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痺れる思考、兜の役割。

○前回までのあらすじ


・霧の里・トゥーバを出て三日後、ハルトたち一行は風光明媚な都市・ルツェールへ足を踏み入れた。


・そこで旅費を稼ぐためにギルドを訪れ、『酒場で違法営業をする男を懲らしめてほしい』というクエストを引き受けた。


・ハルトとララは翌日、早速そのクエストへ赴くが、その酒場に入ってすぐに、店員からセクハラを受けたララがその男を殴ってしまい、その場から一旦、撤退せざるをえなくなった。


・ハルトとララがこれからどうすべきかと頭を悩ませていると、そこに影野アンズ――元の世界においてハルトをストーキングしていた、ハルトにとっては二度と顔も見たくなかった女が現れた。


・アンズがララに圧倒的な力を見せつけ、ハルトを強奪した。そして……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ん……?」


 気づくと、俺は馬に乗っていた。


 正確に言うと、真っ白な馬(エクス族)に跨がる、黒いドレスを纏った少女の頭に乗っていた。


「ここは……?」


呟くと、俺を――兜である俺を被っている少女が、どこか張り詰めたようにしていた顔をパッと明るくする。


「気づいた、ハルくん?」

「君は……誰だ?」


 尋ねると、少女はなぜか一瞬、小さく息を呑む。


 それから再び明るい笑みを浮かべて、


「私は……私は、影野アンズ。あなたの持ち主だよ」

「俺の持ち主……?」

「う、うん。ええとね……つ、ついさっき、街の道具屋であなたが売られているのを見つけて……それで私が買ったの」

「……そうなのか。悪い、何も憶えてないんだ」


 なぜだろう? どことなく思考がぼんやりしているというか……あらゆる感覚が麻痺しているような感じがする。まるで強く打ち鳴らされた鐘が、じーんとその余韻を残しているように……。


辺りには、既に夜の帳が下り始めている。


 地平線あたりに紫色の光を残した、深い夕闇に包まれた平野を馬で駆け抜けながら、少女――アンズは優しく囁くような声で言う。


「大丈夫だよ、ハルくん。私があなたを守るから……」

「俺を守る……? 兜の俺が君を守るんじゃないのか?」

「ううん、私が守るの。誰にも……あなたを奪わせない。私たちの邪魔なんてさせない、絶対に……」


 少女は――アンズは誰かから逃げているのだろうか?


 後ろを気にしながら馬を駆らせているこの状況からするとおそらくそうなのだろうが、だとすると少し不思議だ。


 アンズはどうして、こんなに暗く沈んだ顔をしているのだろう。怯えや焦りよりも、悲しさがその顔に深く刻まれているのだろう。


 まだ思考はじんじんと痺れている。だが、アンズがいま誰かから逃げているということ、それだけ理解できれば俺には充分だった。


 俺は兜。何があろうと、持ち主であるこの少女を守る。ただそれだけだ。

お久しぶりです。続編の掲載開始です。

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