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仲間part2

「セリア……」


 女とは恐ろしい生き物だ――


 以前、バータルが言っていたような気がする言葉が、ふと頭に蘇る。


 そうか。これがセリアの本音なのか。


 とすると、まさかオレのことも同じように――いや、そうだったとしても、オレからは何も言えない。オレもセリアと同じように、ハルトをいいように利用してたんだからな。


「確かにハルト君はわたしたちにとって大切な存在だったけれど……でも、道具のためにわたしたちが危ない目に遭う必要なんてないんじゃないかしら。――って、わたしはそう思うわ、ララちゃん」


 セリアはララに笑みかける。と、


「――――」


 今まで黙っていたララはスッと一歩退き、顔を上げる。その目は、慕う姉へと向けるものとは思えないほどに冷たく、鋭い。


「セリア姉……アイツのこと、そんなふうに思ってたんだ」

「……ララちゃん?」

「アイツを甘やかしてたのも、全部アイツを利用するためだったんだ」

「……ええ、そうよ。でも、それはララちゃんも同じはずよ。お父さんに会いに行くにはハルト君の力が必要だったから、だからララちゃんもハルト君を受け入れたんでしょう?」

「それは……」


 と、ララは狼狽えるように視線を逸らす。が、再びセリアを見据え、


「た、確かに、最初はそうだったかもしれない。でも……今は違うわ! アイツはバカで、変態だけど……本当にアタシたちのことを大切にしてくれてた、真剣に守ってくれてた! そんなヤツのこと……アタシはただの道具だなんて思えないよ! アイツはもう、アタシたちの仲間――ううん、違う。仲間よりもっと大切な……家族みたいなものだって、アタシはそう思ってる!」

「うん、わたしも」

「セリア姉もきっとそうなんだって、アタシは…………えっ?」


 けろりとセリアが言った言葉に、ララが目を丸くする。


 ふふっ、とセリアは目を細めて、


「だから、ハルト君をちゃんと助けに行かないとね」


……それは、まさか。


「セリア、お前……ララに気持ちを決めさせるために、嘘を……?」

「ララちゃんは意外とモジモジ悩んじゃうところがあるから、こうでもしないとダメなのよ。時間もないしね」


 確かにそうかもしれないが、こんな嘘を平然とついて、その後けろりと笑っているお前が怖い。


 ララよりもハルトよりも、コイツだけは怒らせないようにしておこう。オレがそう思っていると、


「え? ……え?」


 と、ララがまだ目をパチパチさせて、


「ど、どういうこと? つまり、セリア姉も本当はハルトを助けに行きたいと思ってるっていう……そういうこと?」

「オマエはセリアにまんまと嵌められただよ、ララ。悩んでる場合じゃねえだろって、オマエはそれを自分の口で言わされたんだ」

「嵌められた……?」

「ごめんね、ララちゃん。――でも、今は早くハルト君を助けに行かないと。ハルト君は『家族みたいなもの』なんだから」

「っ……!」


 ララの顔がかぁっと朱くなる。


「も、もう! セリア姉の意地悪!」

「オマエがそんなこと言ってたって知ったら、アイツはきっと喜ぶぞ。ハハハハ!」

「アンタ、それマジでアイツに言ったら、捌いて肉屋に売るわよ」

「ハハ……ハ……」


 暗殺者の目つきだ。前言撤回。コイツも怒らせないほうが身のためだ。


 と、ところで、とオレは話題を転じる。


「助けに行くにしても、アイツがどこに行っちまったのか解るのかよ? とにかく、まずはそれから――」

「ハルト君の居場所なら解るわ」


 と、セリア。


「え……? どうして?」


 ララが驚いたように尋ねると、セリアもどこか驚いたようにララを見返して、


「ララちゃんも解るでしょ? 今もわたしは――ううん、ララちゃんもきっと、ちゃんとハルト君と繋がっているもの。ハルト君の力が伝わってくるのを、なんとなく感じるでしょ?」

「そうなのか、ララ?」

「い、いや……アタシにはよく解らないけど……でも、セリア姉が言うならそうなんだと思う。セリア姉はアタシよりそういう感覚が鋭いから」

「うん……間違いないと思う」


 セリアは神妙に頷くと、目を閉じ、祈るように胸の前で手を組む。


「ハルト君は離れていても、わたしたちのことを守ってくれている……。この力の流れを辿っていけば……必ずハルト君に辿り着けるわ」


 なるほど。流石はエルフ族の血を引いているだけはある。オレは思わず感心しながら、


「それはいいが、アイツを見つけることができたとして、その後はどうするんだ? さっきも言ったが、相手は並みの人間じゃねえんだぞ」

「そうね。でも、大丈夫よ」


と、セリアはやけに自信たっぷりに微笑んで、


「だって、言ったでしょ? 今もちゃんとハルト君がわたしたちのことを守ってくれているんだもの。だから何も心配ないわ。それに、今わたしたちは一人じゃないんだし」

「そ、そうだよね……。うん、きっとなんとかなる。いや、なんとかしなくちゃいけないんだ。今は何がなんでも、アイツを助けてやらなきゃ」


ララが自分に言い聞かせるように呟く。


 すると、セリアは「ふふっ」と笑みをこぼす。


ララはどこか決まり悪そうに、


「な、何さ……」

「別に、なんでもないわよ。ただ、普段は冷たいのに、やっぱりララちゃんもハルト君のことが好きなんだなって思って、ふふっ」

「べ、別に、そんなんじゃ……! って、っていうか! そんなことはどうでもいいから早く行くわよ! ほら、行くわよ馬!」


 恥ずかしさを隠すように声を荒げながら、ララはオレの前に下ろされていた柵を持ち上げた。


 やれやれ、コイツらといると暇をしないな、全く。


  ○  ○  ○

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