第1話 浮気に蜜の味が加わるの
「リュオ……」
「ユリア……」
毎朝のキスはすでに、俺にとって欠かせない日課となっていた。見た目はどうあれ、目が覚めた時に腕の中にいるユリアは紛れもなく女である。1度でベッドから出ることもあれば、何度も互いの唇を求め合うこともあった。
そしてその日は夢中で抱き合い、いつになく何度も求め合っている、そんな朝だった。だから扉をノックする音も、外から俺たちを呼ぶ声も聞こえなかったのである。
「朝食のご用意……し、失礼致しましたっ!」
気がつくと、扉を開けて呆然と立ち尽くす、メイド服を着たロージー・テイラーの姿があった。だが、俺とユリアがベッドで絡み合っているのを見て、真っ赤になりながら涙目で部屋を出ていってしまったのである。
「あっ! ちょ、ロージー!」
「見られちゃったわね」
「見られちゃったわね、じゃないよ。どうするんだ?」
「どうするもこうするも、見られたものは仕方ないじゃない」
「でも、なんか泣いてたような……」
「そう? だったら慰めてあげたら?」
「いや、だけど」
「大丈夫よ。抱きしめてキスしてあげれば泣きやむから」
「はぁ?」
「女はね、好きな相手から特別扱いされれば大抵のことは収まるものなの」
好きな相手って俺のことだよな。
「確かに好かれてはいるようだけど、それが人としてなのか男としてなのかは分からないじゃないか」
「リュオって、本当にバカね」
「そうは言っても人として尊敬してるとかだったら、思いっきり裏切ることになるんじゃないか?」
「だからバカだって言うのよ。恋愛感情がなかったら、泣いて出ていくなんてあり得ないと思わない?」
ユリアの言葉にも一理あるな。もしロージーが単に俺を人として好いているだけだったとしたら、幼女に手を出すロリコン主として信用は失うかも知れない。しかしだからといって、泣きながら部屋を出ていったりはしないだろう。
やはり彼女の言う通り、ロージーは俺に恋愛感情を抱いてくれているということだろうか。ところで――
「お前はいいのかよ?」
「何が?」
「俺がロージーとその、キスとかしても」
「とか、はダメに決まってるじゃない」
「だって今、抱きしめてキスしてこいって……」
「キスまでってこと! それ以上したければ、私と先にしなさいって前にも言ったでしょ」
「そんなこと言ってたな」
「私は別に一夫多妻制を認めないわけじゃないわ。オトコなんて基本浮気する生き物だし」
待て待て、そうじゃない人だっているじゃないか。身近にいるアントナさんもその内の1人だし。
「私がリュオを独占しようとした瞬間から、浮気に蜜の味が加わるの。だったら初めから許しておけばいいだけの話よ」
「そんなもんかねぇ」
「条件は何でも私が1番。それさえ守ってくれればロージーが第2夫人に収まるのを祝福してあげる」
「だ、第2夫人って……」
「もっとも子供が出来る順番だけはどうしようもないでしょうね。この世界にコンドームがない以上、私が先かロージーが先かなんて選べるわけないんだし」
「こんどーむ?」
「避妊具のことよ。貴方のおちん……アレに被せて精子を……と、とにかく避妊具!」
「せーし? 何だかよく分からないが、そんなもの被せちまったらちっとも気持ちよくないじゃないか」
「大丈夫なのよ。でもないんだから仕方ないって言ってるの!」
ニホンという王国は天国ではないだろうか。被せても気持ちよくて、避妊まで出来るならいくらでもヤリ放題だぞ。
ちなみに王国の法では女性側が拒否しない限り、望むと望まざると相手を妊娠させた場合には、婚姻を結ばなければならないと定められている。例外は女性が性交を職業としている場合のみだ。
だが、すでに妻がある男性が外で子供を作ってしまうと、世間からは節操がないヤツだと冷めた目で見られることになる。そのため生活に十分な余裕がある者が妻以外と関係を望む場合は、あらかじめ気に入った女性を第2、第3の夫人として迎えるのが一般的だった。
「いいから早く行ってあげなさい!」
「でも朝飯……」
「ご飯とロージーと、どっちが大切なの!?」
そう急かされて俺はユリアの同意の許ロージーとキス、ではなくて、彼女を慰めるために部屋を出るのだった。




