第四話 初任務
望月町は鳴上市の北と西側に隣接する、りんごと梨が特産品の長閑な町である。
望月町の南東部は、鳴上市北西部の工場に勤める人たちのベッドタウンとして開発され、人口の過半数がそこに居住している。
優里菜と広輝の初任務の地となる廃工場は、望月町の東部に位置し、かつて望月町の役人が鳴上市と競い誘致した工場跡だった。
しかし、誘致に成功したのは良いものの、交通の便を整えきれず、バブルの衝撃も重なって工場は閉鎖された。そんな望月町にとって負の遺産ともなった廃工場に近寄ろうとする人は皆無だった。
故に、車を運転できない二人は、望月町の駅から大枚をはたいてタクシーで移動したのだった。
「変な目で見られてたね」
「仕方がない」
先月中学を卒業したばかりの男女二人の子供。地元の人も近寄らない廃工場に一体何の用事があるのか。しかもお小遣いの範囲を超えた金額を躊躇なく支払う。タクシーの運転手からすれば奇妙なことこの上なかった。
廃工場の正門まで送り届けてくれたタクシーを姿が見えなくなるまで見届けると、廃工場を振り返る。
正門は長年放置されていて錆びついていた。正門を施錠する南京錠も同様に錆びていて、預かった鍵で開けられるか怪しい。
広輝は上着のポケットから預かった鍵を取り出すと、南京錠の前で片膝をつく。
「おっと」
左肩にかけたゴルフのクラブケースがアスファルトの地面についた。肩掛けが浮いて倒れそうになるところを南京錠の鍵を持った右手でかけ直す。
この黒いクラブケースにはゴルフクラブではなく広輝の得物・太刀が入っていた。広輝が持ち運びやすいように色々試してこれに落ち着いた。
「持ってようか?」
優里菜が差し伸ばした手はただの親切心だった。肩にかけたままではやり辛いだろうという、ただそれだけだったのだが。
「…………」
広輝にまたじっと見られた。
悪いことを言ったつもりはないが、何か気に障ったのだろうか。
「嫌なら、いいけど……」
優里菜は引き下がろうとしたが、広輝が否定する。
「違う。ぞんざいに扱われないかと思ってたけど、そんな事しなさそうだって考えてただけだ」
広輝は立ち上がって肩からクラブケースを下ろし、クラブケース越しに太刀を掴んで優里菜に太刀を手渡した。
「頼む」
「うん」
太刀の向こうに映る広輝が胸元に付けた一輪の花が描かれた真円のバッジは、天位・黄になると発行されるピンバッジであり、天子が職務中に付けるバッジ。金メッキがされているが、年月と共にメッキは剥げて、内側の銀が露わになる。このメッキが落ちても天位が黄色のままだとかなり恥ずかしいので、天子の中でも黄でいる期間が一番短いと言われている。広輝のバッジは金と銀が半々くらい。
(あれ、記念館の時、付けてたっけ?)
ふと、そんな疑問がよぎったが、すぐに忘れた。
広輝から太刀を受け取ったから。
(おもっ)
広輝の太刀は優里菜が想像していたよりもずっと重かった。優里菜は太刀を落とさないように両腕で抱えるように持ち直した。
広輝は再び片膝をついて、古く錆びきった南京錠に鍵を差し込む。
「…………」
開かない。
鍵は挿すには挿せたが回らない。予想通りではあったが、もどかしい。
広輝は思い切って力いっぱい回してみた。
パッキーン!
「…………」
「…………」
広輝は鍵を開ける姿勢で固まり、後ろで鍵が開くのを待つ優里菜も音でだいたいを察していた。
「……あ、開いた?」
もちろん違うだろうことを分かってはいたが、希望的観測で覗き込みながら聞いてみた。
「これ、オレが悪いのか?」
広輝の手には、見事に真っ二つになった鍵が残っていた。
残念すぎて、優里菜は苦笑する以外何も言えなかった。
広輝はすぐに思考を切り替え、南京錠は天術で切断し、無理やり正門を開ける。
続けて優里菜が大事に抱えてくれていたクラブケースを受け取ると、中から太刀を取り出す。そして手慣れた様子で佩緒を結び、太刀を佩いた。
優里菜は、広輝の纏う空気が変わったのが分かった。太刀を装備した広輝こそが戦いの為に精錬してきた姿なのだと。
広輝は太刀を入れていたクラブケースを正門に括り付けると、一言優里菜に告げる。
「行くぞ」
ここからが本番だと。
「はい」
優里菜は気を引き締めて、広輝の後に続いた。
中鬼が徘徊しているとされる場所は工場のほぼ全域。屋外屋内関係なく徘徊しているらしい。律儀に扉を開閉して。
この工場は東西に長い棟が六棟あり、その棟をつなぐ橋が二階部にあり、上から見ると王の字を繋げたような形をしている。
広輝たちは工場のまず西端にある正門から中央を目指した。
少なくとも今の建物の間に中鬼は見られない。広輝たちは周囲の音に注意して歩を進める。長年放置されているだけあって建物の損傷が激しい。壁面だけ見ても錆が侵食し、錆の赤と黒が支配していた。ガラス窓も風化によって割れているか、白い埃によって分厚く曇っている。
時期が時期なら心霊スポットとして無茶な若者たちに人気になりそうだ。
……実際にいるから質が悪い。
天子は常人には見えないものが見える。
「ねえ、広輝くん」
優里菜は彼ら(彼女ら?)を浄化して成仏させて上げたほうが良いのではないかと霊を見ながら声をかける。
左後ろを歩く優里菜の視線を追うと、棟の壁を背にして地面に座る数人の霊が見えた。
「それは任務外だ。悪霊でもなさそうだから放っておく」
広輝は優里菜の視線から優里菜が言いたそうな事を察し、優里菜の提案を退ける。
「そういう任務が来たら受ければいい。白でもこなせるだろう。だけど今日は、そんなことに気を回している余裕はないはずだ」
広輝は振り返ることをしなかった。広輝は優里菜と同じくらいの背丈。同い年の男子の中でも小さい。それでも背中越しの声は、年や声質に不相応の迫力があった。
「――はい」
優里菜は広輝に注意され、余計なことを頭の中から排除する。今日の相手は中鬼。優里菜が油断できる相手ではない。
建物を繋ぐ渡り廊下の下に着いたところで広気が足を止めて振り返った。太刀が当たらないように反時計回り。
「優里菜はあっち捜して、オレはこっちを捜す。見つけたら無理に戦わずに連絡すること」
広輝は優里菜に単独で北側を捜索するよう言っていた。
「!?」
優里菜にとって思いがけない言葉に優里菜の表情が固まる。
そんな優里菜をお構いなしに「頼んだ」と言い残すと、壊れて半開きになっていた扉から工場内へと入っていった。
優里菜は広輝が消えていった先をしばらく見つめていたが、二人一緒に捜すという無為な希望を捨て、覚悟を決めた。
携帯の電波も辛うじてある。迷っても何とかなるだろう、と優里菜は広輝が入っていった反対の建物の中に足を踏み入れた。
「…………」
建物の中は静かだったが、金属と金属の錆びた臭いが酷い。
ベルトコンベアだった物などが東西に伸び、それが四列に並んでいる。背の高い機械もいくつかあり、優里菜の場所からはこの建物の全容は把握できない。二階には壁沿いの歩廊と南北に内部を行き来するための歩廊があり、途中途中にその歩廊に上がるための階段もあった。天井に目を向けると体育館でよく見るような金属の梁に照明が並んで吊っている。規則的な並びの中で照明が無い場所は、照明が落ちてしまったと推測する。
優里菜はこの建物の中に中鬼がいないか把握するため、二階部の歩廊に上ることにした。
中鬼がいた時のために、移動は抜き足差し足で。可能な限り静かに移動した。
階段の手摺は錆びて入るが、優里菜の体を支えてくれないほどではなかった。壁沿いに走る大小様々な配管とラックに乗ったケーブルの束を横目に階段を上る。
二階に到達し、一階を見下ろす。ここからも標的の姿は見えない。北側三棟あるうちの一棟目。ここにいなくても全くおかしくない。
優里菜は棟内の南北を渡る歩廊で棟内を見渡す。物陰にいる様子もなく、この棟に中鬼はいないようだ。
少しだけ安堵し、錆びた歩廊の錆びた手摺に左手を置いた。そして少しだけ体重をかけた。少しだけ。
バキッ
嫌な音。
左手に支えを感じない。
体が傾く。
脚で体を戻すのは不可能。
反射的に右手を延ばす。
指先が歩廊に触れるも支えるに至らず、指が滑る。
落下が確実になった。
優里菜は体を反転し、天力で体を纏った。
天力で体を纏うと身体能力強化などの作用が起こり、体が頑丈になる。
欲を言えば、水守も発動させたいが、今の優里菜では間に合わなかった。
「っ!」
辛うじてできた受け身が落下の痛みを和らげる。
しかし、そこからさらに落下した。
「!?」
優里菜が落下した衝撃で床に穴が空いたらしい。
優里菜は訳が分からず暗闇に落ちていく。
優里菜は今度こそ水守を発動させた。無詠唱で。
水守が地面に衝突してほんの少し落下速度が落ちる。
優里菜は水守が地面にあたったことで、そこに地面があることがわかる。
先の見えない落下だったが、優里菜は見事に受け身を成功させた。
一階に落ちてから一秒に満たない時間だったが、優里菜にはもっと長い時間に感じられた。
「痛っ…………」
天力を身に纏い、水守に受け身を重ねても落下の衝撃を完全には消しきれず、体に痛みが残る。
鼻につく土のにおいと手のひらにつく土の感触。
優里菜は髪と服についた土を払いながら立ち上がり、自分が落ちてきた天井を見上げる。
楕円が歪んだような穴が空いていて、優里菜が思った以上に深い場所に落ちたようだ。上の方はコンクリートの層があるが途中から土の層に変わっていた。優里菜の目測で四から五メートルほどだった。
天井から差し込む光が舞い上がっている埃で少し鈍い。だけどその光のおかげで周囲の様子が少しだけ分かった。
優里菜が落ちた場所は通路のようで幅は二メートル弱。優里菜が両腕を広げれば両方の壁に届くくらい。そして前後ろ両方に通路が広がっていた。
優里菜にはこの通路を上の工場と照らし合わせ、通路がどのように走っているかなどわかるはずもなかった。
この通虚は天井から差し込む光以外に明かりがない。優里菜は周囲を照らすために任務用に支給されている専用端末を取り出し、照明を付ける流れで画面を見る。残念なことに電波状況は圏外と表示されていた。
「…………」
念の為、私用のスマートフォンを取り出して確認してみたが、残念なことに圏外だった。優里菜は諦めの溜息をついて、私用のスマートフォンをしまう。
専用端末の無線の機能を使って広輝に連絡を取ろうかとも思ったが、周囲を調べてからにすることにした。端末の照明をつけて、通路を進む。
しばらく進むと土の路と土の壁が石に変わった。石と言っても雑多に大小の石が並んでいるのではなく、石板が規則正しく敷き詰められていた。明らかに人が手を加えた跡である。
暗闇の中、優里菜の足音しか聞こえなかった。暗所恐怖症だったり閉所恐怖症だったら取り乱していたかも知れない。
背後にも気を配りながら進んでいくと、重厚そうな鉄の扉に辿り着いた。
鍵がかかっていたら壊すしかないと思ったが、幸いドアノブは回り、力いっぱい引くと扉が開いた。
天力を纏って、無理やり扉を開けきる。蝶番が軋む音を終始上げていた。
扉の向こうは開けた空間だった。扉で区切られていたおかげか、土埃っぽくはなかったが、今度は埃っぽい。
中を調べると何かの十畳ほどの部屋のようだった。
一辺の壁一面には空の本棚。古めかしいランプが優里菜が入ってきた入り口近くと反対側の扉、天井から二灯吊るされている。本棚の反対側には木製の机と優里菜の背丈ほどの本棚が一つ。こちらの本棚には何も入っていない。そして一番の特徴が、床いっぱいに描かれた魔法陣だった。
「…………研究室?」
優里菜にはこの魔法陣が何を意味するかはわからない。
そもそも天子が魔法陣を使用することは少なく、ほとんどが詠唱のみによる天術の行使だった。魔法陣を利用する場面と言うと、詠唱だけでは行使不可能な身の丈に合わない天術を使う時か、誰かと協力して天術を行使する時くらいだった。
ここで一人で考えていても仕方がない。優里菜は広輝との合流を優先し、調査を止めて、優里菜が入ってきた扉とは反対側の扉を開けた。
こちらの扉は簡単に開き、扉のすぐ向こうには人一人が通れそうな石の階段が上に向かって伸びていた。
階段の上から光は漏れていないが、上に戻れそうなことに安堵し、石の階段を一歩一歩慎重に上っていく。ここに来て、また落下したらたまらない。
階段の終着点は扉ではなく、マンホールの蓋がある天井に突き当たって終わりだった。
優里菜は端末の照明を消して、ポケットにしまう。マンホールの蓋を両手で持ち上げようとしたが、思いの外重く、持ち上がらなかった。なので、重い扉を開けた時と同じく、天力を纏ってマンホールの蓋を持ち上げる。
持ち上げた蓋の隙間から外の光が差し込むと同時に、土埃も入ってきた。優里菜は蓋を持ち上げたまま目を瞑って数回咳き込んだ。暗闇の中で開ききった目に差し込む光は眩しく、土埃は想定外だった。
優里菜は蓋を横にずらして、地上に出る。そこは木製のパレットが散らばるトタンに囲まれた物置のようだった。一旦外に出ようと扉を開けると、目の前にいたそれと目があった。
「…………」
「…………」
おそらく両者共に情報の処理が追いついていなかった。
優里菜はそれの姿を見て「あ、鬼だ」と思ったくらいに大衆が想像する鬼の姿に近かった。
体長およそ二メートル、額の一本角に牙のような鋭い犬歯。緑色の肌色にガタイの良さを見て取れる体躯。情報通りの鎧姿に加えて、ご丁寧にも右手に棘付きの棍棒までお持ちだ。
先に動いたのは中鬼だった。
中鬼は右手に持った棍棒を振り上げ、優里菜の心臓が縮み込んで優里菜は我に返る。
中鬼は優里菜の脳天目掛けて棍棒を叩きつける。
優里菜は転がるようにとっさに躱す。扉が巻き添えを貰い、ひしゃげた。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てる優里菜の都合など聞くはずもなく、中鬼は大勢が整わない優里菜に標準を定める。中鬼は棍棒を腕を閉じるように振り抜くが、優里菜が張った水守によって受け流された。
優里菜は棍棒の横薙ぎを何とか凌ぐと、中鬼から距離を取り、天術を行使する。
「水の路!」
優里菜の前に直径三十センチの三つの水の球体が横並びに生成される。一拍置いて球体から水の塊が同時に噴出。中鬼の右・左・正面の三方面を囲うように水の軌跡を描き、水を路を残す。
中鬼は正面の水塊のみ棍棒で叩き落とし、左右の水塊は鎧で受けた。しかしダメージを受けたように見えない。
天術・水の路の特徴として、水塊が辿った軌跡が残り、始めの球体に天力を補充するまたは残しておくことで、次発をすぐに撃てる利点があった。加えて、先発の軌跡を消して先発とは違うルートを描くこともできる。
優里菜は中鬼にダメージが与えられていないと見ると、違う選択肢に出た。三つの水球を結合させて一つの大きな水球を作る。そして水球の天力すべてを以てより強力な一発を撃った。
先の三発よりも大きく重たい水塊が真っ直ぐ中鬼に向かう。今回は軌跡を描かない。重い水の塊。
中鬼は躱せないと判断。両手を、棍棒を体の前に出して水塊を迎え受けた。
水塊が棍棒に激突し、棍棒を堺に水塊が割れた。中鬼は水塊に含まれた大量の水を被り、ダメージは負わないが上から下まで水浸しになった。
視界が開けた時、優里菜はいなかった。
「こっちだよ」
優里菜は中鬼の後方にいた。大きな水塊の影に隠れて移動していた。
中鬼は声がした後ろを振り向くと、今度は目の前に小さな碧い玉。
「水の衝撃」
試験でも使用した水の爆弾。優里菜はそれを中鬼の顔面にお見舞いした。
これには中鬼も首を仰け反らせ、足を一歩、二歩と後退した。兜も吹き飛んだ。しかし、膝をつくことはない。
水の衝撃の水飛沫が止むと、仰け反った首をゆっくりと戻し、目が優里菜に標準を定めた。
中鬼はその場で右足を一歩下げ、棍棒を振り上げる。水の路を叩きつけたときよりも後ろに。
優里菜がその動作が投げる動作だと気づき、体に避ける指令を出そうとした時には、すでに棍棒は中鬼の手から離れていた。
――当たる――
避けることも天術も防ぐこともできないことを悟った。
だけど、それに割って入る一刀があった。
疾風の如き一閃が棍棒を切断する。両断された棍棒は速度そのままに優里菜の左右を通り過ぎて後方に転がる。
優里菜と中鬼の間には、太刀を抜刀した広輝の姿があった。
広輝は太刀の刃が左後ろを向くように構え直し、一瞬で中鬼の懐に入る。
腰を落とした姿勢から、中鬼の右腰から左肩まで太刀を斬り上げた。広輝の太刀は鎧をもろともせずに、中鬼を切断する。
中鬼の上半分は切断面に沿って滑り落ち、下半分は後ろに倒れる。中鬼はそのまま動くことなく動かなくなった。
「…………」
広輝は中鬼を倒したにも関わらず太刀を納めない。中鬼だった残骸から目を離さない。まるでその残骸がまた動き出すことを想定しているように。
広輝は中鬼の首を切断する。
中鬼の首は体とおさらばするが、何も起こらない。自然の摂理の通り、首と体が離れただけだった。
「なに、してるの?」
優里菜が不安と恐れが混じり合ったような声をかける。
倒した敵を、決着がついた敵を意味もなく傷つけているように優里菜には見えたのだろう。
優里菜はその死体蹴りこそが[堕天子]と呼ばれる所以かとも思った。
「消えない」
「え?」
「鬼なら、魔の類なら魔力が霧散して消えるはずだ」
広輝は納刀して、中鬼だった物に触れてその残骸を調べる。
(土? ……骨格は鉄、か?)
優里菜は広輝が死体を冒涜するような人ではなくて安心した。
優里菜も広輝のすぐ左側に膝を抱えるようにしゃがみ込み、残骸に恐る恐る触れてみる。
「これは、人形?」
「多分な。ということは魔術師が噛んでるな」
天子は原則的に自然の力を行使する。そして、能力は一人に一つ。優里菜が水、広輝が風といったように。その為、人形を操ったり、物を転送したり、獣を使役したりするような術は、ほぼ間違いなく魔術だった。
「魔術師……あ」
優里菜は地下の部屋を思い出す。
床に描かれた魔法陣、大きな本棚。あそこは魔術師の|研究室(工房)で、そこを守るための兵隊と思えば納得できる。
「どうした?」
広輝が優里菜がいる左側を向く。
「さっき、魔術師の研究室? みたいなの見つけた」
「…………」
また広輝が優里菜を見て固まっている。
三度目だった。優里菜はやっぱり自分の顔に何かついているのか疑い始める。
「?」
優里菜が首をかしげると、広輝は目を伏せてゆっくりと立ち上がる。動揺を悟られないように。
「なんでもない。案内してくれ」
「うん、うん?」
優里菜は広輝の反応に疑問を持ちながらも、地下の部屋へ案内した。
天位・蒼だろうと、[堕天子]と呼ばれようと、広輝が十五歳の男子であることには変わりはない。美少女の顔が思った以上に近くにあったら動揺するのも無理はない。赤面しなかったことを褒めてあげても良いかもしれない。




