第11話 メシなら他所で食え
「で、俺たちがその妖精を越える力を持っている、と?」
神龍の眷属とはいえ魔力は有限。対して無限の魔力を直接女神から与えられたユリアであれば、それも十分に肯ける。何故なら神龍は神の遣いではあるが、女神は神そのものだからだ。
格が違うということである。
「そうだよ。だからパーティーを組もう!」
「ねえ、1つ分からないんだけど」
「何でも聞いてくれ、ユリアちゃん」
「その神龍の偉大さが、今の話からだと全然伝わってこないのよね」
「は?」
「へ?」
「ほ?」
これには俺とオーギュド、それに妖精のフィーまでが変な声を出して顔を見合わせてしまった。
「私は昔のことはよく知らないから聞くけど、神龍って例えば天変地異を収めたとか、人々を飢えから救ったとか、そういう功績みたいなのってあるのかしら」
「いやいや、神様は存在そのものが偉大じゃないか。ということは龍神様の御遣いである神龍様も偉大なわけで……」
「神様が偉大だっていうのは分かるわ。でもその神龍の言ってることはおかしいわよ」
「そ、ソルアーク様のどこがおかしいって言うのよ!」
「じゃあ聞くけど、龍神の遣いの神龍が偉大だとして、その神龍の遣いである貴女が、偉大な神龍の遣いだから自分も偉大だと言ってるのと同じじゃない?」
「そ、それは……」
「もう一度聞くけど、神龍は何かを成し遂げたのかしら?」
「う……」
「ユリア、それはちょっと言い過ぎだって」
「信仰は個人の自由だから、この人たちが神龍をどう思おうと文句を言うつもりはないの。だけど私は神の文字が付くからって盲信するつもりはないし、そんなものに巻き込まれるのもゴメンだってことよ」
ユリアはそう言うと、話の終わりを告げるように席を立った。
「お、おい、ユリア」
「それに私たちがこの人に協力してこのままドラゴン退治に行けば、ギルドに内緒ってことにならない?」
「言われてみれば確かに」
「リュオ、もう私お腹ペコペコなの。ドラゴン退治は私たちのギルドから正式に依頼があってから考えればいいでしょ」
「そうだな、ユリアの言う通りだ。神龍云々は別としてオーギュド、まずはアメインに報告してくれ」
「やっぱり、ナハルさんに言わないとダメかい?」
「私とリュオはアメインのメンバーなんだから当然よ」
「話は終わりだ、オーギュド」
これで俺もようやく席を立てる。ユリアじゃないが空腹も限界に近いし、これ以上オーギュドを構ってやる必要もないだろう。
「仕方ない。ナハルさんには後で挨拶に行くことにするよ」
そう言って彼も席を立つ。だが、何故かそこから動こうとしない。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「いや、食堂に行くんだよね? 案内してくれないと分からないじゃないか」
「はぁ?」
「ここの料理長ってアントナさんでしょ」
そんなことまで調べてきてたのか。
「僕も何回か王城の晩餐会で頂いたけど、彼の料理は凄かった。それがこんな辺境の町でまた味わえるなんて……」
「図々しいヤツだな。お前の分なんか用意しているわけがないだろ」
約束もなく夕食時に突然訪問してきたのだ。アントナのことだから、言えば何とかなるだろうが、この不躾な男に食事を恵んでやる義理はない。
「そんなぁ、実は僕たちも腹ペコで来たんだよ」
「ハナから晩飯も当てにしてたってわけか」
「だってアントナさんの料理だよ。期待するなって言う方が無理だって」
「オーギュドさんだったかしら。貴方に食事を出したら、屋敷の誰かが1食抜くことになるの」
「ゆ、ユリアちゃんまで……」
「町に行けばまだ食堂も居酒屋も開いてる時間よ。さっさと行きなさい」
「アメインの食堂も開いてるぞ。何ならナハルと旧交を温めてきたらどうだ?」
「うっ、2人ともいけず……」
この後オーギュドは、肩を落として屋敷を後にした。そしてその夜、何故かユリアがいつになく俺に体を寄せてくるのだった。




