プロローグ2~養子になる男の事情~
「すまん、決して金でお前を手放すわけじゃないんだ……」
「ごめんなさい、どうしても、断ることができなかったの……」
部屋に入ると両親が申し訳なさそうに僕に頭を下げている。
き、き、き、来たー!
この様子なら、相手は綺麗なお嬢さんってわけじゃなさそうだ。
断り切れないと分かっていて、強引に話を進めるってことは、かなり結婚相手に困っている人間だろう。
「おいくつの方ですか?」
若くありませんように、若くありませんように。
「うむ、30歳だ……」
喜びのあまり昇天しそうになった。
12歳も年上。27、8ならまぁ許容すべきかと思っていた僕に、神様は微笑んだ!
性格は良くないんだろうな。でも、僕に骨抜きになってくれれば問題ない。年上女性の落とし方はいろいろと研究した。
見た目も、いわゆる美人からは遠いんだろうな。稀に可愛くて綺麗だとちやほやされすぎて行き遅れるパターンもあるから美人の可能性は捨てきれないが。
それよりも順調に年を重ねややふっくらとしてきて、すいつきそうな肌を持った笑うと目じりにシワが浮かぶ女性がいい。にこりともしない美人よりも、笑顔でできる目じりのシワにぞくぞくするんだから。
はぁー。早く会いたい。僕の嫁!
12歳年上のおばさん妻。いや、おばさんなんて呼ぶのは失礼だな。熟女妻。んー、これもなんか違うな。
「――という経緯なのだが、アル、聞いておるか?」
ハッと、父の声に正気に戻る。
「いえ、申し訳ありません聞いていませんでした」
と、素直に答えると母上がハンカチで両目を抑えた。
「ううう、やはりショックよね、ショックで話を聞けないほど……」
いや、嬉しすぎて意識が飛んでいただけです。
「すまない、本当に……」
父上もうなだれている。
それから数日はふたりを慰めるのが大変だった。兄たちも済まない変わってやりたいが……、先方がお前をと望んでいると申し訳なさそうな顔をしていた。
誰が、変わってやるもんか!
あー、よかった。兄弟一イケメンで。兄たちもそれなりにいい男だけれど、噂になるほどではない。
てなわけで。
男が、婿入りするときってなんていうんだろうね?女性の場合輿入れとかいうけど。
話を聞いてから10日後。
僕はお城を除いて王都1の豪邸。
ロマルク公爵邸の一部屋に通されていた。
え?
あれ?聞いてない。
公爵家?
しかも、ロマルク公爵?
僕がそこに婿入り?いやいや、だって、30歳とはいえ、ロマルク公爵令嬢であれば、くらだって選べる立場じゃない?いくらイケメンといえど、僕レベルは親衛隊にはわんさといるわけで。年齢的にも釣り合いが取れて、家柄でも釣り合いが取れる男性は他にいくらだって……。
侍女に囲まれ部屋に入ってきた女性の顔を見る。
いや、ちょっと待ってくれ。
僕の想像していた女性と全然違う。
なんで、性格が悪そうな感じが少しもない。
なんで、華のような可愛さがあるのか。
いや、ますます、選び放題じゃない?
なんで、僕?
すごく光栄で、幸せで、本当に僕と結婚してくれるの?僕が婿でいいの?幸せとはこのことだろうか。
と、ぼーっと見とれている僕に、理想の塊が口を開いた。
「申し出を受けてくださり感謝いたします」
声まで好みだ。
「私のことは、お義母さんと呼んでくださいね」
は?
い?
義母さん?
愛しのハニーとかでなく?
まさか、話をよく聞いてなかったけれど、僕は、この理想の塊の女性の子供(幼女)と結婚させられるの?
そこで、意識を失った。
2話目もご覧いただきありがとうございます。
1話目で挫折しないでいてくれてありがとう!
……ここで、男サイドは終了。
次から本編。主人公サイドにうつります。
……うん、これでだいたい、いろいろなシーンで、この男が何を思いながら生きているか分かるかと思うんだ。