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里長の屋敷へpart1

 今は使われていない、本来の『里長の屋敷』へと歩いて向かう道々、この里でかつてあったという事件について里長が話してくれた。


「まず初めにな、里長の姉が――マルセルというんだがな、その子がある日突然、行方不明になったんだよ。


 そう、行方不明だ。里中大騒ぎになって、男も女も、可能な限りの人間を駆り出してだいぶ広い範囲を……もちろん、『誰かに殺されて、その死体をどこかに隠された』という可能性も考慮して捜し回ったんだが……全く見つからなかった。


 で、それから二ヶ月ぐらいして奥さん――リタが庭の木で首を吊って死んで、それから数日も空けないで次女のシルヴィアが病で亡くなった。


 そう、本当にあっという間の、立て続けのことだ。でもな、それだけじゃ終わらなかった。最後に残っていた里長のジョスも、それから一月(ひとつき)ほどして死んだんだ。自分の家の庭で、凍死でな。


さあ……どうしてそんなことになったのかは、未だに俺達にも解らんよ。でもな、ジョスは奥さんが亡くなった頃から……なんというか……少しおかしくなってしまっていてな。


『寝ていると、どこからともなくギシギシと何かが軋む音が聞こえる』だとか、『井戸からマルセルの声が聞こえる』

 

 なんてことを言って回るようになっていたんだ。


 ジョスが家の外で死んでるのが見つかったのは、彼がそんなふうになってる最中のことだったから……里の者たちもその死を特に怪しんだりはしなかったよ。もちろん、憐れだとは思ったがね……」

「最初に死んだ――じゃなくて、行方不明になったっていうマルセルは、その後……?」


 ララが尋ねる。前を歩く里長はこちらを振り返らないまま、


「いまだに見つかってない。それに、どうしていなくなったのかも……まだなんにも解ってない。でも、噂では――ああ……いや、なんでもない。噂なんて話してもしょうがないな」

「……いや、聞いておくべきだと思います」


 俺はセリアさんにそう囁く。セリアさんは頷いて、


「噂でも、聞かせていただけないでしょうか? もしかしたら、何かのヒントになるかもしれないですし……」

「ん? まあ、そうだな……。じゃあ、いちおう話しておくが……一部の人間の間では、マルセルを殺したのはリタ――母親なんじゃないかって言われてるんだ」

「お母さんが……?」

「うむ……。奥さんは確かに教育熱心というか……子供に対して厳しい人でな。そりゃもう可哀想なくらい、子供達には色んな勉強をさせようとしていたんだ。でも、マルセルは勉強より外で遊ぶのが好きな子で、よく家を抜け出して遊び回っていたんだよ。

 それで、ある日、いよいよ娘の不真面目さに我慢ができなくなって、そのお仕置きをしているうちに、それが行き過ぎてしまって――とな」


 言い終えてちょうど、里長はとある家の前、大きな鉄柵門の前で足を止めた。その門の向こうに見えるのは、石造りの、どっしりとした三階建ての屋敷である。


 どうやら、ここが元・里長の屋敷らしい。先程は豊かな農家の一軒家という感じだったが、こちらはまさしく屋敷という感じだ。


 が、長く打ち捨てられたままになっているらしく、ところどころ窓は破れ、壁はツタやコケに侵食されて……まさに『出そう』な雰囲気が満載である。


「ここが問題の――本来の里長の屋敷だ。で、ここから先は……ああ、いたいた。おい、ヤン爺さん!」


 そう里長が声をかけたのは、柵の中、広い前庭の片隅にいた一人の老人だった。


 ヤンという名らしいその老人は顔を上げると、薪割りをしていた手を止めて、やや腰を曲げながらこちらへ歩いてきた。


茶色いボロの服を身に纏った、六十代ほどの男性である。


 髪は真っ白で、ほとんど坊主のように短い。額の狭さと、ほとんど繋がったような眉毛、そしてその小柄な体つきから、なんとなく猿を思わせるような容貌だった。


ヤンは腰の低い笑みを浮かべながら鉄柵を開くと、


「これは……里長さん、どうなされました」

「ああ。実はこの二人が――ああ、そういえば、まだ名を聞いていなかったな」

「アタシはララ、こっちは姉のセリアです」


 そうか、と里長はヤンに視線を戻し、


「ララさんとセリアさんの二人が、『あのクエスト』を引き継いでくれることになってな。それで、ここでの案内なんかはヤン爺さんに任せたいと思うんだが……」

「へえ、さようで……。もちろん、お引き受けいたします」

「ああ、悪いが……頼むよ。俺にはもう、この屋敷の中がどうなってるのか解らないからな……」


里長はどこか気まずそうな様子で言って、


「じゃあ、ララさん、セリアさん、他に何か訊きたいことがあったら、ヤン爺さんになんでも訊いてくれ。ヤン爺さんは昔からこの屋敷で使用人として働いていて、今もあの小屋に――」


 と、道をさらに少し進んだ所、屋敷を囲む塀のすぐ傍にポツンと建っている小屋を目で指し、


「一人で住んでいるんだ。この屋敷のことでヤン爺さんに解らないことはないからな。――じゃあ……あまり無理はせんでな」


 どこか申し訳なさそうな顔をしながら、こちらを振り返り振り返りして道を戻っていった。

いよいよ幽霊屋敷へ突入です。

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