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いつか、君の隣へ  作者: U
第一章 再会、開かれた扉

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第十七話 作戦開始

 優里菜を連れ去ってきてから、初めての新月の夜が訪れる。

 日が落ち、空から茜色が消えると、昼間での空とは打って変わって雲ひとつなく、星が輝く空が広がっていた。太陽の光を受けた月の加護もなく、宇宙の姿が露呈する。月の目がなくなると魔が跋扈する。月の加護が無い時、世界を守るフィルターもない。別世界からの干渉、別次元からの介入を受ける。その逆もまた然り。外へ出る邪魔者がなくなっている。

 この時を以て、精霊力(資格)優里菜の魂()ウンディーネの杯()を使って精霊門を開く。

 長年の研究が成就する瞬間を今か今かと待ちわびていたというのに。

「お主、この場所を漏らしてはおるまいな?」

 ゲーベルは最初は故障かと思った。しかしそれは立て続けに起こる。壊れているのではなく、破壊されている。

 ゲーベルはすぐに城の最上階にある神殿にオリバーを呼び出した。

 外苑の魔道人形が次々にやられ、その信号がゲーベルにフィードバックされ続けている。今この瞬間も。

「? ああ、取り返しに来たのか」

 オリバーはなぜそんな質問をするのかすぐには分からなかったが、ゲーベルの苛つきから事情を察した。

 やっと来てくれたかと。 

「なあにを落ち着いておるか! 何の情報も無しにここが割れるものか」

 オリバーは心の中は踊っていた。「落ち着いている? ばかな、歓喜しているぞ」と。

 それからゲーベルには、広輝にこの場所を教えたことがバレると収入が減る為、冗談を言ってごまかす。

「知らんな。そこに寝てる娘か、杯に発信機でも付いてるんじゃないのか」

 ゲーベルは魔術的にこの場所を隠していても科学的な対策はしていなかった。オリバーの雷撃で優里菜の端末は壊れていたが、何かが優里菜に付いていてもおかしくはない。おかしくはないが、それならもっと早く来たはず。今、到着したならば、それなりに人を使ってこの周辺を探っていたのだろうとオリバーは推測する。

 当の優里菜は、昨日まで円柱だった石柱が、十字の台座になっており、その上に寝かされていた。昨日、オリバーの指導もあって優里菜は魔法陣の石路を水で満たした。今日の昼にゲーベルが食事に混ぜた薬と催眠の魔術によって優里菜は眠らせている。この魔法陣さえあれば、後の工程に優里菜の意思は不要、かつ後は完全な新月を待っていればよかったから。

 それなのにあと一歩のところで邪魔が入りそうになっている。ゲーベルは平静を保てなかった。

 ゲーベルは杯を手に取り、微生物すらも見逃さないかのようにじっくりと観察。杯に何もなかった。その目のまま優里菜を調べにかかろうとした。

 オリバーは絵的にも倫理的にもダメだと思って、買い出しの時に聞いた噂をゲーベルに教える。ゲーベルは優里菜の上から下まで全て調べかねない目をしていた。

「それに麓の町と村には、ここに偏屈な老人が住んでいると都市伝説のような噂があるぞ」

 余裕のない狂気的な目がオリバーを射抜く。オリバーはゲーベルが本当に強行派なんだなと改めて思った。研究の為なら倫理も道義も大した問題ではない。結果的に人を救おうが人を犯そうが、強行派にとっては些細なこと。自分の研究が最優先だ。

「嘘だと思うなら行ってみればいい。噂が本当だったと騒ぐだろう」

「お主……!」

 聞いていないぞ! と叫びそうだったが、ゲーベルは怒りのあまり、張った声が出ない。

「そう睨むな。別の可能性としては、元々この変な場所にあたりを付けていたんだろう」

「どういう意味じゃ」

「この国の隅から隅まで悪霊・妖魔退治している天会だぞ? 誰も行ったことのない場所があれば、逆にそこが怪しいってことだ」

 網羅できるはずの地図に空白ができればそこは何かがあるというサインになる。何かあるので問題がない限り、危険かもしれないので普段は手を出さない。非常事態になれば話は別になってくる。危険だが調べる価値がある場所に変わるのだ。

 今回に限っていえば、オリバーが発端なのでその線は無いが。

「貴様、まさかわかっていて」

「只の推測だ。愚推はよしてくれ。時が近いんだろ」

 オリバーはゲーベルの焦りと怒りを誠実に受けとめようとはしない。そんなことより早く戦場に行きたかったのだ。

 ゲーベルが何か言いたそうだが、動揺で言葉にならないようなので、話は終わりだとオリバーはゲーベルに背を向ける。

「契約金分の働きはする」

 どこか浮足だった足音を残しながらオリバーは神殿から出ていく。

 重い扉が閉じると、ようやくゲーベルが苛立ちを言葉にして地団駄を踏んだ。

「天術士が! ーー戦闘狂が!」



  ***



 一樹を隊長とした救出部隊は、車で行けるところまで行くと、救出班と支援班に別れた。支援班は定期連絡役と予備戦力として車で待機。救出班は麻美子たち紅が残した情報を元に魔道人形が巡回するギリギリまで城に近づいた。

 日暮れを待って、空に茜色も無くなった一九:〇〇。作戦を開始した。

 まずは陽動班が魔道人形を派手に破壊し続けて、戦力を集める。その役目を担ったのは月永の分家、永倉の三兄弟と永江の二人。広輝の次に危険と思われる役目を分家は進んで負った。

『月永の姫さん助けるのに陽本の、少年が危険に立ち向かってくれるんだ。なら、俺たちだって危険を引き受けなきゃ、立つ瀬がないってもんだ』

 永倉の長男・孝がそう言って。

 また、陽動の最終確認の時、大樹もその役に名乗りを上げるが、孝にやんわり断られる。

『悪いな、大樹。こっちには人形が大量に来る予定だ。広輝も言ってたが、フォローする余裕はないと思う。お前の役目はもうちょい先で頼むわ』

 陽動班が突入班と別れてから三十分後。戦闘が激しくなり、永江満から合図があった。

 突入班は広輝を先頭、一樹を最後尾として森を駆け抜ける。陽動班が多くの人形を引きつけているはずだが、少なからず人形の姿があった。日が落ちた新月の森。視界は暗く、夜目にも限界があるはずだった。広輝はそんな暗い森を誰よりも早く駆け、危険な場所や敵を察知し、その位置を後ろの紫鶴や当真に指示する。

 広輝が何でこんなに夜目が利くのかというと、

「岳隠の特別合宿『あいつを超えるならまずはこれを超えてゆけ!地獄の特訓[暗黒編]』のおかげですかねー」

 と広輝は言う。この暗闇でも広輝(あいつ)は絶対に遠い目をしていると一同が理解できた。

「ちなみにこの特訓[砂漠編][森林編][白銀編]って無駄に種類あるんですよねー…………はあ」

 死んだ魚の目をした広輝から要らない情報がついでにもたらされる。絶対に参加したくないと一同に誓わさせた。

 大樹はその背中を死ぬ物狂いで追いかける。木の根に躓き、幹にぶつかり、枝葉に叩かれ、土を顔につけながら。人形は前を走る天子が壊していて、その残骸を踏み越えていくだけだった。力の差を歴然と感じていた。

 一時間ほど進み続け、ようやく開けた場所に出る。そこは城門目前。あそこを潜れば本拠地だ。

 広輝たちは開ける場所の一歩手前で足を止めた。息を整えるための小休止だった。

「俺は、大丈夫です。行きましょう」

 と、勇み足の大樹を隆也が襟を掴んで引き止める。

「待て待て。疲れてんのはお前だけじゃない」

 振り返ると肩で息している者が大半だった。

「ごめんねー、大樹くん。こんなに、走ったの、久しぶりで……」

「まさか、あのペースでこの暗闇を、ずっと走らされるとは……」

 その中でも歩と七重が一番息を切らしていた。天力で身体能力を強化できても体力が無限になるわけではない。大樹は自分だけではなかったと、どこか安心した。

 校内マラソンを走るのが苦手な生徒が完走した時のような姿に、広輝は申し訳なくなってきた。

「スピード落とせとも、止まれとも指示がなかったので、大丈夫なのかと……すみません」

 指示がなかったと言い訳がましく弁明するが、我慢できずに最後には謝った。

 そこに隊長の一樹がすかさずフォローを入れる。

「時間をかければ到着が遅くなる。人形に捕まる可能性も高くなる。だからスピードを優先した」

 経験値の差なのか分からないが、この一樹(おじさん)が一番ピンピンしていた。腕を組んだその堂々とした姿は、いいウォーミングアップになったと言っているように見える。

「でも、その甲斐あって、予定よりだいぶ早く到着しました」

 隆也の言う通り、だいたい半分の時間でここに到着できている。このままのペースで行くことができたならば、日の出を見ずに優里菜を救出できると思われた。



 十分ほど休憩し、いよいよ城に突入する。

 先頭が森から出ると、城門前の地面に巨大な魔法陣が展開する。

「召喚魔術だ、備えろ」

 その魔法陣は一樹が廃工場で巨大な魔道人形と遭遇した時と同じだった。違ったのは、大小様々な魔法陣が無数に展開したことだ。

「これはこれは、手厚いご歓迎で」

 紫鶴たちに緊張が走る。巨躯の人形以外の一体一体がそれほどの強さではないことを知っていた。けれど、数が半端ではない。

 一瞬にして魔道人形に囲まれた。天宿の襲撃と同じく、形の種類が豊富だった。巨大な魔法陣からは、体長三メートルはある巨大な斧を持ったオーガが召喚された。

「広輝、隆也、大樹。お前たちが優里菜を救ってこい。オーガ(あれ)俺が引き受ける」

 正直、人数が減ってしまうのは戦力的に痛いが、仕方がない。ここを引き受ける天子たちは納得した。オーガに向かって一樹が一歩前に出る。

「はい。いいえ、隊長。再生能力がないなら、あれとはオレが相性がいいです」

 しかし、広輝が腰に佩いた太刀をゆっくり抜きながら、一樹の更に一歩前に出る。

「あいつを斬ってそのまま突入します」

「わかった。任せる」

 一樹の了解を得て、広輝は腰を落として、二人に声をかけた。

「隆也さん、大樹……しっかり着いて来てください」

 広輝はオーガに狙いを定め、駆けた。広輝の急激な動きを皮切りに、人形たちが動き出し、隆也と大樹も広輝を追う。

 大樹はすぐに広輝を追いかけ始めたはずなのに、大樹から見た広輝の背中が遠くなっていく。そして、その背中が消えた。

 次の瞬間には、広輝がオーガを一刀両断していた。

 広輝は一気に速度を上げて、斧を振りかぶったオーガの足元に移動したオーガの右腰から左脇下に居合の如き一閃。太刀から真空の空破斬を放った。太刀から放たれ、拡張された斬撃が容易くオーガの胴体を斬る。オーガの上半身が大樹たちの上に倒れるように崩れるが、地面に落ちる前に下半身と共に消え去った。この巨大な人形は、天宿に現れた人形とは構造が違うらしい。続けざまに烈風刃で城門までの人形を一掃。またも一瞬で城門まで跳ぶと、城門の鉄扉を飛ばす空破斬で斬り刻む。崩れ落ちた扉の残骸を飛び越えて、広輝は城の敷地に侵入した。隆也と大樹も広輝の後を追って、広輝のように扉を飛び越えて城門の向こうへ。

 その彼らの後ろ姿を見守る大人たち。

 感心する者、唖然とする者、評価を改める者、様々だった。

「ーーさすが」

 この一月、紫鶴は広輝といくつか任務をこなしている。広輝の実力は鳴上で一番わかっていた。

「あれが、[堕天子]」

 魔道人形は決して強くはないが、弱くもない。その人形の上位型と思われるオーガを一撃で沈めた。只の蒼ではないと七重は評価を改めた。

「さあ、気合を入れろ。この人形共を殲滅する!」

 魔道人形は広輝たちを追わず、残った天子を標的にしている。魔道人形への指示が城外の敵を排除するようになっているのだろう。

 一樹は広輝に意識がずれた天子たちを瞳の前の人形に引き戻した。

 櫻守が陽本の天子を使い、魔道人形狩りを始める。

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