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いつか、君の隣へ  作者: U
第三章 欺瞞、憎しみの行方

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第十三話 堕つる天子[起]

ゴールデンウィークの連日投稿4/8日目。

毎話、午前9:00に投稿します。


いよいよ堕天子の真実に迫ります。

一応ここから、グロ注意でお願いします。


「武闘演」→「天武演」へ名称を変更しました。(2023/12/4)

 広輝が久下広輝となって四年と五ヶ月。

 広輝は慧輔を先生と呼んで剣術を習い、天術を同じ風の力を持つ円たち先輩天子から学び、力を徐々につけていった。

 広輝が頻繁に天宿へ通うので、幸穂もそれに付いて行くようになり、天術以外は広輝と同じような指導を受けた。剣術については慧輔が広輝以外に指導することはなかったので、その様子を横で見ているか他の天子と同じ鍛錬に参加した。

 そしてそれ以外。

 千花が幸穂・広輝の順番で懐いて一緒に遊ぶようになると、美宙がそれに引きずられて結果的に四人で一緒にいることが多くなった。美宙の広輝に対する感情も、鬼の一件の後から好転しており、四人姉弟に間違われるくらいに仲良くなっていった。

 広輝が元気を取り戻していく姿を見守りながら、慧輔は[剣帝]の名を確固たるものへとしていく。全国各天宿から選抜された二十歳以下の天子の間で行われるトーナメント戦、天武演を十九歳まで四連覇を果たす。翌年は一時的に特務隊[紅]に所属していたことで、参加できなかった。しかしそれが逆に名声を高めることになる。紅にいる一年半の間に二柱の神堕としに参加し、遂行してみせた。その後、紅の脱隊を申し出て受理されると、紫への昇格試験を受けて、歴代最年少で合格を決めた。次期星永当主として申し分ない実力と実績を兼ね備えた。

 この四年で躍進したのは一人目の神童だけではない。二人目の神童たる美宙も天宿の外へも頭角を現していく。

 中学三年生の夏に蒼へ昇格すると、美宙の名が全国に知れ渡り始め、その年に天武演を準優勝したことで若手の中で美宙を知らない者の方が少なくなっていった。先月の天武演では、九州の才媛と激闘を繰り広げた末に初制覇を果たす。付けられた名は[火剣]。その名を証明するように剣術はさらに早く極みへと近づいていた。中学二年生の初春に壱ノ型を修めると、高校へ進学すると同時に弐ノ型の奥伝をも修め、一刀流の皆伝者となる。名実ともに実力者の仲間入りを果たした。


 そんな美宙は広輝をパートナーにして岳隠支部近くの任務に付いていた。

 内容は小鬼およそ四体の浄化または討滅。天位:白に妥当な任務である。万一を考慮し、白の広輝に蒼の美宙を付ければ問題ないだろうという判断だった。

 ぱらぱらと乾いた雪が舞う日の昼下がり。灰白い雲の下、三、四センチ積もった雪、表面は凍り、踏めばザクザクと音がして小気味良い。

 その森の中を広輝が先行して駆け気味に歩いている。中学生になり、徐々に落ち着きを持ちつつあったが、首に巻かれたプレゼントと任務後のことでテンションがかなり高い。背が低いことも相まって、今の広輝は小学生に見える。

「みい姉、早く!」

 岳隠に来た当初の広輝はもういない。家族を失う前の元気で明るい広輝が戻ってきていた。幸穂や千花たちを含めた小学生たちの兄としての役目をしっかりこなし、信頼されている。

 加えて、その素直な性格と弟気質は年上からは可愛がられていた。

 もちろん美宙の前でも、それを抜き切れない。

 普段は美点であっても、今は任務中。美宙に注意される。

「少しは落ち着いて、コウちゃん」

「ちゃん付け禁止!」

「なら緊張感持って任務に当たるのね、コウちゃん(・・・)

「ぬぐぐ」

 四人で一緒にいるようになると親しい呼び方へと変わっていった。美宙を"みい姉"、広輝を"コウちゃん"または"コウ兄"などなど。ちゃん付けになってしまったのは美幸の影響だが、広輝は最初は気にしていなかった。しかし思春期を迎え、美宙への想いに気づくと、ちゃん付けが子供扱いされているようで苦手になっていた。

 今日は一月二十三日。広輝の誕生日である。さらに出発前に美宙からもらった青色のマフラーに舞い上がっていたのは確かだった。

 弁明の余地なく、広輝は美宙を待つ。彼女が追いつくと、隣を歩調を合わせて歩き出した。

 既に小鬼と遭遇してもおかしくない場所まで来ているが、周囲に小鬼の気配を感じない。風音も、物音も無く、二人の足音だけがあった。

 美宙は周囲を警戒しつつ、小鬼が居ない理由を考える。小鬼が姿を消したり、天子の目を欺くと言った事例は聞いたことがない。加えて今回の小鬼は小鬼の中でも最底辺の小鬼たち。そんな芸当はできるはずもない。その為『移動した』が一番有力だが、前情報では小鬼たちは『まるで戦っているかのように、激しくじゃれあっている』らしい。しかし、その痕跡も見当たらない。雪で埋もれてしまったの可能性もあるかもしれない。

 天位:蒼らしく警戒心高めの美宙の横で、広輝は眉をひそませて首元をごそごそとしていた。

「みい姉」

「なに」

「なんかチクチクする」

「  それは悪かったわ。任務に支障が出るなら外しなさい」

 せっかくのプレゼント、身につけていたかったが、肌に触れる首元が痒くなってしまっていた。

 贈り主の許可を貰い、マフラーを一巻き解く。そこで広輝の手が止まる。

 妙な間が気になった。

 せっかくのプレゼントにケチを付けたから機嫌を悪くしてしまったのか。こっそりと美宙を見上げるも、不機嫌という訳ではなさそうだった。それどころか眉が八の字。

 はっとして、見える範囲、触れる範囲でマフラーを確かめる。

 あるはずの洗濯表示がなかった。

 それが意味する事は一つ。

「もしかして、みい姉が作ってくれたの?」

「まあ、ね。初めてだから上手くできなかったけど」

 美宙はばつが悪そうに頬をかく。

 ありきたりのプレゼントだと思ったが、寒がりのくせにマフラーをしたがらない広輝にはぴったりだと思って、秋の終わり頃からこっそり編み始めていた。家事という家事が苦手な美宙にとってマフラー作りも困難を極めたが、やけに力の入った真白たちの協力もあって何とか完成に漕ぎ着けた。ところどころ不格好な箇所や手直しできそうな部分もあったが真白に『大丈夫! 問題ないわ』と強く強く背中を押されて、そのまま包装した。

 弟分に贈るにしては、妙な気恥ずかしさを覚えた。広輝は隠しているつもりなのかもしれないが、外野とそれを向けられている本人にはバレバレなのだから。

 ちらりと横に視線を落とすと、広輝はマフラーをきちんと首に巻いていた。

「外さないの?」

「これが良い」

 広輝は前を向いたまま答える。絶対に外してなるものかという意思を感じる。

 ただ、痒みは出てしまうので、毛糸のチクチクは首に天力を纏わせることで軽減させているようだった。

 本当にそのまんまの反応に、美宙も笑みが零れてしまう。

「ーーありがとう」

 なんだかんだ、美宙も満更でもないのである。

 心なしか、広輝の耳の赤みが濃くなった気がした。




 オオオオオオオォォォォ



 何かの遠吠えに似た雄叫びが林の中に響き渡った。

 広輝と美宙が顔を見合わせる。

 瞬時の意思疎通、二人は頷き合い、声の主を探し始めた。



  ***



 彼らは気付いたらそこにいた。

 彼らの姿は、頭に小さな角を一本か二本生やした三等身の鬼。背丈は近くにいる男の膝くらいしか無く、皮と骨しかなさそうな青黒い手足。マスコット的な可愛らしさはなく、どちらかと言えば醜悪な見た目である。人によってはキモかわいいというかも知れない。 

 布切れ一枚がマントのように掛けられているだけで、足首ほどにも積もった雪の冷たさや痛みに感じるほどの冷気を防ぐものはない。

 生み出された八体が、何かを考え始める前に一斉に両腕を抱いて凍え震え始めた。

 そこでようやく周りを見る。変な生物が、自分と同じように凍えている。彼らは自分が周りの鬼と同じ姿だと認識できていない。そして自分が何者かも、この白い森がどこなのかも、何もかも分からない。

 寒さから逃れたいが、彼らに暖を取らせてくれるものは見当たらない。

 唯一の手掛かりはこの不気味な男。高い木々と一緒に彼らを不気味に見下ろしている。男は何か話し始めたが、彼らは寒さでそれどころではない。生き残る事柄以外の情報は全てシャットアウトされた。

 だから、最後の一言が彼らを焚き付けた。

『全員やっつければ、ここから出られますよ』

 開戦の合図だった。

 震える足を踏み出し、かじかんだ手で誰もわからない奴を叩いた。

 それはとてもダメージを負わせるには至るはずもなく。

 しばらく子供の喧嘩のように叩き合っていると、一体の鬼が自らの角をある一体の胸に突き刺した。

 刺された鬼は白目を剥いてすぐに絶命。角が引き抜かれ、雪の上に倒れると、藍色の光の粒子となって、突き刺した鬼に吸い込まれていく。

 そして、少しだけ成長した。骨が若干太くなり、筋肉も気持ちだけ増す。大きな変化は無かったが、他よりも強くなったと理解した。

 それを見た他の鬼が同じように、目の前の鬼を突き刺して、同様の成長を遂げる。

 動き続けたことで体が温まったのか、寒さへの耐性を得たのか、成長した四体の鬼は震えていなかった。

 お互いを見合い、牽制する。雪の下に見えた太めの枝や小石を拾い上げ、己の武器として使い、サバイバル戦を再開した。また木の陰に隠れて盾として使うなど、叩き合うばかりだった鬼たちに思考が付き始めた。

 鬼たちはいつの間にか姿を消していた男の事をすっかり忘れ、ただただ他を倒すことに専念する。本当に倒すべき敵なのかも考えること無く。

 そうやって数日が経過し、ついに決着が付いた。

 他の七体を吸収した一本角の鬼は、身長一メートルほどになっていた。手足が長く、鬼と猿が融合したような身体に変容している。加えて、人間相当の知識と思考を取り戻す。

「オオオオオオオ!!」

 空に向かって雄叫びを上げていた。

 思い出したのだ。ここに在る前の事を。

「やってくれるぜ、あの野郎」

 恨み、怒り、出し抜かれた悔しさが滲む。

 すぐにやり返しを考え始めた。

「まずは身体だ。これじゃあ、返り討ちにされちまう」

 前のよりも貧弱そうな肉体。数日使い続けたとは言え、靄がかかったような鈍い思考のまま動き続けた。現段階では、十全に慣れているかも怪しい。力の使い勝手も異なる。

 幸か不幸か、あの男は近くに居ない。準備するくらいの時間はありそうだった。

 しかし、それを許さぬ存在が遠くに現れる。僅かな風に乗って会話が少しだけ聞こえた。

「一体だけ?」

「報告より体が大きいわね」

 青いマフラーをした少年と、少年より頭一つ背の高い長いポニーテールの少女。二人とも刀を腰に据えていた。

 鬼は取り戻した知識から状況を察する。

 自分が討伐される側だと。

 刀は岳隠の天子の特徴。この矮小な体の今、子供も侮れない。

 命の危機から逃げる算段を始める。

 少年ーー広輝ーーたちは鬼の様子を覗っている。即抜刀、即討滅では無いらしい。おそらく"報告"との差異を整理している。

 タイミングを見計らうか、今、逃げ出すか。

 鬼は一歩後ずさった。

 逃げそうな仕草に広輝が声を出す。

「あ」

「くそ」

「待て!」

 鬼は一目散に林の奥へと駆け出し、それを広輝が全身に天力を纏って鬼を追う。

「コウちゃん、待って!」

「大丈夫! みい姉は待っててもいいよ!」

「そんな訳にいかないでしょ! ったくもう」

 美宙の制止も聞かず、広輝は鬼を追う。

 遅れて美宙も天力を纏って広輝に続く。小さくなっていく広輝の背中を見失わないように専用端末で情報の差異を天宿に連絡する。

 情報の差異を伝えながら、美宙は自分が焦っていることに気づく。見つけた鬼の見た目は猿っぽい。変わった姿だが、どうみても小物。広輝だけでも何ら問題はないはずである。

 それでも嫌な予感が消えない。美宙の心に警鐘が激しく鳴っている。

 端末を切り、見失いそうな広輝を必死に追う。天賦の才能が美宙にあるが、直線を駆けるスピードだけは広輝に分がある。出遅れた今、簡単には追いつけない。

「コウちゃん! 止まりなさい! コウ!!」

 聞こえないのか、指示を無視しているのか、広輝は止まらない。

 小さくなった背中が木の陰に入り、見えなくなる。

 歯を食いしばり、全力でその場所へ到着するも、二人の姿はない。

 三百六十度周囲を見渡して捜すが、美宙の勘にひっかかる跡も無い。

 足跡を辿るも急に途切れた。何者かの工作、もしくは美宙への認識阻害、はたまた結界の類か。

 美宙は完全に広輝たちを見失ってしまった。


  ***


 広輝は鬼の背中を捉えると、鬼の前に回り込む。

「やっと追いついた!」

「くっ」

 広輝の間合いの二歩外。天力を纏っている今、十分に射程範囲内。

「地獄だったけどやっておいて良かった[白銀編]」

 岳隠支部名物(悪い意味で)の地獄の特訓メニュー『あいつを超えるならまずはこれを超えてゆけ!』の一つ。

 凍え死にそうな氷点下の中、一週間にも渡る雪山サバイバル&戦闘訓練を行う。ホワイトアウトしそうな猛吹雪だろうと、就寝中にテントが雪に埋もれそうになっても中止にはならない。極寒の極限状態で徹底的に忍耐力と戦い方を磨く[地獄]と呼ぶに相応しい特訓だった。岳隠幹部らは、その監督者に朱と紫色が複数人就くことで安全を担保しているつもりらしい。ちなみに、この地獄の特訓シリーズを制覇することが星月流の奥伝を教える条件の一つでもあった。

 これを乗り越えた広輝には、雪に覆われた林の中の追いかけっこはお手の物。

 睨みつけてくる鬼に、広輝は容赦なく刀を向けた。

「それじゃ、ごめんね」

「待て」

 広輝が刀を構えたままピタリと止まった。

「しゃべる、鬼……? 中鬼? その姿で?」

 少なくとも広輝は、小鬼が話すなど聞いたことがない。

 小鬼の行動原理は小動物に似ている。中鬼になれば言語を理解して会話もできるが、欲望に忠実。理性的に思考・行動するのは大鬼へと变化を遂げてからである。

 それが広輝の知識だった。

「俺はここから出ていく。だから見逃してくれないか」

 鬼が交渉。命の危機を脱しようとしているだけなら、やはり中鬼なのだろう。

 広輝は鬼の提案を断る。

「ごめん、できない。ここから離れたとしても、君が人に害を及ぼす可能性がある限り」

 剣への誓いをそのままに。天子としての戒めをそのままに。

 広輝は今度こそ刀を振り下ろした。

 寸前に鬼も避けようとしたが、避けきれない。

 右の前腕が切断され、白い地面に落ちる。血は噴出せず、肉の断面が露呈した。

「ぎぃやあああ!! 手が、俺の手があああ!」

「っ!」

 鬼の絶叫に、広輝の顔が苦しそうに変わる。言葉を交わしてしまった、感情を確認してしまった。広輝の中ではただの妖魔ではなくなってしまった。

 意思疎通できる命を奪う。

 広輝はまだ割り切れていなかった。

 それでも天子の役目を負い、これが誰かを助けることになると信じ、理性で感情を制する。

 再び逃げ始めた鬼を追う。

「っくそが!!」

 どうあがいても鬼は広輝から逃げられない。スピードは広輝の方が格段に上である。

 数秒後には背中から斬殺される。

 命の危機に鬼は腹をくくる。

(一か八か。もし殺されたら、あの野郎にしてやられた時に決まってたってことだ)

 風前の灯となった命を賭けての大勝負。

 鬼が振り返ると、空中に刺突の構えの広輝がいた。右半身と右腕を前に突き出すだけで刀が鬼に突き刺さる。

 覚悟を決めた今、鬼はあっさりと観念し、自ら胸への刺突を受け入れた。


  ***


 焦燥に駆られる美宙は、縦横無尽に捜し回っていた。

 広輝たちの痕跡の消し方が、結界ならばそれは往々にして魔力によるもの、認識阻害も天術よりも魔術や妖魔の力によるものが多い。故に足を使って魔力の気配を探すが、何も引っかからない。

 天宿にも連絡し、応援を要請。最大限のバックアップを力の限りお願いもした。

(なんで今日に限って)

 簡単な任務をやって帰る。その間にみんなが誕生日会の準備をして主役を迎える。岳隠ではありきたりのパターンだ。

 だから広輝も分かっていて誕生日にわざわざ任務を受けている。

 心をざわつかせるこの不安と悪い予感が杞憂に終わってほしいと美宙は願うばかりだった。

 真冬の雪模様の中、額に汗がびっしり滲む。

 十分は捜しただろうか。

 視界の端に人影が映った。

 青いマフラーに右手に刀。間違いなく広輝だった。

「コウちゃん! やっと見つけた」

 ほっと胸を撫で下ろし、広輝に駆け寄る。

 見たところ怪我はない。すでに討滅したのか、逃げられたのか、鬼の姿はない。

 事前情報とは異なる予定外の敵、逃していたとしても今日は中止。独断専行を叱って帰るだけ。美宙はそのつもりだった。

「一人で先走っちゃダメでしょ! 何かあったらーーっ!?」

 近づいてきた美宙に向かって、広輝が刀を雑に振る。

 美宙は大きく跳んで後退。辛うじて間に合った。

「コウちゃん!?」

 広輝は、まるで初めて体を動かすかのように手足の感触を確かめていく。

「なるほど、こういう感じか。悪くない」

 広輝らしくない口調。広輝らしくない不気味な笑み。

 美宙は心をすっと冷静に鎮める。

 美宙は柄に右手を置き、広輝?を見据える。

「誰?」

 目の前の少年は広輝ではない。広輝の姿をした何か。広輝はそんな汚い雰囲気を漂わせない。

 広輝?は視線を上げ、美宙をじっと見つめると、ニヤリと口角を上げた。

「お前、[火剣]だな?」

 広輝?は美宙に答えない。一方的に確認する。

「だったら何?」

「さて、こいつに眠る力とお前、どっちが得になるかな」

 広輝?の言い方で美宙の考えが組み上がる。

(許せない)

 美宙の怒りに火がついた。

「コウちゃんから出ていきなさい。さもないと」

 左の親指で刀の鍔を押す。

 広輝の中にいる何かへの警告だったが、逆効果になった。

「さもないと? 殺すか? 俺を。この身体ごと!」

 それは広輝の体を使って、美宙に斬りかかった。広輝の剣術そのままに。

「くっ」

 美宙は抜刀し、刀を受け止めるも、鍔迫り合いになった。少し動揺が生まれた。広輝との鍔迫り合いが初めてだったから。生身だけでも、天力を使っても、広輝が美宙に力で勝ったことはなかった。

 広輝の顔をして、広輝がしない顔をしやがる。

 美宙は半歩引き、広輝()の刀を外へ逃す。その流れを利用して、体勢を崩した広輝()に斬りかかる。

 広輝()は天力を集めた足で無理やり地面を蹴って、前傾姿勢になった体を前へ脱出させた。雪の上を転がって、立ち上がった所に美宙の刀が降りかかる。

 刀で弾くも、美宙は連撃で刀を振るう。

 広輝()も刀を使いながら防戦。その躊躇の無さに苦笑した。

「おいおい、良いのか? この体に剣を向けて!? 泣いてるぜ! 『助けて、みい姉』ってなあ!!」

 美宙の連撃が止んだ。

「そう、そこにいるのね」

 それは躊躇ったからじゃない。

 叱咤する為だ。

「広輝! しっかりしなさい!」

 乗っ取られていても眠っていないなら、そこに意思があるのなら、主導権を握れるはず。

 美宙は広輝に檄を飛ばす。

 この後には、楽しいことがあるのだから。

「そんな奴さっさと追い出して帰るわよ! ユキちゃんも、千花も、みんなあなたを待ってるんだから!」

 刀を下ろした美宙に広輝()が容赦なく斬りかかる。

 再びの鍔迫り合い。これは美宙の望むところだった。より近くから伝えられる。

 美宙が深く行きを吸った時、広輝()に変化が現れた。

「無駄無駄あ! この体は俺がもらーーっ、く」

 広輝()の顔が歪む。それはきっと抵抗の証。

 内側で戦い始めたのだ。

「コウちゃん!」

 広輝()は鍔迫り合いを止め、大きく後ろへ跳ぶ。俯いた額を左手で抑え、体がふらふらと揺れる。

「コウちゃん! そのまま勝ちなさい!」

 広輝()は強く歯を食いしばり、額に青筋が浮かぶ。

 目が大きく開かれ、白目が血走っていく。

 十数秒膠着が続いた後、広輝()は背中を仰け反らせ、空へ向かって絶叫した。

「黙ってろや! クソガキがああああああ!!!!」

 全力で力んだ体から一気に力が抜ける。刀の切っ先が積もった雪を斬った。

 反った背中が前に傾く。

 広輝が勝ったのか、別の何かが勝ったのか。まだ分からない。

 広輝の体は刀を握り直すと、顔を上げて美宙の視線に真っ向から対峙した。

「わりいな。完っ全にもらったぜ?」

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