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第5話 困った婚約者

「ルーナもかい?」

「はい。ダメでしょうか」

「いや、ダメじゃないけど、婚約者の方はいいの?」

「実は……」


 彼女によると婚約者は現在仕事がなく、親元で腐っているそうだ。最初のうちは頑張って仕事を探していたらしいが、今はただ町をフラついているだけらしい。


「それで、厚かましいお願いなのですが、彼もここで一緒に雇って頂けないでしょうか。下働きでも何でも構いませんので」

「ギルドには登録してるの?」


「いえ、彼は元々農夫でしたのでギルドに登録はしておりません」

「ここで働くとなると登録してもらわないといけないけど……」

「はい。その時は登録してもらいます」

「どうする、ユリアちゃん?」


 ギルマスは困った顔をしながらユリアに意見を求めた。そのユリアだが、かなり険しい顔つきになっている。


「ダメね」

「そうですか……」

「ルーナさんだっけ?」

「あ、はい」


「その男、貴女にここに紹介してくれって頼んだんでしょ?」

「え? はい。そうです」

「彼は今、何をしてるの?」

「町を見てくると……」


「婚約者に仕事の世話を頼んでおいて、自分は町をフラフラしてるだけなんて、おかしいと思わない?」

「も、申し訳ありません」

「貴女を責めてるんじゃないわ。それよりその彼にお金なんか渡してないわよね?」


「いえ、今日も友達と会ったらお茶するかも知れないからと……」

「いくら渡したの?」

「1万ベルを……」


 それは渡しすぎだと俺も思う。ちょっとお洒落な喫茶店でも、お茶1杯飲むくらいなら1000ベルもあれば足りるからだ。


「はぁ……ここに来る前は貴女も仕事がなかったのよね?」

「はい」

「そのお金はどうしたの?」

「少しですが蓄えがありますので」

「そう。彼とは毎日会ってたの?」


「いえ、何かと忙しいみたいで、普段は週に1度くらいでしょうか」

「仕事もないのに忙しいってどういうことよ。職探しすらしてないのに」

「それは……」


「悪いことは言わないわ。その男とは婚約を解消した方がいいわよ」

「ちょ、ユリア!」

「リュオは黙ってて! 彼女は今日からうちの使用人なの。使用人を守れない主なんて主の資格はないわ!」


 物凄い剣幕だ。こんな彼女は初めて見たよ。昨日会ったばかりだけど。


「ねえ、ルーナさん」

「はい……」

「本当は心当たりがあるんじゃないの?」

「ユリア、何のことだ?」


「分からない? その婚約者、他に女がいるわよ」


 一夫多妻制なのだから、複数の女性と同時に付き合ったり婚約したりというのは珍しいことではない。ただし、それは彼女たちに不自由させないだけの経済力があっての話だ。金を無心するなど論外なのである。


 法で禁じられているわけではないが、倫理観の問題だ。無職無収入の男がそれをやれば、世間からの風当たりはキツい。当然妻たちも後ろ指を指されたりと、そのとばっちりを受ける羽目になるのだ。生活のために物乞いに身を落とす者も少なくはなかった。


「ユリア様の(おっしゃ)る通りです。彼には私以外にも数人、付き合ってる女性がいます」


 ユリアのヤツすげえな。さっき会ったばかりでそこまで見抜いたってか。


「そう。それで貴女は幸せなの?」

「分かりません。でも私が彼に仕事を世話出来たら、きっと私を1番に見てくれるのではと思って……」

「こ、婚約してるのに1番じゃないのか?」


「口では1番だと言ってくれてますが、そうじゃないのは態度で分かりますので」


 そこでユリアが腰に両手を当てた。偉そうにふんぞり返っているが、幼女の姿なのでめちゃくちゃ微笑ましい。


「ふむ。ルーナさんの住み込みは認めるわ。だけどここでの仕事を婚約者に与えるつもりはないの。もちろん、彼の出入りも禁止よ」

「ユリア、何もそこまで……」


「会うなとは言ってないわ。別れることを勧めるけど、決めるのは彼女自身だから」

「あの……」

「何かしら?」

「それでもし、彼が怒鳴り込んできたら……」

「はぁ?」


 ところがルーナが抱えている問題は、今聞いただけではないようだった。

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