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第6話 お客様がお見えです

 森から帰る道すがら、ユリアはどうして鉄腕熊(アイアンアーム)に魔法が効いたのかを教えてくれた。


「あの熊、直接魔法をかけようとすると勘づいて逃げるでしょ?」

「そうだな」

「だから雨を降らせたのよ」


 魔法は熊ではなく、ヤツの体に付着した雨水にかけたのだと言う。


「全身ずぶ濡れだったでしょう?」

「ああ」

「だから動けなくなったの。ただ、そのままだとリュオの魔法も弾いちゃうから」


「あっ! それで俺の魔法が当たる瞬間にお前は魔法を解いたのか」


 あの時、ヤツが一瞬だけ動いたように見えたのはそのせいだったってわけだ。


「それはそうと、俺も転移魔法が難しいってのは何かで読んだことがあるが、お前でも無理だったのか?」

「物質転移ね、魔道書には制約ばかりが何ページにも渡って書いてあったわ」

「確かに制約がどうとかって言ってたな」


「転移って移動とは違って、ある地点から物質を消して別の地点に出現させる魔法なの」

「まあ、そうだよな」


 実のところ、どう違うのかよく分からん。


「仮によ、そこに落ちてる石ころをあの岩の中に転移させたらどうなると思う?」

「そりゃ……割れる、とか?」

「違うわ。大爆発が起こるのよ」


 ユリアは理論上の話だ、と付け加えた。物語か何かで読んだだけで、彼女の前世では空想の域を出なかったらしい。あるいは実証されていたのかも知れないが、それ以上は興味を持たなかったそうだ。


「でもさ、岩の中じゃなくて上とかだったら何もないんじゃないか?」


「バカね。空気があるじゃない」

「空気って……」

「目には見えないだけで、何もない空間なんてないのよ」


 彼女の話がまた訳の分からない方向に進み出した。要するに転移魔法は、転移させる物質と同等の物なり空間なりを入れ替える必要があるという。その計算が非常に複雑なため、簡単には扱えないのだそうだ。


「考えない方がよさそうだな」

「そうね。それに物質転移魔法が簡単に使えたら、恐ろしいことになると思うし」

「恐ろしいこと?」


「物を盗むのはもちろん、人を殺すことだって出来るじゃない」


 心臓を転移させるなどやり方は色々と言うが、よくそんなことを思いつくもんだよ。


「魔法の話はこれでおしまい。そんなことより驚いたわね」

「リリーのことか? 俺もびっくりだよ」


「もしかしてリュオナール様のお屋敷に、アントナ・コーレムとジェシカ・コーレムという者はおりませんか?」


 俺が施設の皆を屋敷に招待したいと言った時、その場所を聞いた彼女は驚いたようにこう言った。何とリリーとシエナはアントナの娘だったのである。

 そう言えば娘が2人で児童養護施設を営んでいるって言ってたっけ。ちなみにジェシカとはアントナの奥さんだ。


「改めて思うけど、世間は狭いわね」

「だな~」


 以前、アントナに火噴き豚(ファイヤーボア)を持って帰らせたことにもえらく感謝されたよ。あの時は子供たちも大騒ぎだったらしい。


「出来れば施設の人たちも屋敷に住ませたいところね」


「難しいだろうな。施設はあくまで王国管轄だし、俺たちと一緒に屋敷に住むには、最低限ギルドへの登録が必要だ」

「6歳未満は登録出来ないって言ってたわね」

「2世じゃない限りな」


 ギルドメンバーの子として生まれた子供は、自動的にメンバーに登録される。しかしそうでない場合には最低限、6歳以上であることが登録の条件だった。

 もちろん、誰でも登録可能というわけではない。ギルドメンバーにはいくつかの特権と特典が与えられる。従って何らかの依頼を遂行する能力が必要不可欠というわけだ。つまり子供でも能力があれば登録出来るし、大人であっても能力が認められなければ登録出来ないのである。


 その1つの指標となるのが真実の氷だった。


「お帰りなさいませ。リュオナール様、ユリア様」


 ギルドに依頼完了の報告を終えて屋敷に戻ると、執事のクラントン、それにルーナとロージーの2人が頭を下げて迎えてくれた。


「首尾はいかがでございましたか?」

「バッチリさ。事前情報になかった2頭目も倒したから、報酬は倍になったよ」

「それはおめでとうございます」


 そこでクラントンが応接間の方に目を向けた。


「リュオナール様、お客様がお見えなのですが……」

「来客? そんな予定はなかったよな」


 こういう時、ベテラン執事であれば改めてアポイントを取らせるなどして追い返すのが普通である。それが出来なかったということは、第1に俺やユリアと気心の知れた相手ということが考えられる。しかし俺はギルメンでさえ、必要以上に仲良くしている者はいない。


 次に考えられるのは、上級貴族などのやんどころなき身分の相手だ。ただし高貴な人物がわざわざ俺に会うために、こんな辺境の町にやってくるとは思えない。


 3つ目はそのどちらでなく、それでいてクラントンが断れなかった相手だ。


 使用人の身内の誰か、という可能性はない。もしそうならクラントンはお客様などと言わず、誰々の何々という言い方をするはずだからである。


 訪問者には全く心当たりはないが、とにかく彼が追い返さなかったのだから、会わなければならない相手なのだろう。


「分かった。一旦着替えてから応接間に行く」

「ご夕食はいかがなさいましょう」


「出さなくていい。ユリアは先に食ってていいぞ」

「いいえ、私もお供するわ」

「かしこまりました」


 夕食時に訪問してくる不届き者に少々イラつきながら、俺とユリアは着替えを済ませて応接間に向かった。ところがそこで待っていたのは、思いもかけない人物だったのである。


「やあ、初めまして」


 決して派手ではなく、それでいて高貴な雰囲気を醸し出しながら、青年は(にこ)やかに俺に握手を求めてくるのだった。

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