表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

禁句

作者: 弐兎月 冬夜

「あなたも知ってると思うけど、夜勤の時はアレは絶対禁句よ。」

「わかってます。アレですよね。」

主任と一緒に夜勤になった夜、私は念を押された。宿直の夜がいかに暇であっても、「今夜は暇ねえ。」だとか、「今日は暇でやることがない。」とか口にするのはタブーである。

 偶然なのかもしれないが、前にいた病院でもついうっかり誰かが口にしたとたん、ナースコールは鳴り始め、急患が続けざまに来るというそれは大変な思いをした。先輩はみな口をそろえて言う。

「夜勤の晩に”暇”って云うのは禁句だからね。」


 今夜は異常なくらい静かだった。あくびをした私を見て、主任が釘を刺したのも分かっていた。巡回から帰ってきた先輩がナースステーションに死神を連れてきた。

「また連れてきたの?」

「集中治療室の辺りをうろうろしてたんで、引っ張ってきちゃいっました。」

真っ黒いガウンとフードに包まれた死神は申し訳なさそうにペコリとあたまを下げた。

「誰かに見つかると騒ぎになるからって、言ってるでしょ。」

主任は死神に向かって小言を言う。心なしか手に持った大鎌がしおれたように見える。私も初めて死神を見るが、この病院では当たり前の出来事らしい。他の看護師も動じる様子はない。みんなその姿から死神と呼んでいるが、この死神は何も悪さをすることがないのだという。看護師や医者にはけっこう見えるのだが、患者には不思議に見えることはないのだそうだ。ただ、霊感の強い患者さんには時折見つかるようで、騒ぎになるらしい。

「変な噂が流れると大変だから、ね。行くとこがないんだったら、ここに居ていいから、うろうろししないで下さい。」

 死神はぺコンと申し訳なさそうにまた頭を下げた。きっと彼も暇を持て余しているのだろう。身の置き場がなさそうである。さすがに死神のいる病院などという噂がたったら、病院としては死活問題である。誰かに見つかるよりはナースステーションに居てくれたほうが助かるのだ。ただ、夏は涼しくていいのだが、冬場は暖房が効きにくいというデメリットはあるそうだ。いずれにせよ、深夜によく見つかる死神だが、朝にはいつの間にか消えていなくなっている。

「コーヒーでも出しましょうか?」

私は立ち上がり、コーヒーを淹れる事にした。今日はちょっと疲れていて、いつもより眠気が強い。座ってパソコンの画面を眺めているより、立って動いていたほうが気が紛れる。

「じゃ、私にも頂戴。」

「すいません。お願いです。」

私はコーヒーを4つ淹れるとテーブルに運んだ。死神の分もある。

「死神はコーヒー飲まないよ。」

「でしょうけど・・・。」

死神はまた申し訳なさそうに頭を下げた。

「私もお菓子とかあげたけど、絶対手を付けないのよね。」

死神はペット化しているようであった。

「あー、こんなとこに居た。」

もう一人の看護師が返ってくるなり、そう言った。

「何もなかった?」

「何も無いですよ。平和です。」

「平和が一番。」

「これなに?」

帰ってきた看護士が死神の前のコーヒーカップを指さした。

「コーヒー?」

「まあね。」

私がそう答えた直後、死神がすぅ~っと消えた。

「え?」

そしてナースコールが・・また一つ、また一つ・・・・。


やっぱり落語。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ