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第6話 懲らしめて下さい!

「どういうこと?」


 ルーナの婚約者カイゼルは、以前雇われていた農場の地主から言いがかりをつけられて職を追われたそうだ。畑を獣に荒らされたことがあり、それが彼のせいにされたのだという。


「そんなの地主の管理不行き届きじゃない」

「私もそう思って地主様に抗議に行ったのですが……」


 地主はカイゼルが獣に餌を与えたのが原因だと、取り合ってくれなかったらしい。


「本当なの?」

「弱って死にかけていた獣に餌をやったのは本当だと言ってました。でもそれは畑とは全く違う場所でのことです」

「何だか胡散(うさん)臭い話ね」


「彼は地主様が肥料をケチったせいで作物の出来が悪くなり、経営が危うくなって自分たちを解雇したんだろうと……」

「自分たち?」

「他にも5人の農夫が、連帯責任だとの理由で解雇されたんです」


 確かに言いがかりというのは間違いないと思う。しかしその地主ってのもひでぇな。


「でも、それが怒鳴り込んでくるというのとどう繋がりがあるのかしら?」

「彼は今でも5人と付き合いがあるのですが……」


 実はソイツらが町の鼻つまみ者で、強請(ゆすり)たかりなどは日常茶飯事とのことだった。その彼らが、農場を解雇されたのはカイゼルのせいだと因縁をつけ、彼を仲間に引き込んだという。初めは嫌がっていた彼も、次第に悪の道に染まってきているらしい。


 これは俺の考えだが、地主は素行の悪い5人を解雇するために、カイゼルを引き合いに出したのではないだろうか。彼の連帯責任なら、地主は5人から恨まれなくて済むからだ。


 それはいいとしてルーナは彼から、話がまとまらなくても給金天引きでメシくらい食わせろと言われているそうだ。しかも5人の仲間と一緒にである。


「ずうずうしいにも程があるわね」

「それがここに出入り禁止と分かれば、5人と一緒に怒鳴り込んでくるってことか」

「はい……」


「俺がAランク冒険者だってことは知ってるんだよね?」

「マジナールのAランク冒険者など大したことはないと……あっ! も、申し訳ありません!」

「あはは」


 マジナールとは、ムエノ伯爵が治めるこの王国辺境の地のことである。ちなみに王都はセントガルドだ。


「私は彼もこちらに一緒に住み込んで、優しかったあの頃に戻ってほしいと思ったんです」

「問題は彼の本心ね」


「そうだな。死にかけた獣に餌をやるくらいだし、嫌々ソイツらに加担しているならまだ見込みはあるが……」

「悪事を働いて何とも思わないようなら、手遅れと言わざるを得ないわね」

「その辺りはどんな感じなんだ?」


「私は彼を信じたいと思ってます。でも最近は言動も粗暴で、会う度に殴られる回数も増えて……」

「手を上げるのか!?」

「はい……」


 婚約者ともなれば、立ち直ってくれることを望むのは当然だろう。だが、女の子に手を上げたとなると期待は出来ないかも知れない。


「それで、結果はいつ知らせる予定なの?」

「今日、夕食の時間に来てくれることになってます」


「初日から晩飯をたかる気でいるのか」

「ルーナさん」

「はい」


「貴女の婚約者はともかく、他の5人は町で悪いこともしているみたいだし、来たら懲らしめるけどいいかしら?」

「え? それはどういう……」


 ユリアの不気味な微笑みに、ルーナばかりかアントナやクラントン、ロージーまでもがたじろいでいる。それを見たギルマスが苦笑いしながら言った。


「さっきも言った通り、ユリアちゃんはとても強いの」

「腕の1本や2本くらい、へし折ってやるわよ」

「ま、まあその前に俺が出るけど」


「あの、私は……」

「彼の腕は折らないで、というなら考えておくわ。態度次第だけど」

「い、いえ、その……」

「うん?」


「私は先ほどのユリア様のお言葉に感動致しました」

「え? どの辺どの辺?」


 コイツ、食いつきやがった。


「使用人を守れない主なんて主の資格はない、とのお言葉です」

「ああ、あれね。その通りよ」


「たった今目が覚めました。私が仕えるべきはカイゼルではなく、ユリア様だと」

「そ、そう。ありがとう」

「ですからどうぞ、どうぞご存分に懲らしめて下さい!」


 そう言い放ったルーナの頬には、一筋の涙が伝っている。彼女が婚約者との決別を決めた瞬間だった。

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