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仲間part1

   ○  ○  ○


 この街の水はウマい。


水の味から、オレの生まれ故郷に近づきつつあることが解る気がする。サーマイズ傍の水よりもどことなく苦くて重い。だが、これこそオレが慣れ親しんできた――故郷の味だった。


 と、繊細なオレは思わずセンチメンタルな気分になってしまいながら、水を飲んでいた桶から顔を上げる。


 そして、金色の前髪たてがみをふぁさりとなびかせながら溜息。


「やれやれ……一晩しか休まずにまた旅か。オマエらは本当に馬使いが荒いな」

「ごめんなさい。でも、それはバータルさんが頼りになるから」


 うふっ、と口元を軽く手で押さえながら、馬宿の中――オレに割り当てられた部屋の前にいるセリアが笑う。


「そ、そうか? まあ、そうだな」


 セリアは人も馬も扱いが上手い。つまり、つい上手く乗せられてしまうということだが、そう解っていても、誰だって褒められて悪い気はしないだろう。


と、思わず鼻を前に伸ばしてしまっていると、ララがふらりと馬宿に姿を見せた。


 ララちゃん、とセリアがそのほうへと駆け寄って、


「どう? 上手く行った? ――って、あら……? ハルト君は……?」


 ララの表情が、なぜだか妙に暗い。そしてその頭の上には、なぜかハルトの姿がない。


 ララはセリアの前で立ち止まると、ようやく少し顔を上げて、涙をうるうると溜めた目でセリアを見た。


「セリア姉……どうしよう。ハルトを取られちゃった……」

「え? 取られた……?」


 セリアがとりあえずララを落ち着かせて、それから聞いた話によると、要はこういうことらしい。


 クエストは失敗してしまった。店にいた男に身体を触られ、思わず反撃してしまったから。


 その後、店から逃げて、これからどうするかということをハルトと話し合っていると、アンズという名の女が急に現れ、自分から無理矢理ハルトを奪っていった。女はかなり強く、自分では太刀打ちできなかった。


「オマエが太刀打ちできない……? そんな女がこの街にはいるのか」


 オレはまずそう驚く。だが、今はそれよりも、


「そ、それで、どうするんだ? まさかこのまま退き下がるわけにはいかないだろ?」

「それはもちろん、助けに行かないと……!」


 セリアがその白い肌を青白くさせながら言う。


「だが、どうやって助ける気だ? というか、そのアンズとやらは何者なんだ? ララが手出しもできないなんていう相手が、なぜハルトを……?」


 ハルトをピンポイントで狙うということは、つまり相手はハルトのことを知っていたということ――あれが単なる兜ではないということを知っていたということになる。


 どこで、どうして知られた? 思わず困惑しながら、オレはララを見る。


 ララは怯えるようにオレから目を逸らし、セリアの手を握り返しながら目を伏せて言う。


「そんなの解らないわよ……。どうしよう? どうすればいいの、セリア姉?」

「……そうね」


 少しの間を置いてから、セリアは言った。その声は、どこか冷めているように聞こえた。


「ララちゃんが何もできないくらい強い相手だったのなら……もう、どうしようもないのかもしれないわね。諦めましょう」

「あ、諦める? いいのか、それで」

「だって、しょうがないでしょう?」


 セリアはその顔に苦笑を浮かべる。


「わたしたちにはどうしようもない、何もできることがないんだもの……。ハルト君がいなくなってしまうということは、つまりわたしたちの旅もここで終わり――というか、サーマイズに帰ることもできなくなってしまうけれど……こんないい街なら、これから住んでいくのにはちょうどいいんじゃないかしら」

「だが、それならアイツ――ハルトは……」

「ララちゃんの話によると、ハルト君は自分から彼女について行っていたのよね? それはつまり、手のかかるわたしたちには愛想が尽きてしまった……ということなのかもしれないわ」

「ち、違う! そんなんじゃないよ!」


ララが弾かれたように顔を上げる。


「ハルトはそんな感じで言ってたんじゃなかった! そう……アイツは最後に『俺を信じろ』って言ってたし……!」

「でも、行ってしまったのよね?」


 ララを優しく宥めようとするような穏やかな口調でセリアは言い、ララは言葉に詰まって俯く。


 オレはセリアに尋ねる。


「……セリア、本当にいいのか? アイツは仲間だろ? 仲間を見捨てて、オマエはそれでもいいのかよ?」

「仲間……だったのかしら」


 セリアはあくまで平然としている。いつもと変わりなく、さらりと微笑しながら、


「正直に言うと、わたしはそうは思わないわ。みんなにとってはどうだったか解らないけれど……少なくともわたしにとっては、ハルト君はあくまで道具だった。『どんな敵からも守ってくれるから頼りになるけど、機嫌を取ってあげるのが少し面倒臭い道具』っていう感じ。うふっ」

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