表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/51

第7話 ちょっとでいいの

「あの、出来れば私もご相談させて頂きたいことが……」


 雰囲気的に言い出しにくかったのだろう。ようやくルーナの話が一段落したところで、ロージーが恐る恐る手を挙げた。それにしてもこの子は本当に可愛いな。


「何だい、相談って?」


「私には病気の母がおりまして」

「病気?」

「はい。寝たきりになって3年になります」

「それで?」

「母も一緒に、というわけにはいきませんでしょうか」


 そんなことか。


「別に構わないと思うけど、ユリアはどうだ?」

「その病気というのはもう治らないの?」

「いえ、お医者様からはきちんと栄養のある物を食べて療養すれば、治る可能性があると言われました」


 しかしその栄養のある物というのが実は(くせ)(もの)で、一般の人にはそうそう買える値段ではないのである。ましてロージーの父親は早くに流行病(はやりやまい)で亡くなっており、母1人娘1人の母子家庭だ。これまでの彼女の収入だけでは、食べていくだけで精一杯ということだった。


「そういうことなら問題ないわ。遠慮せずお母様と引っ越してらっしゃい」

「あ、ありがとうございます!」


「それにしてもユリア様は、とても聡明で慈悲深いお方ですね」


 クラントンが、これまでのユリアに対する感想を口にした。


「そのような主様にお仕え出来るこの身を、とても幸せに感じます」

「よ、よしてよ。人として当然のことをしているだけなんだから」


 そう言いながらも、満更ではない様子の彼女は見ていて笑える。それはそれとして見た目は幼女でも、中身は異世界のニホンというところから来た20歳の()()()()()()()、ということは黙っておいた方がいいだろう。


「そうそう、ユリアちゃん」

「何かしら、ナハルさん」

「これ、貴女にあげるわ」


 ギルマスが彼女に差し出したのは、辞典のような分厚い本だった。表紙には魔法大辞典と書かれている。って待て待て、それってまさか――


「ま、魔道書!?」


 通称魔道書と呼ばれる魔法大辞典は、王国全体でも非常に希少価値が高いと言われている書物である。加えて、たとえ金があっても部数自体があり得ないほど少ないので、簡単に手に入る代物(しろもの)ではないのだ。それをあげるって……


「ユリアちゃんの魔力は無限だって言ってたし、他の魔法も使えるんじゃないかと思ったのよ」

「ふーん、ちょっと見せてもらえるかしら」


 ユリアはギルマスから魔道書を受け取ると、パラパラとページをめくって何やら頷いている。なるほど、彼女が女神であるアテルナ様に言われた何でも出来るとの言葉は、これに通じていたのか。


「面白いわね。病気を治すには高度な医学の知識が必要だけど、外傷ならわりと簡単に治せるみたい」

「そうなのか?」


「ええ。しかもほぼ全ての魔法に共通して、事象をしっかりとイメージ出来れば呪文の詠唱も必要ないって書いてあるわ」

「マジかよ」


 すると俺が風魔法を使う時に唱えている呪文も、実はいらなかったということなのか。そう考えると、今まで得意になって大声で唱えていた自分が恥ずかしく思えるよ。


「でも無詠唱で魔法を使うには、相当な訓練を要するんだって」

「ま、そりゃそうだろうな」


 簡単に出来ないから、みんな魔法を使う時には呪文を唱えているということだ。ちょっとホッとした。


「試してみたいわね」

「怪我人なんていないぞ」


「別に治癒魔法じゃなくてもいいのよ。火を起こすとか水を操るとか」

「そういった類の魔法はやめておけ」


 能力測定の時に使ったメテオレインのことを忘れたのかと、俺は小声で彼女を(たしな)めた。小さな火を出すつもりが、コイツの尋常じゃない魔力では大火事にさえなりかねないからだ。


「仕方ない。ねえリュオ、ちょっとでいいの」

「な、何だよ」


「その腰のナイフでちょっとだけ、指を切ってみてくれない?」

「はぁ? 無茶言うな!」

「大丈夫よ。すぐに治してあげるから」

「ちっとも大丈夫じゃねえ!」


「あの……」


 その時、俺たちの言い合いに割り込んできたのはルーナだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■ぜひブックマークを(^o^)■

★1つでも、評価入れていただけると嬉しいです(^o^)

◆長さの単位です
1セメル=1cm
1メル=1メートル
1キメル=1km

◆貨幣単位です
1ベル=1円
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ