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いつか、君の隣へ  作者: U
間章1 萌芽、秘かな灯火

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第五幕 あたたかな日々

一○○話 到達記念です。


ショートショートの二話構成になっています。

 一.十七才の誕生日



 四月二十四日。

 天宿に呼び出された優里菜は、呼び出した張本人から満面の笑顔で祝福されていた。

「(おたんじょうび おめでとう!)」

「ありがとう!」

 優里菜が膝を畳につけて愛紗を抱き締め、愛紗も嬉しそうに両手を優里菜の首に回す。

 今日の日の為にカラフルに彩ったそのスケッチブックのページを、高々と掲げて優里菜を祝ったこの愛くるしい少女の名は、愛紗・アーレンス。魔術師ギレーヌ・ラインの復讐によって両親を殺害され、天魔力の生成の実験体にされた一人の天子。昨年、広輝たち鳴上支部によって救われ、岳隠に保護されていたが、今月から星永円を護衛にする形で鳴上支部で暮らしている。

 薄い金色の髪と空色の瞳で外国人そのものだが、話せる言語はドイツ語と日本語。最近は日本語ばかり使用している為、ドイツ語が怪しくなっている。

 愛紗を堪能した優里菜が抱擁を解くと、愛紗は手穴の空いた小さな紙袋を優里菜に差し出し、口の形を一字一字大きく変えた。

「え、プレゼント? ありがとう、愛紗(アイ)ちゃん。開けてもいい?」

(うん!)

 優里菜は丁寧に袋を開けると、中には三種類のヘアゴムが入っており、一つ一つ傷つけないように取り出してテーブルに並べていった。

 一つ目は、黒いゴムに小さなフローライトがブーケのように束ねられた上品な品物。

 二つ目は、薄い桃色のゴムにパールのような上品な色のビーズを通したかわいらしい品物。

 三つ目は、小さな碧色のリボンが付いたシンプルなヘアゴム。

「……」


「?(いらなかった?)」

「! 違うよ!? すっごく嬉しいよ! ありがとうね」

(よかったー)

 愛紗はほっと胸を撫で下ろす。三つ目のヘアゴムを不思議そうに眺める優里菜に種明かしをするように、愛紗はスケッチブックをヘアゴムに並べて選び主を明かした。


 〈まどかおねえちゃん わたし おにいちゃん〉


「! そうなんだ(やっぱり)」

 優里菜は他の二つ比べ、選ぶセンスが異なっているような気がして、愛紗が選んだにしてはシンプル過ぎる気がしていた。

「なんだ、もう開けたのか」

 そこに円がお菓子と麦茶をお盆に乗せて戻ってきて、お盆をテーブルに乗せると、お菓子と麦茶を二人に振る舞う。

「円さん、ありがとうございます」

「うん。まあそれと、コウには言うなと言われてるんだが、それ全部、耐天力加工施した材料で出来てるからいつでも付けて大丈夫だぞ」

「え、あ、はい、ありがとうございます?」

 優里菜のニュアンスは「なんでわざわざ?」だった。確かに物に天力を多量に注ぎ込んでしまうと壊れてしまうが、纏うだけでは服は破れないし、アクセサリーは壊れない。その為、衣服・アクセサリー類にまで気に留める者は少ない。

 円の中のいたずらっ子がしっぽを出す。

「ふ、コウなりの罪滅ぼしなんじゃないか。この前の脱衣所の」

「っ!」

 一瞬にして優里菜の顔が赤くなり、背筋を伸ばして硬直した。

 それはつい先日の出来事で、優里菜は今でもその瞬間を鮮明に思い出せてしまう。お互いに何が起こっているのか分からない顔を見合わせると、広輝の視線がつま先まで下がっていき、優里菜もそれを追った。次の瞬間、壊れてしまうくらい大きな音を立てて扉が閉まり、優里菜がは何を見られたのか理解して声なき悲鳴を上げたのだった。

 不可抗力の出来事で、不幸な事故ということで収まったのに、再び話題に出すとは円も意地が悪い。

 優里菜が赤い頬を少し膨らませて円を見ると、円は案の定ニヤッと笑みを浮かべていた。

 からかいたがりのこのお師匠様に、優里菜は「もう……」と諦めの息を付くのだった。

 それはともかくとして、ここにはいないプレゼントの選び主の所在を聞いてみる。

「あの、今日広輝くんは……」

「陽本の方に行くの見たから、愛紗(アイ)と一緒にいれば会えるんじゃないか」

「わかりました。ありがとうございます」

 優里菜はあっさり答えてくれた円にそっぽを向くように愛紗に身体を向けると、愛紗が選んだ薄桃色のゴムに真珠色のビーズを通したヘアゴムを手に取った。

「アイちゃん、付けてみてもいい?」

「(うん)!」

 その後、三つのヘアゴムや優里菜が持っていたシュシュなどを使って、優里菜も愛紗も髪型を変えて楽しんだのだった。






 二.お願いしても、いいのかな?



 ゴールデンウィークの後半。

 円によって鳴上バージョンに加工された地獄の特訓メニュー亜種・春夏秋冬の[春編]を乗り越えた広輝は、天宿の畳部屋の一室で高校の課題に勤しんでいた。同じ課題を出され、広輝よりも[春編]にヒイヒイ言いながら鍛錬していたはずの優里菜は、既に課題を終えているという裏切り者である。今は愛紗から誕生日にもらった薄桃色のヘアゴムで髪をまとめて、愛紗と円の二人と一緒にショッピングに出かけている。

 広輝は部屋に誰もいないことを良いことに、音楽をイヤホンをせずにスマートフォンからスピーカーで聞きながらシャープペンを握っている。きれいな旋律を奏でるフルートの独奏と、優しい音色と共にどこまでも澄みきった女性の歌声がランダムに流れていた。

 そこに、ドタドタと廊下を走る音が近づいてくる。それは歩幅の小さな、そしてやけに力んだ足音だ。それが広輝のいる部屋の襖の前で止まり、広輝が顔を上げると、バッと障子が開き、薄い金色の長髪が広輝の懐に飛び込んできた。

「愛紗? どうした」

 広輝が髪を撫でてみても顔を伏せたまま動かない。ご機嫌斜めのようだ。

 そこに原因の二人がやってきた。

「アイちゃんごめんね」

「すまん、アイ」

 優里菜と円が部屋に入ってくると、隠れるように広輝の反対側に移動した。

 愛紗を庇う広輝の懐疑的な目が二人の「おねえちゃん」に向かう。

「何をしたんですか?」

「えっと、その、アイが気に入った服を試着してもらっていくうちに……」

「アイちゃんなら似合うかなって服も着てもらって……」

「歯止めが効かなくなった、と」

「「はい……」」

 申し訳無さそうに肩を落とす二人。

 きっと愛紗が疲れていても続いたんだろうと、広輝にはその時の情景が目に浮かぶように想像できた。

 なにせーー

「何回目ですか、円さん」

「最初は喜んでくれてたから……済まない」

 常習犯だったから。

 岳隠では、円と服を買いに行く時にはブレーキ役に一緒に来てもらうのが暗黙の了解となっており、かつては円と一緒に買いに行く男子も少なからずいたが、今ではゼロである。

 そんな感じで、着せ替え人形にされるのが目に見えていたから、広輝は手を打ったつもりだった。

「優里菜、オレはブレーキ役を頼んだつもりだったんだが?」

「ごめんなさい……アイちゃんがかわいくて」

 まさか優里菜まで一緒になって楽しむとは。それだけ愛紗のかわいさは暴力的なのだろうが、それはそれ、これはこれである。

「二人とも呼ばれるまで、この部屋に入るの禁止。はい、回れ右」

 何か言いたげな二人だったが、今ばかりは広輝に従い、愛紗に謝りながら部屋に出ていった。

 愛紗と広輝の二人だけの部屋には、変わらず澄んだ歌声が流れ、ゆったりとした時間が過ぎていく。

 広輝は愛紗に何も聞くことなく、シャープペンを握り直して中々進まない課題に向き合い始めた。今やっている課題は広輝の苦手な古文で、電子辞書とにらめっこしながら解読を進めている。

 愛紗も広輝に愚痴を零したりせず、何かにあたりもせず、どうしたらいいのかわからない感情を抱えて、広輝が課題に四苦八苦している姿を見ていた。

 十分、十五分と無言の時間が過ぎ、愛紗の高ぶりも少しずつ下がっていき、自分の周りに意識が向くようになる。ずっと流れていた優しいメロディについての質問をスケッチブックに書いて、おずおずと広輝の視界の端からそれに近づけた。

「(なんてゆう おうた?)」

「ん? ああ。今は[Clear]っていう歌だ。AMANEって人が歌ってる」


「(すきなの?)」

「ああ」

 広輝は誇らしそうな少し柔らかい表情を浮かべた。

 この曲が、この歌が、深淵の中にいた広輝を周りが見えるところまで引き戻してくれた。広輝にとって彼女の曲は、耳に残る・脳裏に刻まれる ではなく、心に届くものだった。優しく響く旋律に透き通った歌声が乗って、詩に込められた願いや思いが、固く閉ざした心に沁み入るような。

 そんなAMANEの曲が終わり、今度はフルートの独奏へと移る。耳触りの良い、子守唄のような柔らかな旋律。

 広輝は昔を懐かしみ、してくれたことを返すように愛紗の頭を優しく撫でる。いつもなら嬉しそうに笑顔を咲かせてくれる愛紗も、今はリアクションが無い。広輝は愛紗の髪から手を離し、できるだけ優しい声で名前を呼んだ。

「愛紗」

(……)

 真面目な話なのだと気づいたのだろう。愛紗の体が少し強張った。

「無理に許せとは言わない。それはお前の自由だ。けど、明日も明後日も、来週も二人とこのままでいたいか?」

(ううん)

「楽しいことしたいか?」

(うん)

「それなら、どうしたら二人を許してもいいって思える? 何をしてほしい?」

(…………)

 愛紗は少し考えた後、スケッチブックを捲って鉛筆を握った。遠慮がちに、いつもよりも小さめな字で、率直な思いを綴る。そしてやはり、控え目にスケッチブックを持って上目遣いで広輝にそれを見せた。

「(やだってゆったら やめてほしい)」

「他にはあるか」

 愛紗は目を大きく開くと、今度は恐る恐る言葉にしていき、もう一度広輝に見せた。

「(なんでもいいの?)」

「言うだけ言ってみ」

 広輝の言葉に押され、愛紗はまるでそれが怒られるのがわかっているように、今までで一番小さい字で言った。

「(おなかいっぱい パフェたべたい)」

「パフェだけで?」

(うん)

「任せろ」

 広輝は何がその願いの障害になっているか理解すると、兄貴らしく親指を立てたのだった。



  *



 愛紗の許しを得られそうな円が、優里菜の隣で腕を組んで眉間に薄いシワを浮かべていた。

「…………」

「いいじゃないですか、一回くらい」

「でもな、お腹壊すだろうし、一回やったら次もって」

「壊したら壊したでそれも経験ですよ、円さん。それに、一回やったら次もって、何人も着せ替え人形にしても懲りない円さんが言えた義理ですか」

「うぐっ」

 愛紗の『パフェをお腹いっぱい食べたい』という願いは、愛紗を心配する円の愛情により今まで叶えられてこなかった。愛紗も円が自分の健康に気を遣ってくれていることを知っているから、それを口にもせず"いい子"でいたというわけだ。

 それを広輝がこじ開けてようとしていて、止めを刺しにかかる。

「気まずいまま鳴上に居るのも辛いでしょうし、愛紗の護衛は晶さんたちに任せて、岳隠に戻られたらーー」

「ええい、わかった! わかったよ。私の負けだ」

 円は組んでいた両腕を解いて、両手を上げる。  

 これでパフェ食べ放題が確定した。

「よかったな、愛紗」


「(ありがとう)」

 随分と久しぶりに見た気がする愛紗の花開くような笑顔に、みんなの顔がほころんだのだった。



 ちなみに。

 円にバケツパフェを注文されて、それを食べきるのに強制参加させられそうになった広輝だったが、あれよあれよと目の前でパフェが減っていく光景に唖然とし、注文した円すら言葉を失くし、お腹いっぱいになって幸せそうな笑顔になっていた愛紗も目を丸くし、遂に空っぽになった大きな器の前には、優里菜の至福の笑顔をあったとか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやー、日常回はやっぱりいいですねぇ!! 広輝が碧色を選ぶとこがなんか拗らせてる感じがあって最高です。 優梨菜...パフェ...強いな.. 土曜日に友達と、【ビックリ○ンキー】のジョ…
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