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エピローグ

「ララちゃん……大丈夫?」


 ララは家に着くと、俺を脱いでテーブルに置き、どさりとイスに腰を下ろした。


 そして、放心したような顔で俺を見つめる。


そんなララをセリアは心配そうに見つめていたが、


「そうだ、お茶を淹れるわね」


 そう言って、マントを脱ぎながらキッチンのほうへと去っていくと、ララがハッと目覚めたように背を伸ばし、俺を睨みつける。


「ちょっとアンタ、さっきのは何よ? あの力……あれもアンタがやったわけ?」

「あの力って……?」

「アタシがあの変態男を蹴り倒した時のアレよ。あの時、自分でも考えられないような力が出て……まさか、アンタ、アタシの身体を操ったんじゃないでしょうね」

「俺は何もしてない。あれはお前自身の力だ」

「アタシの力? そんなわけないでしょ。アタシはあんなに――」

「いや、間違いなくお前の力なんだ。これからお前は、自分でも想像できないような速度で強くなっていくだろう」

「どうしてよ? どうしてそう解るわけ?」

「解ってしまうから……としか言いようがない」


 本当に、そうとしか言いようがない。


 ララは一瞬、視線を外してから、


「……じゃあ、お父さんのことは?」


 再び俺を睨む。


「本当に、お父さんは生きてるの? アンタ、昼間は『会ったことがない』って……」

「それは……すまない。さっきルナールに言ったことは、ほぼハッタリだ」

「ほぼ?」

「ああ。昼間言ったことは本当だ。俺はブレイクに一度も会ったことがない。……が、彼が生きてる可能性はかなり高いと俺は思ってる」

「根拠は?」


 ゲームではそうだったから……なんてことは言えない。


「根拠は……ない。だが、感じるんだ。ブレイクは、まだ戦っている。この世界、あるいは別の世界のどこかで」

「本当に?」


 ララが、凄むような顔でこちらを睨み下ろす。怖い。


「言っておくけど……それが嘘だったら、アンタを里長の家のトイレに投げ込むわよ」

「やめろ。いや、でも嘘でも冗談でもない。俺は、ブレイクはまだ生きてると信じている」

「……そう」


 しばしこちらを睨んでしかし、まさに鉄のごとく動揺しない俺の表情を見て納得してくれたのか目を逸らし、疲れた様子で背もたれに身を預けた。


 それから少しして、


「はい、お二人とも、どうぞ」


 と、セリアが俺の前にも湯気だつカップを置いてくれる。


「あら、ごめんなさい。ハルトさんはお茶を飲めないんでしたね、うふっ」


つい先程まで、自身に危機が迫っていたとは思えないような、ほんわりとした笑み。姉がこれでは、ララが男勝りな性格になるのも頷ける。


 ララは深く嘆息して、


「セリア姉は……相変わらず暢気ね。さっきはホントに危なかったっていうのに……」


むっ。とセリアさんはその頬をマシュマロのように膨らませて、


「暢気じゃありません。わたしだって必死に考えてのことだったんだから。だから、今は本当に安心しているの。ハルトさんには、本当に……なんてお礼をすればいいのか……」

「別に礼なんて何も……ここに迎えてくださっただけで、本当にありがたいことだと思っているので……」

「……なんか気づいてたけど、アンタ、アタシとセリア姉で全然態度が違わない?」


 ララがこちらを睨むが、そんなことは当然の話だ。


 セリアさんは俺と同い年のハタチくらいに見えるが、特にその胸の辺りから放たれる、目も眩むような母性が俺を自然とひれ伏させるのだ。残念ながら、ララにはそれがない。


 セリアは手を温めるようにカップを両手で包みながら、


「でも……ハルトさんはわたしたち二人分の命を救ってくれたんですよ。やっぱり、何かお返しをしないと釣り合いが取れません」

「言っとくけど、こういうことに関してはセリア姉は頑固よ。近所の人にアレを貰ったからアレをあげなきゃとか、アレをあげたのにアレしかお返ししてくれなかったとか、そういうことにはホントに細かくて――」

「ララちゃん?」


 うふっ、とセリアさんが柔和に微笑むと、なぜかララはギクッとしたように口を噤む。


 どういうわけか、俺もセリアさんのほうから黒い魔力のようなものを感じないでもないが……。


「いや、でも、そう言われても……俺が受け取れる物なんて本当に何もないし……」


 何も食べられない、飲めない。となると、


「撫でてもらう、ってことくらいしか……」

「なるほど、そうですね!」


 セリアさんは嬉しそうに胸の前で手を合わせ、善は急げとばかりに早速俺を引き寄せて、撫で始める。


「どうですか、ハルトさん? 気持ちいいですか?」

「は、はい……」


 気持ちよくないはずがない。だが、こんな年になって頭をよしよしと撫でられることへの違和感のほうが大きいと言えなくもない。


「アンタ……エロいこと考えてるでしょ」


 ズズとお茶を啜りながら、ララが横目にこちらを睨む。


「いや、そんなことは――ヒッ!?」


不意に身体に電撃が走った。


「ごめんなさい。ここはイヤでしたか?」


 言って、セリアさんはさすっていた左のツノから手を放す。


「い、いえ、全然イヤではありません。むしろ……」

「そうですか? じゃあ……」


 と、セリアさんの手が俺のツノに触れると、再び俺の全身に快感の衝撃が走った。


 なぜだろう? 今までララにもツノを触られたことがあった気がしたが、その時は何も感じなかった。今は妙に感覚が鋭くなってしまっている。そう、まるでアレが敏感な状態になっているときにアレされたように……。


「っ……! せ、セリアさん、そう何度も上から下に……」

「我慢しなくていいんですよ。これが気持ちいいんですか?」


 言って、セリアさんは俺のツノを優しく握りながら上下にさすり、それから頂上部を指で弄ぶ。


「だ、ダメです、セリアさん! それ以上は……!」

「どうしてですか? これくらいじゃお礼はし足りないんですから……まだまだ我慢してくださいね」


その指先で、俺のツノを下から上へすーっ……と繊細に撫で、頂点付近で人差し指をくるくると回す。そして――ちろりと舌を出してそこを舐める。


「ヒッ……!? せ、セリアさん!?」

「ごめんなさい。なんだか美味しそうで、つい……」

「お、美味しそう?」

「はい。逞しくて、敏感で、可愛くて……つい舐めてしまいました。イヤだったのでしたら、これはやめておきますね」

「いえ、全然イヤなんかじゃ……!」

「そうですか? じゃあ――」

「ってコラァ! やめなさいよ、二人とも!」


 と、ララが俺を引っ掴んで取り上げ、叩きつけるようにしてテーブルに置く。


「セリア姉! コイツ今、絶対エロいこと考えてたから! っていうか、セリア姉もそれ解っててやってるでしょ!」

「解っててやってるって……なんのことかしら? どうしたの、ララちゃん? 急にそんな大声を出して……」

「嘘、絶対気づいてるし……! っていうか、まさかとは思うけど……セリア姉、ハルトをここに置いておくことにしたのは、ここまでのことをぜんぶ計算してたからじゃないでしょうね……」

「なんだよ、ララ。急にそんな言いがかりみたいなこと」


俺はすぐにセリアさんを庇うが、セリアさんはショックを受けたようにその瞳に涙を浮かべ、


「酷いわ、ララちゃん。わたしがまるでララちゃんとハルト君を利用していたみたいに……」

「そうだぞ、ララ。セリアさんはさっき本当に危ないところだったんだし……それに第一、こんなに優しいセリアさんが、そんなこと考えるわけないだろ」

「ハルト君……」


 セリアさんはその潤んだ目で俺を見つめ、


「やっぱり、ハルト君は優しいのですね。いつでもわたしを守ってくれて……」

「それが俺の仕事ですから。俺は、いつだってあなたを守ってみせます」

「ありがとう……」


セリアさんは微笑みながら、再び俺をそのふくらみの中へと抱き寄せる。


「こんなに優しいハルト君には、もっとお礼をしなくちゃいけません。今日は、一緒にベッドで寝ましょうね」

「はい」

「『はい』じゃないだろ! アンタは外で寝てろっ!」


 荒々しくツノを掴まれ、俺は窓ガラスを突き破って外に投げ飛ばされた。


 ガランガランと石畳の路地を転がり、それから大粒の星が散りばめられた夜空を見上げて――俺はしみじみと思う。


神様、ありがとう。


超格好良くて女の子にモテモテで、いざという時には身体を張って女の子を守れるような逞しい身体の男に、俺を生まれ変わらせてくれて……。


俺は、ここで生き直してみせる。


自分の力で、自分の運命を切り拓いてみせる。


 向こうの世界では何ひとつできなかった『生きる』ということを……この世界でやり直してやる!

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