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洗脳テキスト

作者: 樋口諭吉

 都市伝説を一つご紹介しよう。


 悩みを抱えたものだけが見えるという路地裏の小さな小屋に、悩みを解決できるストーリーテラーが住むという。そのストーリーテラーと話したものは、抱えた悩みを笑い飛ばし、社会に復帰していくのだそうだ。


 この街に住む人達の目からどんどん悩みの色が消えていく。しかし、そこで悩みを解決した人の未来は、必ずしも明るくはないようだ。

 やあ。扉を叩くのは君か。


 静かに! 何かを言う必要はないよ。私はすべてを見通す目を持っている。


 部屋の中へどうぞ。


 いい香りがするだろう? 君の好物を用意しているよ。


 何を驚くことがあるんだい?


 言ったはずだよ? 私はすべてを見通す目を持っている。

 君の目を見ればわかるさ。


 さあさあ。中へお入り。その扉、重いだろう?


 ちゃんと出口は別にあるから安心して入り給え。


 カーテンを閉めてくれるかな。

 ああ、ありがとう。


 落ち着いたかい?


 なに? ()のきしみが気になるのか? 建て付けが悪くてね。


 そこの椅子に腰掛けてリラックスしてくれ。


 おやおや、今度は椅子の前の()()()()()()が気になるのかい?

 開けてみようか。気になるようなものは何も入っていないだろう?


 明かりを少し落とすよ。


 さあ、私の目を見てくれ。


 恐るべき透視を始めよう。


 君、今悩みごとがあるだろう?


 私に話してみるといい。


 ふむ。そうか。

 じゃあ、思い切ってその悩みが最悪の形で現実になった光景を思い浮かべるんだ。


 君にはそれができるはずだ。

 辛いかも知れないが勇気を出して。


 悩みが最悪の形で現実になった光景をだ。


 いいかい。悩みが最悪の形で現実になった光景。そう、ゆっくりでいい。


 そこにある感情は後悔か? 嘆きか? 怒りか? 悲しみか?

 

 はっきりと悩みを光景として具現化できたかい?

 できなければもう一度だ。


 さあ!





 ……、さて。


 今、君が目にしている光景は、君の脳が創り出した虚像だ。


 自分を正常な人間と思い込む狂人が見ている妄想が、今君の見ている光景だ。


 君の悩みは、君が思うほど確かなものじゃない。


 そう思うと気が軽くならないかい?


 その光景には、まだ捉えきれていない先があるね。


 透視を進めようか。


 ふむ。自分を正常な人間と思い込む、狂人が見ている妄想の中に住む、一般人が見ている夢、それこそが君の見ている光景なのか。


 ほら、君の悩みが薄ぼけてきたように感じないかい?


 部屋の明かりが暗さを増したように見える?


 気のせいだよ。


 きしむ床下から甘いような酸いような、それでいて咽るような不快な匂いがかすかに漂ってくるのを感じたか。いい鼻をしているね。そこには、自分の体液を含んだ土に包まれる哀れな躯が埋まっているよ。


 なあに。恐れなくていい。


 更に透視を進めよう。


 今、君が目にしている光景は、君の脳が創り出した虚像だ。


 自分を正常な人間と思い込む、狂人が見ている妄想の中に住む、一般人が見ている夢、その夢の中で主人公が空想する世界、それこそが今、君の見ている光景だ。


 おやおや。机の中の引き出しに、弾の一発だけ入ったオートマチック拳銃が隠してあることを思い出したのか。


 おっと、引き金は引かないでくれよ。もう床下は定員オーバーだ。


 ところで、君の感じていた悩みは今どうなっている?


 どうでもいい?


 それは結構。


 意識がはっきりしたようだね。


 また、悩みを抱えたらここに来給え。君の悩みが狂人の妄想に等しいぐらいにちっぽけで些細なことだと思い起こさせてあげよう。


 ところで、今私の目の前にいる君は、ここへ着くやいなや、()()()()()()()()()()君か?

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― 新着の感想 ―
[良い点] こいつぁ怖いですね! 自分が不確かに思えてしまいます! だから途中から流し読みにしました! しっかり読み込むと危険な香りがしたのです! なんと恐ろしい作品なんですか!
[一言]  擬似カウンセラー(?)の言葉だけで語られるからこそ、読んだ直後に目をつぶれば自分が洗脳を受け、書き換えられていく場面が想像できてしまい、ぞっと背筋が凍る怖さを感じました。  ところで軋ん…
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