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魔の霧part3

「どうにかって……ヤンがどこに行ったかも解らないのに、何ができるっていうのよ?」

「さあ」

「さあ?」

「まあ、たぶんなんとかなるだろ」


 軽くそう言う俺に呆れたように、ララはポカンと口を開ける。俺は二人に言う。


「まずは見晴らしのいい場所――屋根の上に移動しよう。というわけで、セリアさん、まずは家の裏手の窓を開けてください」

「窓を……?」

「大丈夫です。俺が守りますから、何かを投げられても当たることはありません」

「え、ええ……」


 と戸惑った様子のセリアさんだったが、俺の言葉に従って、壁に姿を隠しながら家の裏手に面している廊下の窓を開ける。


「屋根の上まで飛びます。セリアさん、ララの手をしっかり握って」


 そう指示してから、俺はスキル《空中浮遊》を使って窓の外へ浮き上がり、そのまま三角屋根の、煙が最も届いていない辺りに二人を降ろした。


「こんなトコで何をするって言うのよ?」


 というララの疑わしげな視線を痛いほど受けつつ、俺は頭の中で呟く。


 ……ヤンの居場所を知りたい。


『アクセプト』


頭の中に、機械的なほど爽やかな男声が響く。


『スキル《広範囲探索》をダウンロードしますか?』


ああ、頼む。


『スキル《広範囲探索》――ダウンロード成功』


「スキル《広範囲探索》」


 スキル《神層学習》によって《学習》したばかりのスキルを、俺はさっそく使う。と、


 コーン……。


 スキル《探索》と同じ音が周囲に響き、半球形状の緑光の幕が音のような速さで飛んでいく。そして、


「……いた」


 南東の方角、およそ七十メートル。林の中に、明るい黄色の光で縁取られた人型の何かが闇から浮かび上がった。


 この状況で俺達を放って逃げ出すはずがない。絶対にそう遠くはない場所で見ていると思っていた。


 ――一撃で仕留める。


 そう思うと、再び頭の中に声。


『アクセプト。スキル《狙撃》をダウンロードしますか?』


ああ。


『スキル《狙撃》――ダウンロード成功』


 このスキルは、遠隔攻撃が可能なあらゆる魔法・スキル攻撃と併用が可能。まるでこのスキルを使い慣れていたかのように俺は瞬時にそう理解すると、


「セリアさん、申し訳ないですが、俺を脱いでもらってもいいでしょうか」

「え? は、はいっ」


 と、慌てたように俺の指示に従うセリアさんに、


「これから、ヤンに向かって魔法を撃ちます。その時、ほんの少しだけ衝撃があるかもしれません。だから、ララ、後ろからセリアさんの背中を支えていてくれ」

「う、うん。でも、衝撃があるならアタシが持ったほうが――」

「ううん、大丈夫よ。というか、ララちゃんには無理よ」


 と、セリアさんが首を振り、


「さあ、うかうかしていると煙で辺りが見えなくなってしまうわ。急ぎましょう」


 そう急かされ、ララは慌てた様子で背後へ回る。


「いいですか、セリアさん」

「ちょっと待って」


言って、セリアさんは両手で持っていた俺をその豊満な胸のふくらみ、その谷間でふんわりと支えるような位置に持ち替える。


「ふふっ、これでどうかしら? これなら衝撃があっても大丈夫よね?」

「は、はい、それはもちろん」

「……セリア姉。さっきアタシには無理って言ったの……アタシの体調を気遣ったわけじゃなくて、まさかそれができないと思ったからじゃないわよね」


 うふっ、とセリアさんは誤魔化すように笑って、


「それより、今わたし達がすべきなのはちゃんとハルト君を支えてあげることよ。ハルト君は真剣にわたし達を守ろうとしてくれているのだもの。わたし達もできることは全てしてあげないと」

「そりゃまあ、そうだけど……でも、ハルト。わざとたくさん外してセリア姉にくっついてようなんて考えたら、下にいる連中の中にぶん投げるわよ」

「お、俺がそんなこと考えるわけないだろ。心配するな、一発で決めてやる」


 ララめ、なんて勘の鋭いヤツだ。


 一発か二発くらい外して、セリアさんの包容力を堪能してみようかという計画を俺は残念ながら取り止めて――スキル《狙撃》を起動。


 まるで至近距離のようにズームアップされて見えるヤンに照準を合わせて――


 サンッ!


 白魔法ホーリー・ライトを放った。遠くへ飛ばすために収縮させたその白光は、透き通った音を響かせながら闇を切り裂き――ジャックポット! ヤンの頭部を撃ち抜いた。


「……お?」

「何よ? まさか外したんじゃ――」


 ララが訝るように口を開いたが、俺から鳴った『シャララン……』という音で言葉を切って、


「と思ったけど、その音がしたってことは上手く行ったってことよね?」

「あ、ああ……。これで、この里の霧もじきに晴れるだろうな」


俺は余計なことは言わず、そうとだけ言っておく。


 ヤンは……あまりにも『魔』と同一化しすぎたのだろう。


 《ホーリー・ライト》の効果を受けるはずがない肉体がすっかり消えてしまっている(つまり光に撃ち抜かれた頭部が消失した)ヤンの死体を俺は見てしまったのだが、それは二人には言わないほうがいいような気がした。


 あまりにも深く魔に憑かれていたとは言え、彼はあくまで人としてこの世に生を受けた者だった。それを殺めたという罪の意識を背負うのは……実際に手を下した俺一人で構わないだろう。


「本当……」


 と、セリアさんが小さく喜びの声を上げる。


「下を見て。みんなが正気に戻ったみたいよ」


 見てみると、確かに皆、平常心を取り戻した様子である。


 しばらくポカンとしたようにお互いの目を見合わせていたが、すぐに目の前で燃え上がる里長の家に気づいて、てんやわんやに慌てながら火消しに取りかかり始めた。

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