人間を傷付ける。



  ***



 その夜は、雲一つない満月の空だった。

 月明かりが残酷に地を照らし、森の中にも蒼白い視界を齎す。隠密行動を取るには厳しい日だった。

 横薙ぎの風が強く、紅葉した彩り豊かな葉が音を立てて流れていく。

 男は腕の中で眠る幼子が風邪を引かぬよう、自分の上着も重ねて包み、しっかりとその腕で抱きかかえる。音静かに進み続け、森の出口にたどり着いた。

 目的地まで外灯は少なく、月の光がなければ真っ暗で歩くのも難しい。けれど、男にとっては助けとなるはずの光が邪魔だった。

 古いアスファルトの道を駆け抜けなければならない。

 男は周囲の様子を伺い、意を決して飛び出した。

 幼子を起こさないように、無骨な腕のゆりかごに振動をなるべく与えないように気をつけて、しかし見つからないように静かに素早く。

 追われている気配はない。男は目的地に近づくほどその感覚を尖らせた。

 目的地には結界の術式が張られている。侵入を阻むものではなく、侵入を報せるもの。

 男は構わず、その石屏を越えた。

 時を置くことなく、大人がやってくるはず。

「誰かいないか」

 男が玄関を二回叩くと、玄関の向こうで息を飲む気配がした。

「子供を預かって欲しい。俺と一緒にいると焼き殺されてしまう」

 扉は開かない。

 男は腕の中の幼子を置いて去ろうとした。

「開けてやれ、真白(ましろ)

 男の後ろの刀を携えた男性が言った。

 男に冷や汗が伝う。鋭敏していたはずの感覚をすり抜けるようにその男性は現れたから。

 鍵が開く音がして、ゆっくりと扉がガラガラと音を立てて横にずれていく。

 中から顔を出したのは細目の若い女性。警戒している。

 真白は男の後ろの男性に向かって問いかける。

「天守、お知り合いですか」

「知らないが、察しはつく」

 男は驚いて振り向いた。

 天守ーー即ち星永の当主。

 男にとって千載一遇のチャンスだった。

 両膝を付き、精一杯頭を下げる。両手が空いていたら土下座しているところだ。

「どうかお願いします。この子だけは。俺と……私と一緒に居たらこの子も妻のように……」

 体が震えるほど奥歯を噛み締め、辛苦に耐える。

「なぜ我らに助けを求めない」

「天守!」

 真白の声が響いた。

 少ない言葉で男の事情が垣間見える。真白は下手に関われば彼の事情に巻き込まれ、他の子供たちに災いが降りかかることを恐れた。

 男は天守の言葉を嬉しく思いながらも、断腸の思いでそれを断る。

「どれだけ取り繕っても、身内の揉め事です。貴方がたを巻き込めばこの国の安定にも関わります」

 しばしの沈黙。

 天守は男の建前に気付き、奥の覚悟を悟り、男の願いを聞き届けることに決めた。

「相分かった。この子は責任持って預かろうーー達者でな」

「ありがとうございます」

 男は膝を折ったまま振り返り、腕の中で安らかに眠る我が子を真白に託した。

 真白は慣れた様子で、そして悲しそうな顔で、首が座ったばかりと思われる女児を託された。

「どうしたのー?」

 奥から園児くらいの小さな女の子が、眠そうに目をこすりながら、トテトテと歩いてくる。

 真白は腰を低くして、女の子に尋ねる。

「トイレ?」

「のどかわいたー」

 眠たそうな目に真白の悲しそうな顔と真白に抱かれた幼子が映る。女の子は不思議そうに首を傾げた。

 男は寂しい笑みを浮かべて、優しい口調で女の子に一つお願いをした。

「この子の良いお姉さんになってくれると嬉しい」

「いいよー」

 それは『お姉さん的な存在として、仲良くしてくれたら嬉しい』という意味だった。

 だから女の子の二つ返事もそう受け取った。

 女の子は、真白に抱かれた幼子の柔らかいほっぺを指で触りながら、名前を尋ねた。

「なまえは なんていうの?」

「チカ。千本の花と書いて千花だ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! 千花と本当の姉妹じゃなくて義理の姉妹だったのか!?
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