第6話 王様、だぁい好き!
「余がカントナーラ王国国王、ガストローザ・クワイ・カントナーラである。皆、面を上げよ」
謁見の間の壇上にある玉座には国王が、その隣に立っているのは王女、フェミルース・アンジェシカ・カントナーラだった。王妃のマーリィ・ソアシエ・コールマン・カントナーラは公務のため、城にはいないそうだ。
一方王族の前に跪いているのは俺とユリア、それにナハルである。さらに一歩下がったところにオーギュドも控えていた。
「久しいな、茹で殺しのナハルよ」
国王はまず、ギルマスに声をかけた。
「陛下、その名前は……」
「報酬の上前をはね損ねたとも聞いたぞ」
「お人が悪いです、陛下」
「今回は其方も出ると思っていたのだがな」
「神龍の眷属相手では、私でも勝ち目はなかったと思います」
国王は満足げに肯くと、次にユリアに目を向ける。
「ユリア殿とは、其方かな?」
「お初にお目にかかります」
「うむ。オーギュドの話では、アメインのBランク冒険者である其方がドラゴンを倒したとのことだが、俄には信じがたいのだよ」
「事実は事実です」
「お、おい、ユリア!」
相手は国王だぞ。少しは自重してくれよ。
「構わぬ。此度は余が呼びつけたのだ。堅苦しく振る舞う必要はない」
そこで国王がフェミルース王女に目配せすると、彼女は衛兵に向かって肯く。それを見た衛兵は、何やら布がかけられたトレーを持って彼女の横に並んだ。
「それより是非ともその力、見てみたいものだ」
「証拠を見せろ、ということね?」
「ゆ、ユリア!」
「構わぬと申しておる。ユリア殿、むろんタダでとは言わん。見事余を得心させた暁には王家不出の魔道書をやろう」
周囲から驚きのため息が漏れる。しかしユリアはそんなこと意に介さずという感じだ。それどころか、とんでもないことを言ってのけたのである。
「写し、ということはないでしょうね?」
「はっはっは! なかなかに抜け目のない娘だ。よかろう。写しではなく原本を授ける」
周囲の衛兵たちはもちろん、これにはさすがに王女も驚きを隠せないようだった。王家不出の魔道書など、写本でも出回ることはあり得ない。それなのにユリアのヤツときたら原本を要求したのだ。
まあ、王家不出というくらいだから、写本では中身が改ざんされる可能性もある。国王じゃないが、本当に抜け目がない女だよ。
「それで、どんな魔法をご所望なのかしら?」
「うむ。これは其方が倒したという神龍の眷属の鱗だ」
国王の言葉で布が取り去られると、そこには黒光りする大きな鱗が1枚置かれていた。
ところで眷属って神龍の鱗から出来てるんじゃなかったっけ。それなのに死んでからも形を留めているってのは不思議だ。
「それで?」
「余はこれを剣や装飾品に加工したいと思ったのだがな」
「どうやっても形を変えられないのです」
フェミルース王女の透き通るような声が、国王の後を受けた。
「それを私にやれ、と?」
「そうだ。出来るか?」
「簡単よ」
「おお! 真か!」
「だけどそれ、私たちのよね?」
「うん?」
「魔物の死体は、討伐した人がもらえるんじゃないの?」
「ば、バカ! 陛下に向かってなんということを!」
「ユリア殿、其方の言うことはもっともだ。だがな、討伐を依頼したのは余であり、そのための報酬も支払った。よってこれは余の物なのだよ」
「リュオ~」
「ど、どうした?」
突然ユリアが国王を指さしながら、半ベソの顔を俺に向けてきた。嫌な予感しかしない。
「王様が私のあれ、取った~。え~ん」
「え~んって……」
「なっ!」
しかし皆の前で幼女を泣かせたと思い込んでいる国王は、落ち着きを失って真っ青になっていた。権力の頂点にあっても泣く子には敵わないということか。ウソ泣きなのに。
「こ、これ、泣くでない。1枚やるからそれで泣きやめ」
「え~ん、王様なのに1枚しかくれないんだって。王様のケチ~」
「け、ケチ……分かった分かった。何枚欲しいと申すのだ。2枚か? 3枚か?」
「リュオ~、王様に半分こしようって言っちゃダメ?」
「ユリア……」
俺は頭を抱えるしかなかった。ちなみにナハルとオーギュドは笑いを堪えるのに必死のようだ。
「は、半分……? よ、よし、半分こだ。半分こしよう。余はケチなどではないぞ」
「うん! ありがとう、王様ぁ! だぁい好き!」
「そ、そうか。余もだぁい好き、だぞ」
ユリアが俺に向かってペロッと舌を出して見せたことは、墓まで持っていくことにしよう。




