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クラブ・デニス、再びpart2

がしかし、


「――邪魔です。どいてください」


 アンズがそう言った時には――二人の男はアンズの投げた大剣によって串刺しにされていた。


「ひっ、ひぃぃっ……!」


 危うくそれを逃れた一人の男が、丁字路右側へと姿を消し、そのほうから階段を駆け上るような足音を響かせる。


 アンズは丁字路奥の壁に突き立っていた大剣を――つまり二人の男を刺し貫いていた大剣を無表情で抜き取って階段のほうへと歩いて行く。


「ん……?」


アンズは平然と顔をしているが、俺は床に倒れ込んだ男たちの様子に困惑する。


普通、人間が剣で腹を貫かれればどうなる? 貫かれたその剣を抜かれればどうなる? そんなの、考えるまでもない。勢いよくその傷口から血が噴き出すはずだ。


 なのに――全く、それがない。


というか、男たちの身体には傷らしいものが全くない。その服にすら、全く……。


そういえば、さっきのバーテンダーもそうだ。棚に突っ込んでケガはしたかもしれないが、大剣でぶった斬られたにも拘わらず上半身と下半身はちゃんとくっついたままだった。


 なんだ……? 何をしているんだ? 俺には、コイツの攻撃が色々な意味で見えない。


俺がそう困惑しているうち、ララは飄々としたような足取りで店の奥へ奥へと踏み込んでいく。


 廊下の先にあった階段を上りつつ、上から斬りかかってくる三人の男たちをその懐に潜りつつ突き上げて、逆背負い投げのように階下へ投げ捨てる。上階から距離を取って魔法を放とうとした男との距離を瞬時に詰め、一刀の下に斬り捨てる。


 ――が、やはり、倒れた男たちには全く傷がない。


 傷がないにも拘わらず気絶したように昏倒し、あるいは衝撃で魂が抜けたかのようにその場にボンヤリとへたり込んでいる。


「な、なんだテメエ! ぶっ殺されてえのか、ああっ!?」


二階の廊下を進むと、その先で剣を構えていた、どう見ても堅気ではない強面の男がそう凄む。


が、その男も、その男の背後で魔法を放とうとしていた男も、アンズの速さの前には何もできず、窓を突き破って外へと弾き飛ばされる。


 ところで、なんなんだここは? そういう店でありながら、その筋の方々の事務所でもあるのか? 次々と、キリがないほど顔に傷のある野郎共が湧いて来やがる。


 ララがここまで来なかったのは逆に正解だったかな……。なんてことをふと思っていると、アンズが尋ねてくる。


「ふふっ。ハルくん……確かに斬られてるのにどうして誰も傷がないんだろうって、不思議に思ってるんでしょ?」

「あ、ああ……」

「嬉しいな。私のこと気になってくれて……。じゃあ、ハルくんにだけは特別に教えてあげる。私ね、ハルくんと同じで、もう人間じゃないの」

「人間じゃない……? どこからどう見ても人間だろ」


うん、と頷きながら、前から斬りかかってきた男の一撃を跳ね上げ、ガラ空きになったその胴体を刺し貫く。剣を抜き、倒れた男の背中を踏んで前へ進む。


「私の本体はね、身体じゃなくて――この剣のほうなの。この身体は、私の本体であるこの剣と『魔力をリンク』をさせて動かしているだけの、ただの人形なんだよ」

「人形……? その身体が?」

「うん。それでね、私もハルくんみたいに特別な力があって――それはね、『忘れさせる』力なの」

「忘れさせる力……?」

「斬った人間から自由に記憶を奪える力……っていうのかな。だから、これまで私が斬った人たちも、私に斬られたことなんて何も憶えてない。憶えてるのは、私に斬られる瞬間の『死んだ』っていう感覚だけ」

「…………」


 なるほど。だから、斬られてまだ意識があった連中は、一様にポカンと座り込んじまってたのか。


「私はこの力を、ハルくんと同じ場所で貰ったんだよ。それでね、これを使ってハルくんに『全部を忘れさせろ』って……そう言われたの」

「そ、それは……俺に教えてもいいことなのか?」

「当たり前だよ」


と、はにかむ乙女の顔をしながら、アンズは小さな虫を軽く払うように男たちを次々と斬り捨てていく。


「だって、ハルくんがぜんぶ忘れちゃうっていうことは……私たちのたくさんの思い出も忘れちゃうっていうことなんだよ? そんな悲しいこと……できるわけないよ。これから、やっと私たち二人で暮らしていこうとしてるのに……」

「いや、ちょっと待て。俺はそこまで――」

「しっ。たぶん、ここだよ」


 アンズは二階廊下の最奥にあった扉の前で足を止める。そして、


 ドゴォンッ!


 右前足蹴りで扉を吹き飛ばした。

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