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クエスト・風紀粛正part2

「郷長から……?」


ええ、と女性は姿勢を前屈みにして囁く。


「このデニスってのは、政治にも口を出せるほどの街の有力者でね。郷長と言えども簡単に手出しはできないのよ。だから、アンタらみたいに土地を渡り歩いてる冒険者の出番ってわけ」


 ……なるほど。冒険者にクエストを依頼して、さっさと仕事だけして街を出て行ってもらえば、後に陰謀を疑われたとしても、その時にはもう決定的な証拠はどこにも残っていない、ということか。


 要は都合のいい使い捨てと言ったところか。俺としては、このクエストを受けたことで何か後々デメリットがあるわけでもなさそうだから、受注してもいいような気がするが……二人はどう思うだろうな。


あの、とセリアさんが口を開く。


「先程、『女の子に向いた仕事』と仰っていたような気がするのですが……これはどう見ても男性向きの仕事ではないでしょうか?」


 確かに。なぜこれが『女向き』のクエストなんだ?


「そのほうが相手を油断させられるからさ。誰だって、柄の悪い男なんてそうそう身の回りには近づけさせないだろ? でも、アンタたちなら……」


 美貌を利用して、標的の懐に飛び込める、と。


 そういうことなら――うん、これは断るべき仕事じゃないだろうか。


 俺が傍にいるから、もちろん二人に命の危険が及ぶことはない。だが、色仕掛けをするということは、男たちからのセクハラに、ひたすら耐えねばならないということだ。その間、もちろん俺が二人を守ってやることもできない。怪しまれたらそこでクエストは終了なわけだからな。


――二人が辱められているところなんて、俺は見たくない。


(たまに)二人に対してセクハラをしている俺がこう思うのもなんだが、こんな仕事は受けるべきじゃない。そう思っていると、


「ふーん……まあ別にいいけど」


 と、ララ。セリアさんは驚いたように、


「ララちゃん、大丈夫なの? 別にわざわざ無理しなくても……」


 俺と同じ心配をしているらしくそう言うが、ララは微笑して、


「大丈夫よ。ハルトも――じゃなくて、この頼りになる兜サマもあるんだし、アタシ一人でもこんなクエストは楽勝よ」

「え? 一人で……?」

「うん。どうせ、厄介な酔っ払いをちょっと懲らしめてくればいいだけのことでしょ? この程度のクエストなんてアタシにかかれば朝飯前。明日、セリア姉がお昼ご飯を食べてる間にでも全部終わらせて、さっさとこの街を出発してやろうじゃない」


 ノリが軽いな。そんなもんなのか、女の人は。――とも思うが、


「……あの、セリアさん」


 宿に戻り、ララがトイレに行って部屋を出ている間、俺は事情をちゃんと察しているらしいセリアさんに尋ねた。


「ララのやつ……たぶんこれがどういう仕事なのか、全然気づいてないですよね?」

「ええ、たぶんね」


くすりとおかしそうにセリアさんは微笑む。


「これ、大丈夫なんですか? もしララに何かあったら……」

「ふふっ、大丈夫よ」


 俺が置かれている丸テーブル、その傍にあるイスに座っているセリアさんは、いつも通りの天使のように柔らかな微笑を浮かべて言う。


「だって、ハルト君がいるもの。ハルト君なら絶対に――もし引き離されるようなことになってしまったとしても、ちゃんとララちゃんを守ってくれる。だから、わたしは何も心配していないわ」

「そ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど……それは流石に俺の信じすぎじゃないですか? 俺だって、もし油断していたら――」

「信じすぎなんかじゃないわ」


セリアさんは両手でそっと俺を持ち上げ、まるで赤ちゃんに授乳する母親のように俺を胸のすぐ下で抱える。わずかに触れるその大きなふくらみは、温かくて、甘い匂いがする。


セリアさんはやはり赤ちゃんをあやすように俺を優しく撫でて、


「全てはハルト君……あなたのおかげなのよ。あなたがわたしたちの所へ来て、そしてわたしたちのことを守ってくれたから、わたしたちは今こんなに楽しいの。バータルさんと出会えたことも、色んな景色を見られたことも、色んな人と出会えたことも……全部ハルト君のおかげ」

「そ、そうでしょうか……?」


そうよ、とセリアさんは断言して、


「だから、わたしたちがハルト君を信じることも、好きになることも当たり前なの」

「はあ…………え?」


 最後に聞こえた気がした言葉に、俺は思わず耳を疑う。


 今、気のせいじゃなければ、セリアさん、俺のことを『好き』って……?


 ……勇気を出して訊いてみる。


「あ、あの、今のはどういう……?」

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