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いつか、君の隣へ  作者: U
第三章 欺瞞、憎しみの行方

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第十二話 風上広輝[急]

ゴールデンウィークの連日投稿3/8日目。

毎話、午前9:00に投稿します。

 広輝は病院ではなく岳隠支部へと運ばれ、岳隠御用達の医師と治癒が得意な天子(通称:治癒術士)によって診療と治療を受けた。

 娘息子が鬼に襲われたと一報を受けた両親は天宿に急行。まずは笑顔で出迎えてくれた絆創膏とガーゼまみれの幸穂に驚き、それは擦り傷などの軽傷で命に別状がなく安堵に胸を撫で下ろした。

 その後、天守たちから事の顛末、医師たちから眠ったままの広輝について怪我の程度と経過の説明を受けると母親の美幸(みゆき)は卒倒しそうになった。天宿の侍女だった頃から切った張ったの話は不得手であり、あまりに悲惨な話の時は、細目のせいもあって座ったまま誰にも気づかれずに気絶したこともあった。それ故、それが身内の事であれば尚更。幸いにして広輝も幸穂同様命の別状がなかったので、ひとまずの安心は得たがその心労は大きかった。

 偉丈夫な体を持つ父親の勇人(はやと)は、今は天子協会の仕事から身を引いているものの天子であり、その手の話には慣れている。美幸を休ませる意味も含めて広輝を託し、ひとりで関係者に話を聞きに回り始めた。

 残された美幸は、広輝と同じくらい心配してくれる幸穂に心が癒される。部屋に吹く涼しい夏風と風鈴の透明な音色に心を落ち着かせると、美幸もまた勇人と同じように幸穂を連れて挨拶回りを始めた。

 その際に、廊下で円と美宙にばったりと会う。次の瞬間、円の顔が美幸の視界から消えた。

「申し訳ありませんでした!」

 土下座でもする勢いで、その腰が直角に曲がる。

 挨拶の「あ」の字も言う間もなかった。

「顔を上げて、円ちゃん。聞けば、幸穂が勝手に居なくなったのが原因のようだし……こちらこそ迷惑かけてごめんなさい」

「ごめんなさい」

 美幸に合わせて幸穂も雰囲気に押されて謝った。

「いえ、それも監督することが私達の役目でしたから」

 けれど円は下がらない。筋を通したがる円に対し、美幸は『困ったわ』と頬に手の平を当てて首を傾げた。

「うーん、それを言われちゃうと、麻雀なんか(・・・)にふけってた天守さんたちのお話も聞かないといけなくなっちゃうわ。いくら引率のメインが中高生で、大人はおまけと言っても、ねえ?」

 円の表情がピタッと固まる。その言い回しと例えようのないプレッシャーは、穏やかな人が出してくれるある種のサイン。

 藪から蛇が出てきてしまう。違う鬼が出てきてしまう。

 円はすぐに顔を上げて、話題を少し変えた。

「と、ところで、広輝の怪我の様子はどうでしたか。私たち片付け終わってちょうど帰ってきたばかりで」

「ーー円ちゃんに嘘ついても仕方ないわよね」

 気休めを言っても、真実はすぐに円の耳に入る。円はきっと気を遣われた方が気に病んでしまう。

 美幸は一枚の報告書を円に渡した。それは医師の診断結果が載った報告書。それを見た円の顔がみるみる暗くなってく。

「肋骨二本を骨折、同じく肋骨三本と左肩甲骨にヒビ、背中全体に強い打撲、他小さな傷多数……美宙お前」

 想像以上の怪我に、隣にいる美宙も冷や汗が止まらない。表情も固まる。とても視線を合わせられない。

 『そんな状態で戦わせたのか?』 詰まる所、円の怪訝な視線はそういう意味だった。

 美宙が傷の程度に気づかないのも無理はないと思われる。広輝の大きな傷は美宙が到着する前に受けた、鬼の横腹への一撃と川原に落下した時の衝撃である。彼女が見たのは『何故かは分からないが、立ち上がれないうつ伏せの広輝』。そのままならば重傷も疑ったが、その後は美宙に協力して一緒に鬼と戦った。

 だから美宙としては体力の限界が近いくらいにしか思っていなかった。

 言いようのない円の視線と沈黙に、このままでは叱られると直感し、弁明を試みた。

「だ、だってちゃんと動けてたんだもん。戦ってたもん! 呼吸は変だなって思ったけど、けど……ごめんなさい」

 威勢は最初だけで段々と尻すぼり。最後には自然と謝っていた。

「まあまあ円ちゃん、美宙ちゃんが駆けつけてくれなかったらもっと大変なことになってたみたいだから」

 事実、美宙が少しでも遅かったら、広輝の怪我はもっと酷いことになっていた。そればかりか命もなかったかも知れない。

 天位が白とは言え、まだ小学六年生の美宙にそれ以上を求めることは酷だった。

 美幸は膝を軽く落とし、美宙に目線を合わせる。

「美宙ちゃん」

「っ!」

 美宙は怒られると思った。鬼にも怯まずに立ち向かった美宙は目まで閉じて身構えたが、やってきたのは全く逆のもの。そっと頭を撫でられた。

「ありがとね。コウちゃんを守ってくれて」

 恐る恐る瞼を開けると美幸の笑顔があった。その笑顔が「怒られる」というフィルターを取り払われ、素直な申し訳無さが込み上がって来たのだった。

「戦わせてごめんなさい」

「そんなそんな。謝るのは私たちよ。迷惑かけてごめんね。助けてくれてありがとう」

「ありがとう。美宙お姉ちゃん!」

 幸穂の満面の笑顔に少し心救われる美宙だった。



  ***



 広輝が寝かされている場所は、十畳ほどある畳の宿直室。外来の天子が泊まる為に一部屋確保しているが、近くにある天々館のおかげで滅多に使われることはない。

 北側にあるその部屋は傾き始めた日も届かないが、代わりに開けられた障子から縁側を通って吹く風が心地良い。

 昔ながらの引き紐の付いた照明の下で、広輝が目を覚ました。

「お、目を覚ましてたか」

 傍らで看てくれていた人は、広輝の叔父にあたる勇人(はやと)。一通りの話を聞き終え、広輝の元に戻っていた。

 広輝は勇人から自分が倒れてからの今までの経緯を聞く。その間にゆっくりと体を起こし、意識を少しずつ覚醒させていった。

「叔父さん……幸穂(ゆき)ちゃんは?」

「大丈夫だ。すっ転んだみたいで絆創膏が多いけどな」

「よかった」

「お前もだぞ、広輝」

 昨年失った義姉夫婦の忘れ形見を引き取って一年。勇人にとって広輝はもう息子同然。

 無事に戻ってきてくれたことに本当に胸を撫で下ろした。

「それと、よくやった。偉いぞ」

 勇人は広輝の頭をわしゃわしゃと撫でる。それは励ましでも慈しみとは違う、褒賞の賛美。妹を守りきった兄へ、大切な存在を守り通した男への称賛だった。

 広輝の胸がぽっと暖かくなり、頬が上がる。何もできないわけじゃない、ちゃんと何かを為すことができる。それが認められて嬉しいのだ。

 それに加えてもう一つ。また少し、家族に近づけた気がした。

 広輝は"風上"の姓を使っている。勇人と美幸が相談し、無理に広輝と養子縁組はしないと決めたからだ。急に、訳も分からず失った家族との繋がりを示す名字()を、外から断つことはしないと。あくまで、広輝が名字のことを聞いてたら、改めて考えようと。

 実際、風上を名乗り続けることで、広輝はあの両親の息子であり、あの兄の弟であることを強く意識し続けることができた。決して居なかった家族ではなく、確かに存在し、一緒の時を過ごしていた大事な家族であることを。

 反面、新たな家族との距離も感じていた。久下の家の中で風上が一人。勇人も美幸も、幸穂すらもそれを気にしている素振りも雰囲気も一切なかったが、妙な異物感・孤独感がしこりとなって心にあった。自分の中にある黒いものを消す為に家族として溶け込もうと、遊んだり、笑ったり、一緒に何かをしようとしたが、その度に思い起こされる失った家族の記憶と引きずられて現れる喪失感と虚無感。それが広輝を久下の一員となることを拒み、笑い合うことをできなくしていた。

 故に、幸穂を守れたことで、家族にまた一歩近づけたと広輝は実感できた。

 そこに一歩どころではなく、決定づける存在が襖を開けた。

「あ……」

 布団から起き上がった広輝を見けると、幸穂が心配そうに広輝に駆け寄る。

 両膝を付き、布団の端に両手を置いて覗き込むように広輝の顔を覗う。

「だいじょうぶ? 痛いところ無い?」

「うん、だいじょうぶ」

 広輝は笑みにもしきれない、顔を精一杯に頬を上げて幸穂に微笑みかける。

 すると安心したのか幸穂は広輝から顔を離し、正座のような姿勢になった。そしてすぐに、すとんと腰が落ちて膝が広がり、唇が震え、目から涙が一気に溢れ出て、頬を伝い落ちる。

「よかった、お兄ちゃん(・・・・・)が無事で、よかったよお」

 その涙と共に溢れ出た素直な思いが、広輝の胸の奥に届いた。

 呼び方一つ、呼ばれ方一つ。たったそれだけだと思われるかも知れない。けれど広輝にとってそれは、とても大きなことだった。かつて自分が兄を同じように呼んでいたから、ある意味、そうやって呼ばれることが広輝にとっての区切りだった。

 幸穂の両手で涙を拭うも一向に止まらない。幼い泣き声が廊下まで届く。

「ゆきちゃんは……」

 『大丈夫?』と言いかけて止めた。

 絆創膏やガーゼは手足だけじゃない。頬や額にもある。

 天子の広輝と違い、治癒はできない。自然治癒に任せるしか無い。広輝の方が大怪我だったというのに、治療を終えた今は幸穂の方が傷が目立つ。

 声をかけ掛けられた幸穂は涙の向こうに心配そうにする広輝を見つけた。

 心配される側に心配されている。

 幸穂はぴたりと泣き止み、両手で涙をゴシゴシと拭き取った。

 そして見せるのだ。満面の笑みを。

「へっちゃら!」

 それからもう一つ。一番言わなきゃと思っていた感謝を広輝へと。

「それと、助けに来てくれてありがとう!」

 その言葉に広輝はまた一つ救われる。

 誰にも言わずに守ると決め、守る為に体を張り、守りきってここに居て、守った相手からお礼を貰う。その一連の流れが広輝を一つ大きくし、決して独り善がりではなかったのだと安堵した。

 だから広輝は決意した。

 少しだけ和らいだ笑みを幸穂へ浮かべると、真剣な顔を勇人へ向ける。早速決意を行動へ変える。

「叔父さん、美宙姉ちゃんと慧兄はどこ?」

「ん? ……その内来ると思うが、こっちから行くか?」

「うん」

「立てるか?」

「大丈夫」

 立ち上がる時に少しふらついたものの、広輝は一人で歩を進めた。




 まずは美宙の所に顔を出した。

 一緒に居た美幸から体の調子を丹念にされた後、幸穂が広輝に言ったようなお礼を広輝が美宙に言うと、美宙は何故か複雑な表情を浮かべる。

 『どういたしまして』も言うのでもなく、口をもごもごさせていたが、円の圧に押されて広輝に頭を下げると、逆に慌てた久下夫妻と広輝から頭を上げさせられた。

 その後、円に慧輔の所在を聞き、広輝と勇人は天守の部屋へと向かった。

 中には慧輔の他に天守である泰平と鷲一、鷹之が控えていた。

 目覚めた広輝の体の調子を訪ねた後、天守が改めて詫びる。

「改めて済まなかった」

「もういいですって、天守。こうして息子も無事ですし、身の程知らずな小鬼すら近づかない支部近くに中鬼が出るなんて誰も想像しませんて」

 そう、天守の責任ではない。あの場の引率者は自分だと慧輔は腰を直角に曲げる。

「僕らの監督不足です。申し訳ありませんでした」

「だから良いって。顔は似てないくせに律儀なところそっくりじゃないか、泰平さんよ」

「はっはっは。俺の息子だからな」

 勇人は褒めたつもりはなかったが、それを理解したうえで泰平は満足そうである。

 言っても無駄だと小さな溜め息を付くと、本題を切り出した。

「全くだ……そうだな、簡単に許されるのが納得いかないなら、広輝の願いを聞いてやってくれないか」

 広輝が驚いて叔父を見上げる。一言もお願いについて言っていないのに。

 勇人からいつもの笑顔が返ってくる。

「なに、女心はまるで分からんが、男心なら簡単だ。俺も男だからな」

 勇人は広輝の変化を見逃さなかった。決意を固めた幼くも男の顔を。

 広輝が勇人の察しの良さに固まっていると、慧輔が片膝を付いて目線を合わせてくれていた。

「広輝、済まなかった。ちゃんと見ていなくて」

「ううん、助けてくれてありがとうございました」

「それで、お願いって?」

 慧輔の表情は穏やかだ。慧輔の中の広輝は『事故で家族を失った天子であり、世話になっている勇人が引き取った男の子』で止まっている。広輝があまり言葉を交わしてこなかったので無理はない。だからあくまで、小学三年生の男子のお願い程度のことだと思っていた。

 それ故、息を飲み、緊張した表情の広輝に違和感を覚える。一度深呼吸し、意を決したその顔はその小さな体以上の並々ならぬ覚悟。慧輔の心の準備ができる前に、広輝が言った。

「ーー僕に、剣術を教えてください!」

「……いや俺は」

 そのお願いは、慧輔の想定の範囲内だが、広輝の本気度は予想外だった。

 今までも教えを請われたことは何度かある。けれど慧輔は首を横に振り続けていた。だから今回も申し訳ないと思いながらも断ろうとしたが、泰平が補足を入れてくる。

「ちなみに広輝(その子)は稽古で儂と鷲一、鷹之の剣も見ている。ま、教えることの始め時ってことだな」

「父さん」

「お前は伝承者の資格もある。お前が決めろ、慧輔」

 泰平は強制しない。あくまで慧輔の意思を尊重する。

 ただ、広輝の意思も(ないがし)ろにするな、という暗のメッセージだった。

 慧輔は真剣な眼差しを受け止め、これからの為に対話を始める。

「いくつか聞かせてくれ」

 このコミュニケーションを取りたがらなかった広輝と。

「なんで俺なんだ」

 一番の疑問だった。広輝は慧輔以上の達人の剣を見ていながら、広輝は慧輔を指名した。教わる側からしても、教えることに慣れた彼らの方が広輝の為になるはずである。

 広輝は持てる言葉で慧輔に答えていく。

「"これだ"って思ったから。鬼を斬ったあの剣が」

「見えていたのか?」

 もしもあの術技を目で追えていたのなら、天禀の才である。三人目の神童となっただろう。

 広輝は首を横に振る。

「でも"これだ"って思ったから……」

 これ以上に自分の心を説明できる言葉をまだ持っていない。

 慧輔は広輝の直感を理解し、少し湧きだってしまった心を鎮めて続ける。

「次の質問だ。何の為に剣を覚える?」

 岳隠の天子として剣術を習う時、このような問答はない。習いたければ気軽に入門できる。

 それ故に、何故そちらではなく慧輔から習おうとしているのか。それを見定めていた。

 広輝は知りうる言葉の中で一番心に合ったものを、間違えないように慎重に紡ぐ。

「守る、ために」

「何を」

「妹を、家族を、です」

 もう何も失いたくない。ただその一心だった。いつ訪れるかわからない危機に、合わない道を歩む余裕はない。

 広輝は幼心に登る山を見定めていたのだ。どの道が、どの山が家族を守れる山なのかを。決して意識してではなかっただろう。比較している意識もなかっただろう。ただただ自分に合った山はどれなのかを探していた。

 富士のように高く美しい山なのか、アルプスのように荘厳に連なる山々なのか、高くはないが幅広くなだらかに広がり四季の美しさを体現する明瞭な丘なのか。

 そして見つけた、心が合致する()を。

 広輝の答えは明確。その目的意識は慧輔が納得するには十分だった。

「最後の質問だ」

 広輝が息を飲む。

「お前は剣に何を誓う?」

 道を間違えないように、間違えそうになった時に軌道修正できるようにする為の始まりの誓い。

 加えて、いつか必ず原点回帰する時がやってくる。その時にまた、原点から道を探し出させるようにする為の誓い。

 そういう為の儀式のつもりで慧輔は聞いたのだが、予想外の返答が返ってきた。

「……ちかう??」

 語学の未熟。理解したつもりだったがまだまだだったらしい。

「えーっと、約束? いや弱いな。なんて言えば良いんだ」

 慧輔が広輝を指導していくならば、今後もぶつかる壁である。泰平たち岳隠の天子は、広輝だけでなく他の後進の為に、心を鬼にして口を閉じて見守ることにした。

 反対に勇人は、広輝の為に慧輔に助け舟を出した。

「広輝、これからお前が習う剣術は、ずーっと死ぬまで一緒にいることになる。そんな相棒に何を約束できる?」

「??」

「そうだな。例えば俺は、お前を引き取る時、死ぬまで一緒にいる自分の心に約束した」

 勇人は両腕を組んで、伝えるつもりはなかった自らの誓いを告白した。


「広輝、お前を本当の息子だと思うことを。誰が何と言おうと、お前がどうなろうと、俺はお前を息子として愛し続けると約束した」


 不意打ちだった。

 勇人としては"誓い"が何たるかを教える為だけだったのだろう。

 しかしそれは広輝にとって、この上なく嬉しい誓い。無類の愛情の証。

 広輝はその幸福感と共に、約束と誓いの違いを心で理解した。

「広輝はこれからずっと一緒にいる剣術に、剣に何を約束する?」

 ちょっと待ってほしいと思った。

 父親からの卑怯な不意打ちを受け止めることで精一杯だ。

 心から湧き上がるものがあり、胸が逼迫して呼吸が短くなり、喉が痛いほど震え、涙袋いっぱいに涙が溜まる。

「僕は、僕は……」

 急に涙ぐんだ広輝に、何故か勇人がきょとんとしている。男心は解るのではなかったか。

 岳隠では広輝に起きたことを時々見ることがあった。無いと思っていた愛情が実はあったと知った時、愛情というものを初めて知った時、彼ら彼女らは涙を流すことがある。それまでの悲しい涙ではなく、嬉しい涙。

 慧輔は黙って広輝が落ち着くのを待った。広輝は今この瞬間、一皮むけたのだから。先程までよりも良い答えが返ってくると確信していた。

 広輝は必死に呼吸を整え、両腕で涙を拭き取り、誓いの言葉を述べる。

「『護り続ける』ことを誓います」

 嬉し涙を溜めた目で力強く慧輔の問いに答え、慧輔は広輝に剣術を教えることを決めた。



 その後広輝は、勇人と美幸に"久下"を名乗らせてもらえるよう願い出る。

 二人は広輝の成長を受け止め、風上夫妻の息子であること、大輝(だいき)の弟であることを決して忘れないことを約束して、養子縁組を結ぶ。

 広輝は晴れて"久下広輝"として再スタートを切ることになった。


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