第二十回・トゥリーズ水着コンテストpart4
「くっ!」
観客のいくらかは、これから起きようとしているハプニングに気づいていたらしい。セリアさんの胸の頂上から水着が滑るようにずれたその瞬間、ステージ付近のみで小さな歓声が起こったが――
「えっ? ハ、ハルトくん? ……わぅっ!」
スキル・《瞬間移動》
そのハプニングの瞬間とほぼ同時、俺は、俺自身がセリアさんの下着となることで、その大事な部分を隠していた。
それに驚いたセリアさんがバランスを崩して尻餅をついてしまったが、そんなことは些末な問題だろう。
セリアさんは、自分の胸に起きていることに遅れて気がついた様子で、ハッとしたように俺を手で持ち、そのやわらかさにむにゅりと強く押しつける。
「あ、ありがとう、ハルト君……。わたし、夢中で……全然、気づかなかったわ……」
色っぽく息切れしながら言うセリアさんに、俺はセリアさんにだけ聞こえる声で言う。
「間に合って本当によかった……。さあ、早くステージを下りましょう」
セリアさんの優しさが、温かさが、俺の中をたぷたぷと満たしているのを感じる。
ああ、このままでいたい……。永遠に、このままで……。
という、まさに全身が蕩けるような未体験の快感に心が引きずり込まれるが、いつまでもセリアさんのあられもない姿を衆目に晒すわけにはいかない。俺はセリアさんを促して、すぐにステージ脇へと下がらせる。
と、ガロン爺さんが俺たちを横目に見ながら頷いて、
「お、おーっと、エルフの不思議な道具が、エルフのピンチを救ってくれたようじゃ!」
そう気の利いたカバーリングをしてくれる。
ありがとう、ガロン爺さん、後で酒でも奢ってやるぜ。
「おっと!?」
ガロン爺さんが再び叫んだ。
セリアさんの脱落が大きな波となったように、続けざまに他二名が脱落した。つまり、残っているのは、
「ララと、エルマか……!」
ララがここまで残るのは予想の範囲内。しかし、まさかエルマがここまでやるとは思いもしなかった。
「アイツ……口だけじゃなくて、中々根性あるな」
「ええ、本当に……」
ビキニを直したセリアさんが、俺を頭に被りながら言う。
72……84……89……94……105……116……!
白い砂浜を焼く、じりじりとした熱い陽射し。
その下で、もはや恥ずかしげもなく股をガバリと開いてスクワットを繰り返しながら、時に睨み合う二人の少女。
水着コンテストは、次第に純然たる『戦い』の様相を帯び始めた。
それに伴って、観客たちの様子も変化し始めていた。
当初は幾分、女性たちの身体を冷やかすように競技を楽しんでいた観客たちだったが、今その歓声に不純な物は何もない。
戦士たちへの尊敬と、戦いの終末が近いことを予感しているよな緊迫感だけが、カウントを数える歓声にはこもっていた。
あっ――
それは突然だった。悲鳴のような短い歓声が上がって――挑戦者の一人がステージに腰をついていた。
脱落者は、エルマ。
ララの優勝が決まった瞬間だった。
悲鳴は一転して、海を割らんばかりの歓声に転じてしかし、ララはなぜか、その屈伸運動をやめはしなかった。
どうした? 勝ったことに気づいてないのか?
どよめきが観客の間に起き始め、ガロン爺さんも慌てたようにララに駆け寄る。しかし、
「さわ……らないでっ!」
ララはスクワットを続けながら、その顎から汗を滴らせながら怒鳴る。
「アタシはまだまだ……やれるっ! こんな所が……限界じゃないっ!」
しん……。
と、観客が静まり返る。だが、その静寂のうちから、
『136……137……138……』
誰が始めたともなく、カウントが再開され始める。
その声は渦のように次第に観客全体へと広がり始め、そしてその声を、声以上に大きな拍手が包み込む。
そして、
『ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ! ラーラ!』
ララの名を呼ぶシュプレヒコールが巻き起こり始めた。
それはまさしく、戦士を――英雄を讃える民衆の声に違いなかった。
つまり、ララはこの時、ここに集まった男たちの伝説になったのである。
そして、ララが限界を迎えたのは、カウント数も混然としてハッキリとしなくなってからだった。
後に確認したその公式記録は――700回ジャスト。
そのコンテスト後、本人曰く恐ろしいことに、
「ホントはまだまだ行けたんだけど、そろそろみんな飽きてきたかなと思ってやめといた」
とのことだった。
この細い脚のどこにそんなパワーが、と不思議に思わざるを得ない。
全く、エルフの神秘というのは奥が深い。




