第9話 添い寝以上のイイコト
「勝負だぁ?」
また突拍子もないことを。しかしどうやらランパオスは本気のようだ。そして彼はさらに、とんでもないことを言い出した。
「勝った方がそのお嬢さんとパーティーを組める。これでどうだ?」
「何だその条件。ユリアはもう俺とパーティーを……」
「あら、面白いじゃない」
「ちょっと待て。お前が乗ってどうするんだよ」
「だってこのキモいオヤジ、貴方よりランクが下なんでしょ? まさか格下相手に負けるわけがないわよね?」
「きもいって何だ?」
「気にしなくていいわ。ただの褒め言葉よ」
訝るランパオスに、素っ気なくユリアが応える。本当は気持ち悪いって意味よ、と俺には小声で教えてくれた。
「そうかい! お嬢さんだってこう言ってるんだ。リュオナール、逃げようなんて思うな!」
そうは言っても俺が得意とするのは風属性の魔法である。対してランパオスは土魔法を使う。そして風属性は土属性を苦手としているのだ。何故なら彼が繰り出す礫の魔法は、風魔法では防ぎにくいからである。
むろん本気の戦闘ならおそらく俺が負けることはないだろう。しかし手加減が必要な決闘では明らかにこちらの分が悪い。
「さ、彼に勝って堂々と私をモノにしなさい」
「ワザと負けてやろうか」
「あらいいの? 未来の美しい妻があんなキモいオヤジに好き勝手されても」
また自分で言ってるよ。
「なあ、そのきもいって、本当に褒め言葉なのか?」
「当たり前じゃない、オ・ジ・サ・マ」
語尾にハートマークでもくっついてそうな口調で、ウインクまで送ってやがる。途端に単純なランパオスの鼻息が大沸騰を始めた。
やれやれ、そんなに煽るとあっちが本気になっちまうじゃないか。そうなればこちらも手加減している場合ではなくなってしまう。そもそもこんな辺境のギルドでのAとBのランク差なんて、王都に行けばほとんどないようなものなのだ。
そして格下からの挑戦は、依頼遂行直後などで極端に疲労している場合を除き、基本的に断ることは出来ない。そういう意味では、俺はついさっき火噴き豚討伐の依頼をこなして帰ってきたところだから、決闘を断る正当な理由はある。しかしそれを言い訳にして逃げたと言われるのは癪だ。
「お前がどうなろうと俺の知ったこっちゃないが、あの変態野郎をのさばらせておくのはギルドの恥だからな」
「ま~た、そんな心にもないこと言って。本当は私に欲情してるクセに」
「うっせっ! おいランパオス、怪我しても恨むなよ」
「俺っちが勝ったらお前の目の前でお嬢さんといいことしてやるよ」
「このド変態め」
「それじゃ2人は闘技場の方に行ってちょうだい」
言うとナハルは、周りに群がっていたギルメンたちから掛け金を集め始めた。なんとまあ、ちゃっかりしてること。あの金から俺たちにファイトマネーは支払われないので、儲けは丸々ギルドのものというわけだ。
「がんばってきてね、ダーリン」
ユリアがニコニコしながら手を振っている。だーりんという言葉の意味は分からなかったが、その瞳には俺の勝利を微塵も疑っている様子はない。
「勝ったら今夜は添い寝してあげるわよ」
「い、いらねえよっ!」
「あら、添い寝以上のイイコトだってさせてあげるのに」
「なっ! バカ言ってんじゃねえ!」
彼女が赤いワンピースの裾を摘まんで、ヒラヒラさせながら持ち上げて言う。そこからちらりと見えた細い太ももに、俺は思わず目を逸らしてしまうのだった。




