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その罪、万死に値する。part2 +エピローグ

「でも……」

「大丈夫です。セリアさんの覚悟は、俺がしっかり受け取りました。それに、きっとララにも……その思いは伝わったはずです。だから、あとは俺に任せて」

 

 バータルはどうでもいいとして、ララとセリアさんを精神的にも肉体的にも追い詰め、恐怖を感じさせたその罪は、万死に値する。容赦などしてやるものか。


 長年の感覚から解る。アラネア族で、鉄色の地味な色合い。その特徴からして、コイツはまず間違いなく土属性だろう。となると、弱点は水だ。


 水属性の最強魔法アクアレイで一気に貫いてしまいたいところだが、今その背後にはララがいる。だから、このままそれを放つわけにはいかない。


「ってわけで、一つ無駄に苦しみを与えちまうことになるが……まあ、許してくれよな」


 俺はそう前置きしてから、


「《ロック・ニードル》」


 魔王ヴァン・ナビスから《学習》していた黒魔法ロック・ニードルを発動。


 ゴゴッ、という地震のような揺れと響きがした直後、大グモの真下から鍾乳石を逆さにしたような複数の岩――岩の槍が突き出し、属性を無視した強力さでその甲殻を貫く。


 大グモはそのまま上空まで突き上げられ、その八本の足は無意味に宙を搔いた。


「《アクアレイ》」


唱えると、キョトンとしたような顔で大グモを見上げているセリアさんの目の前に、ピンポン球ほどの水の球が、小さな水の微粒子から膨らんだようにして現れた。そして――


 ――ん? これで終わり?


ポコンと水の玉が現れて、それきり停止――したと思った瞬間だった。


 ドンッ! 


 という衝撃がこちらへ向かって走って、同時、両手でも抱えきれないような水柱が大グモの巨体を貫き――否、残酷なまでに砕き割っていた。


 後に残されたのは半ば程から折れた石柱と、青い空、そしてそこにうっすらとかかった虹だけ……。


――流石は水属性の最強魔法……。


 っていうか、マジでララのほうに向けて撃たなくてよかった……。そう心底安堵していると、


 シャララン……。


 俺がこの世で最も好きな音が俺の身体から響き、目の前に俺だけが見えるウィンドウが開かれる。


「え……? 今の音は……?」


 ポカンとしていたセリアさんが、驚いたように周囲を見回す。


「あ、ああいや、大丈夫ですよ、セリアさん。これはなんていうか……セリアさんが強くなったことを証明する音っていうか……そういう時に俺の身体から鳴ってしまう音なんで、気にしないでください。あはは……」


 そ、そう? とサリアさんは釈然としない様子だが、ララを助けなければいけないし、手早く済ませよう。


『セリア・ネージュ・ベルナルド

 レベル5

 物理攻撃 14

 物理防御 12

 魔法攻撃 26

 魔法防御 29

 素早さ  12

 最大HP 43

 最大MP 102

 残46』


……なるほど。やっぱりセリアさんもステ振りを全くしていない。やってくださいと言ってできるものじゃなさそうだし、またここは俺に任せていただこう。


『セリア・ネージュ・ベルナルド

 レベル6

 物理攻撃 20

 物理防御 20

 魔法攻撃 32

 魔法防御 37

 素早さ  18

 最大HP 49

 最大MP 108

 残0』


全体にバランスよく配分しつつ、いつも美しく健康であってくださいという願いを込めて防御系には多めに振っておいた。っていうか、レベル5の時点でMPが100越えとは……流石はエルフ、そら恐ろしい。


 ウィンドウが切り替わり、


『白魔法《ディス・パラライズド(麻痺打消)》を習得』


 と表示がされる。続けて俺のスキル《学習》が自動的に発動。どうやらヴァン・ナビスから《学習》しきれていなかったらしいそれを俺も習得する。 


全く便利な能力だ。


そう返す返す感心しつつ、俺は黒魔法ロック・ニードルを威力を弱めつつ使ってララ達の上に覆い被さっていた木々を脇へと避け、二人(一人+一頭)を救助した。


……よかった。バータルが守っていてくれたらしく、ララは全くの無傷である。


「ララちゃんっ!」


ララの姿を見るや、セリアさんが勢いよくその身体に抱きつく。


「よかった……! よかった、本当に……! 大丈夫よね、ケガはないのよね!?」

「う、うん、わたしは大丈夫……。っていうか、セリア姉、苦しいってば……!」

「あ……ご、ごめんね」


セリアさんはハッとしたようにララの身体を放し、それから、


「バータルさん、あなたがララちゃんを守ってくれたんですね。本当に、本当にありがとうございます……!」

「別に、そんな大したことじゃねえよ。オレ様はこの世界一のナイスガイだからな、これくらい当然だぜ」

「でも、背中にケガを……待ってくださいね。わたしがいま治しますから」


 そう言って、白魔法キュアでバータルの背中の傷を治療し始める。そして、その痛々しい傷へと目を向けたまま、


「ララちゃん、ハルト君……わたしも、一緒に旅へ出るわ」


 そう静かに言ったのだった。


「わたしはもう、後悔したくない。自分だけ安全な場所で身を潜めて、苦しいことはぜんぶ人に押しつけて、取り返しのつかないことになってから後悔する……もうそんなことはしたくないの。わたしが一緒にいたって、なんの役にも立てないかもしれない、足手まといになるだけかもしれない。

 でも、何もしないのはもうイヤなの。だから、わたしも行くわ。わたしも行って、少しでもララちゃんを守る手助けをしたい」

「セリアさん……」


 意志は既にそうとう固いようだが……どうする? 


 俺がララへ視線を向けると、まるでその気配を感じたようにララがちらと俺を見る。それから、小さく嘆息しながら微苦笑して、


「セリア姉はこう見えて、いったん何か言い出したら頑固なのよね……。――けど、まあ……セリア姉がそうしたいなら、アタシは別に構わないよ。ハルトは?」

「俺は所詮、ララとセリアさんの所有物だ。二人が決めたことに従うまでさ」

「……ありがとう。ララちゃん、ハルト君……」


 そう囁きつつ、セリアさんはバータルのケガの治療を終える。と、


「おい、ちょっと待て」


 バータルが口を開く。


「オマエら、旅に出るって……一体どこに行くつもりだ? まさか……」

「ええ、そうよ。アタシらを里に置いて一人でどこかに行った誰かさんを捜しにいくの。もし会えたらどうするのかなんて決めてないけど……とりあえず生きてるのか死んでるのか、それくらいはハッキリさせておきたいじゃない?」

「な、なら、その旅にオレも連れて行け!」


 ララが言い終えるかどうか、バータルが叫ぶように言った。


「オレも、ヤツには訊きたいことがあるんだ! なぜオレに黙って一人で旅に出たのか……それを聞いて納得しないと、オレ様のプライドが傷ついたままになっちまう! だから、オレも連れて行け! ブレイクと長い時間旅をしたことがあるオレがついていってやると言ってるんだ! これはオマエらにとっても悪い話じゃないだろ!? なあ!?」


 まるで生き別れた最愛の妻と再会するチャンスを得た男のようだ。ブレイクってのはそんなにも美しい女性だったのかね。


 なんてのは冗談で――確かに、それはこっちにとっても願ってもない話だ。っていうか、


「顔を近づけるな。セリアさんの美しいお顔が汚れるだろ」

「アダァッ!?」


凄まじい鼻息を噴出するバータルの鼻に電撃をお見舞いして、俺はまずララに尋ねる。


「どうだ、ララ? 俺は悪くない話だと思う。手なずけて里に帰れば、クエストの報酬もたぶん貰えるだろうし。馬を買うカネも浮く」

「『手なずけて』だと? オレ様は別に手なずけられてなど――」

「そうね。アタシも構わないわよ。セリア姉は?」

「もちろん賛成よ。バータルさんのような方が一緒にいてくれると、とても心強いわ」

「だろう!? そうだろう!? 流石はブレイクの長女だ、解ってるな! オレ様についてくれば何も問題はない! このナイスガイが、お前らをブレイクのもとへ連れていってやる! ハハハハハハハッ!」


 ……こんな、間違いなく世界一やかましい馬を選んじまうなんて……もしかして俺達は早速、判断ミスをやらかしたのか?


 旅の第一歩目、否、第一歩目のその前から暗雲が立ちこめてきたような気がしなくもないが……ともかく、これで旅の準備は整ったわけだ。


 帰るアテも、行くアテもないこの孤独な身。美少女の頭の上ならどこまでも。


 という決意に変わりはなのだが、なんだろうな。さっきから妙な寒気が――まるで後ろから誰かにじっと見つめられているような気がしてしょうがない。


 まあ、俺以外の誰もそんなことを気にしてる様子もないし、どうせ気のせい……ということにしておこう。

このエピソードは一旦、ここで区切りです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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