プロローグ
単位は本文下の広告の下に記載してます。
ランキングタグでセットしてるので、全ページに表示されます。
「ブリーズ!」
火噴き豚が火を噴いた瞬間、俺は風魔法をヤツの正面に叩き込んでやった。この魔物を倒すのに最も有効な攻撃である。自分の噴いた火で丸焼けになってくれるから、あとは種化して持ち帰るだけで済むのだ。そうすればギルドが買い取ってくれた上で、肉の一部は俺の腹にも収まる。
種化とは魔物や獣を仕留めた際に、直径2セメルくらいの玉に変えてくれる、ギルドに登録するともらえる魔法である。ドラゴンなど、かなり大型の魔物を種化しても3セメル程度の大きさにしかならない。しかも魔力消費もごくわずかなので非常に便利だ。もちろん無機物にも使える。
ただし鮮度が保たれるわけではなく、生きている相手には全く効かない。
「種化!」
「きゃーっ!」
ところが種化した火噴き豚を拾おうとした時、どこからともなく女の子の悲鳴が聞こえてきた。空耳などではない。
「こんな森にどうして……エルフか魔族でもいるのか? 気配は感じなかったが……」
気になった俺は声が聞こえた方向に足を向けた。そこで見つけたのは、火噴き豚から逃げ惑うボロを着た幼女だったのである。どうやらこっちにも獲物がいたようだ。それにしても――
「おいおい、マジかよ」
年の頃は8歳か9歳くらいだと思う。しかしあちこち泥だらけになりながらも、透き通るような緑色の長い髪と整った顔立ち、大きな栗色の瞳に俺は思わずドキッとさせられてしまった。
「おっと、そんなことを考えてる場合じゃないな」
あれはどう見ても人間の子供だ。助けるしかない。
「ウインドカッター!」
俺の放った魔法が見事に豚の首を切り落とした。それに気づいた幼女はへなへなと座り込み、近寄った俺を涙目で見上げる。やべぇ、マジで可愛いぞ。
「大丈夫か?」
「なんなのよ……」
「うん?」
「なんなのよ、これ!」
今し方まで自分を追い回していた火噴き豚を指さして叫んでいる。
「どうして豚が火なんか噴くのよ!」
「火噴き豚だから当然じゃないか。親から習わなかったのか?」
「親……私、死んじゃったんだよね」
「はぁ? ちゃんと生きてるぞ」
「そうじゃなくて、20歳の若さで死んじゃったのよ。前世で」
可哀想に、火噴き豚に追いかけ回されて、恐怖で頭が変になっちゃったようだ。それにしても何故こんな魔物が出る森に1人でいたんだろう。確かにあの豚は魔物の中では最弱クラスだが、幼女が太刀打ち出来る相手ではない。親とはぐれて迷い込んだというところかな。
「仕方ない。どこに送ればいい?」
「え?」
「いや、だから家はどこだって聞いてるんだよ。このまま放っておくわけにもいかないし」
「帰る家なんてないわよ」
「ないわけないだろ。親が心配してるぞ」
「だから言ってるじゃない。私は前世で死んで女神様と会って、こんなところに放り出されたんだって」
なるほど、あくまでそういう設定ってことか。しかしその話が本当だろうが嘘だろうが、幼女をこんな森に残していくわけにはいかない。ひとまず連れ帰って、後でギルドに親を探してもらえばいいだろう。
「行く宛てがないならうちに来るか?」
「貴方の家に……? そうね、貴方ものすごくイケメンだし助けてもくれたし、お世話になろうかしら」
「いけめん?」
「気にしなくていいわ」
それにしてもこの子、年の割にはしっかりした受け答えをするな。しかし見た目はめちゃくちゃ可愛いが寸胴で、出るところが出ていなければ、引っ込むところも引っ込んでない。惜しいなぁ。あと10年先なら間違いなく美味しく頂くところなのに。
そんなことを考えながら、俺は年齢的に守備範囲外の美幼女を連れて、家に帰ることにしたのである。