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守りたいものpart3

 ダークエルフが、既に素早く俺を拾い上げていた。そんな彼女を、ヴァン・ナビスは暗い瞳で睨みつけるが、


「それはできません」


 エルフが、ダークエルフを守るようにその前に進み出た。


 そして威嚇するようにヴァン・ナビスへ両掌を向け、その身体の周囲に黒魔法・《アイス・アロー》の矢を生じさせる。


「……そんなものが俺に通じるとでも?」

「通じなくても……退く気はありません」

「……ちっ」


 ヴァン・ナビスは小さく舌打ちをして、


「ブレイクに……感謝するんだな」


 その身体を――魔法で作り上げた幻の肉体を闇の中へと消し去った。


「……父さんに? ……なんで?」


「さ、さあ……知り合いなのかしら……?」


 ヴァン・ナビスに対峙していた二人の女性は、怪訝そうに目を見交わす。


「というか――」


 とエルフが、ダークエルフにツノを掴まれていた俺を見下ろして、


「ハルト君……本当にわたしたちのことを憶えていないの?」

「ええ、まあ……」

「人から記憶を奪う能力なんて……そんなのが本当にあるの?」


 ダークエルフが、頭を踏み抜かれ、ほとんど胴体のみの姿となり果てたアンズを見下ろして呟く。すると、


「ありますが、何か」


 アンズの、辛うじて残っていた口元が動く。


と思うと、辺りに散らばっていたアンズの肉体の破片が、まるでそれぞれが一つの生き物のように動きながら胴体へと集結し始める。


 そして程なく、服以外は傷ひとつない元の姿を取り戻すと、平然とした顔でスッと立ち上がる。


「ア、アンタ……まだ生きてたの?」

「生きていてすみません」


ダークエルフのストレートな、しかし真っ当な問いにアンズは涼しい顔で答えて、


「さらに申し訳ないですが、預かっていただいていたハルくんを返してもらってもよいでしょうか」


 と、有無を言わさぬような目でエルフとダークエルフを睨みつける。


 ダークエルフはそのつり上がり気味の目をさらに険しくして、


「こっちこそ悪いけど……それはできないわ」

「なぜ?」

「な、なぜって……それは……。だ、だって、ハルトはアタシたちの、その……仲間なんだから、勝手に連れていかせるわけないでしょ」


ダークエルフは、なぜか急にしどろもどろになりがら言う。


 対して、アンズはあくまで淡々と、


「ですが、ハルくんはあなた方のことを全て忘れています。ハルくんはもう仲間だとは思っていません」

「ハルト……」


 ダークエルフは悲しげな目で俺を見て、


「アンタ……本当にアタシたちのことを忘れたの? 冗談……なのよね? ねえ、そうなんでしょ?」

「…………」


 別に冗談などではない。……のだが、この二人の様子からして、本当に俺は以前、この二人のもとにいたのかもしれない。


なのに、俺は二人のことを全く、何も、一欠片も憶えていない。


 そんな自分自身への戸惑い、そして『申し訳ない』という気まずさから、俺は何も言うことができない。


 エルフが、その青い瞳に薄く涙を輝かせて言った。


「ハルト君……あなたは私たちの、命の恩人なのよ」

「俺が……?」

「ええ……あなたはこれまで何度も、私たちを助けてくれた。私をルナールから助けてくれたし、アルバの森でも、トゥーバでも……ハルト君はいつでも私たちを守ってくれたわ」


 そうよ、とダークエルフが続ける。


「だってアンタ、今だってアタシたちのことを守ってくれてるんでしょ? それこそ、アンタがアタシたちと一緒にいたっていう証拠じゃない」

「それは……」


 確かに、その通りだ。さっき――アンズが二人に攻撃をしかけた時、俺は二人を守るという意志もなかったのに、気づくと守っていた。


 その時になって初めて、俺は自分のスキル・《自動防御》が、二人を対象としていたことに気づいたのだった。


 それはつまり、俺が二人のことをかつては守るべき対象として認識していたということの証拠にほかならない。だが……。


 エルフが、ダークエルフの手から俺をそっと取る。


「もしハルト君が何も思い出せなくても……アンズさん、あなたにはハルト君を返せません」


 フッ、とアンズはその口の端に失笑を浮かべる。


「それは、ハルくんの利用価値が高いから、ですよね? 旅をするために便利だから、傍に置いておきたいんですよね?」

「……それは、否定できません。『ハルト君がいれば旅が楽になるから』とか、『これまでの恩返しをちゃんとしたいから』とか……色々と理由はあります。でも……それだけじゃないのも事実です」


 エルフはアンズの目を見据え、


「わたしたちは、ただ純粋にハルト君と一緒にいたいんです。だから、渡したくない。それだけです」


 そう言って、俺をその全てを包み込むように豊満な胸に抱きしめる。瞬間、


「――――」


パッと、雷光が俺の中で弾けた。

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