第11話 幼女のパンツは天国への切符
「ストーンバレット!」
ランパオスの呪文で、大量の礫が現れた。1つや2つなら当たってもどうということはないが、あれだけの数をぶつけられると無傷でいられるわけがない。
「サンドカーテン!」
砂塵のカーテン、これは風魔法の応用である。飛んでくる礫を完全に防げるわけではないが、威力は半減出来るはずだ。それともう1つ、この魔法には自分の姿を視認させない効果がある。
「はっはっはっ! そんなもので躱せると思うなよ! 発射!」
「うぐっ!」
広く張り巡らせたカーテンのこちら側でかなり移動したつもりだったが、何発も礫を食らってしまった。頬にもかすって切り傷のようになってしまったのだろう。ヒリヒリするので触ってみたら血が出ていた。
「おい、どうした! まさかもう降参か? それならそれでいいんだぜ」
「バカ言うな! お前に負けてやるほど俺は甘ちゃんじゃないんでな!」
「きゃー! 大切なユリアは渡せないですって!」
「言ってねえっ!」
一言も合ってないじゃないか。しかしまあ、あれできっと応援してくれているつもりなのだろうから、悪い気はしない。
さて、ここからが正念場だ。ほとんどの物を切り裂くウインドカッターは使えない。誤って首を落としてしまったら俺も死ぬ運命になるし、そうでなくても腕や足を切り落としたら同じ罰を受けることとなる。
それを見越してか、ランパオスは岩壁による盾を使っていないが、実はそこが奴の盲点。壁を造られていたら苦戦を強いられるところだった。これだけの実力があっても彼がBランクに甘んじているのは、この詰めの甘さが大きな理由だろう。
俺は砂塵のカーテンを解き、奴の姿をその目にしっかりと捉えた。
「おい、ランパオス」
「何だ? やっぱり降参するのか? なら嬢ちゃんは遠慮なく頂くぜ」
「生憎だがさっきも言った通り、負けてやるつもりもランクを譲るつもりもない」
「な、何だとっ!」
「己の浅はかさを悔むがいい。風筒!」
呪文に呼応して現れたのは、回転しながら筒の形を保つ空気の塊である。長さは50セメル、太さは10セメルといったところだろうか。先端は真っ直ぐにランパオスに向いている。そして、遠くに離れているユリアのワンピースをなびかせるほど、回転による風圧は凄まじいものだった。
「な、何だよ、その魔法……」
「なぁ~に、アンタのストーンバレットと似たようなものさ」
「ま、まさか! ロックウォール!」
「遅い! エア・ガン!」
俺の周りに転がっていた、先ほどランパオスが放った礫が一気に筒に吸い込まれていく。それは言うなれば速射砲で、魔法で石の壁を築く前に全弾が彼に命中していた。
無数の礫の衝撃で、ランパオスはたまらず後方へ弾き飛ばされる。だが、意識を刈り取るまでには至らなかったようだ。
「ってぇ! てめぇ、汚えぞ!」
そう叫んで起き上がろうとする彼の首に、俺はフィールディングナイフを突きつけてやった。
「それまで! 勝者、リュオナール・アキオス!」
ギルマスの宣言で観客たちは歓声を上げたり、落胆のため息をついたりしている。しかし、ランパオスは納得していなかった。
「ま、待て待て、何だよこれ! 俺っちは倒れただけじゃ……」
「ランパオスさん、貴方の負けです」
首に当てられたナイフのせいで身動きが取れないながらも、ランパオスがナハルに抗議を始める。
「意識はある! 俺っちはまだ続けられるぞ!」
「負けを認めるのです」
「魔法でやられたわけじゃねえんだ! こんなのおかしいだろ!?」
「おかしくないさ、ランパオス」
「何だとっ!」
「実戦なら、俺がこのナイフをアンタの首に突き立てたらどうなる?」
「うぐっ……そ、それは……」
勝負ありだ。彼にストーンバレットを放ち続けられたら危なかった。だが結果は俺の勝ち、彼の敗因は傲慢と油断だろう。
「さすがは私のリュオね」
「誰がお前の、だ!」
「オジサマ、残念だったわね」
ユリアはまず俺にほほ笑みかけ、そして未だに横たわったままのランパオスの顔の辺りでしゃがみ込みながら言う。てかお前、その位置じゃ……
「幼女のパンツ……!」
「はっ!」
至福で顔を赤くしたランパオスは、これでもかというほど鼻の下を伸ばしてニヤニヤしている。それに気づいたユリアはワンピースの裾を押さえながら立ち上がると、何度も彼の顔を踏みつけていた。
「お、おい、それはちょっと」
「変態キモオヤジに生きる資格なし!」
「いや、そうじゃなくて……」
ランパオスにとってはご褒美にしかならないぞ。そう言いたかったのだが、俺とナハルは顔を見合わせただけで彼女を止めようとはしなかった。
ランパオスが別の意味で、天国に召された瞬間だった。
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1セメル=1cm
1メル=1メートル
1キメル=1km




