第10話 準備はいいかしら?
「へっへっへっ。リュオナール、前から俺っちはちぃとばかしお前さんが気に食わなくてよぉ」
「はぁ?」
「ギルドでも街中でも、女にモテまくってるじゃねえか」
知るかよ、そんなこと。
「いい機会だ。その優男ヅラを俺っちのストーンバレットでボコボコにして、2度と見られねえようにしてやるから覚悟しな」
「あんなこと言ってるけど、キモオヤジってそんなに強いの?」
ユリアがナハルに小声で話しかけた。ランパオスを指さしながらなので、きもおやじというのが彼のことだと伝わったようだ。
「ランクはリュオナールさんより下だけど、魔法の相性の問題ね。本気の殺し合いなら目に見えない風魔法に分があるわ」
魔物などの討伐の場合は、一撃で首を落とせるウインドカッターの方が、打撃メインの礫の魔法より遥かに効率的である。この差が、俺とランパオスのランクを分けていると言ってもいいだろう。
しかしギルド内の決闘においては、命を奪うことはもちろん、後遺症が残るような怪我をさせるのも禁止されている。万一そんな結果になれば、不可抗力だったとしても相手に与えたのと同じ障害を、罰として受けなければならない。つまり最悪は死もあり得るということなのだ。
「じゃあ、リュオの顔がぐちゃぐちゃにされちゃったら、キモオヤジの顔もぐちゃぐちゃ……あまり変わらない気もするわね」
「ぷっ!」
「おいユリア、縁起でもないことを言うな」
どうでもいいが、ランパオスに対してユリアはずい分辛辣だな。それを笑うギルマスもどうかと思うが。
「視力を奪ったり、治せないような怪我を負わせない限りは、そんなことには……ぷふっ……ならないわ」
「何をごちゃごちゃ話してる!? 早く始めようぜ!」
「ごめんなさい。倍率のことを聞かれてたのよ」
咄嗟にナハルが取り繕う。そんな必要はないと思うのだが、賭けの倍率については俺も気になるな。むろんそれはランパオスも同様のようだ。
「お? ギルマスさんよ、どうなってるんだ?」
「ランパオスさんの1に対して、リュオナールさんは3ね」
「わははっ! そうだろそうだろ」
俺に賭けたのは4人中1人だけってことか。賭けに乗った奴らは、やはり土魔法が有利と見ているらしい。そりゃあね、俺だって見物人の立場ならランパオスに賭けるよ。
「リュオナール、お前さんに勝てば俺は晴れてAランクだ。嬢ちゃん頂いて、お前さんは死ぬほどこき使ってやるから覚悟しとけよ」
俺をパーティーに指名するってか。だがすでに俺は隠れSランクのユリアから指名を受けている。つまり、俺が負けると彼女のランクを明かさなければならないということだ。もちろん負ける気などさらさらないが、これは何としてでも勝たなければならないだろう。
「それでは2人とも、準備はいいかしら?」
「いいですよ」
「いつでもいいぜ!」
ギルマスはユリアを促してその場から離れると、十分に距離を取ったところで両手を挙げた。そして――
「始めっ!」
彼女がその手を振り下ろした瞬間から、俺とランパオスの決闘が始まるのだった。




