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クエスト受注part2

「あなた方は……?」


 セリアが戸惑った様子で言うと、リーダーらしき、右目に眼帯をした、最も背が高く体つきも逞しい男がニヤニヤと笑いながら言う。


「なんだよセリア、その顔は? 幼なじみが家に来てやったってのに、冷てえな」

「誰が幼なじみよ。ただ昔から知ってるだけのことじゃない」


 ララはセリアを隠すように男の前に立ち、自分よりも頭三つぶんは大きな男を睨み返す。


俺は声を潜めて言う。


「……セリアさん、あの人は?」

「ベランジェ・ロル……昔からの知り合いで……今はララちゃんと同じ仕事をしている人よ」


 同じ仕事……ってことは、コイツもギルドに所属してる冒険者ってことか。確かに腕っ節は強そうだが……美少女には程遠いし、あまり仲間に引き入れたくはないタイプだな。


「おいおい、そう睨むなよ、ララ。俺はちょっとお前に話があって来ただけなんだぜ」


 と、男は茶色がかった短髪の前髪を掻き上げながらニヤリと笑う。


「アタシに話? アンタみたいな暇人と話すことなんて何もないと思うんだけど」

「そんなことはねえだろう。――なあ、ララ。お前、随分なクエストを引き受けていったそうじゃねえか。ああ?」

「だから何よ、アンタには関係ないでしょ」

「何言ってんだよ、俺達は同業者じゃねえか。しかも、ガキの頃から互いに顔を知ってるような仲だ。だからそのよしみで、お前に手を貸してやろうかと思ってここに来たのさ」

「はぁ? 何よそれ? どうせアンタはカネ目当てなだけでしょ?」

「バカ言うなよ。この俺がそんなみみっちい男に見えるか? 俺は人の報酬を横取りするような男じゃねえよ」

「どうだか。――ちょっと、セリア姉、どこに行くの?」

「え? お客様が来たのだから、お茶を――」

「お茶なんていらない。コイツらは客なんかじゃないし、すぐに帰るから」

「おいララ、そんなに邪険にしないでくれよ。俺はな、お前達に謝りたいんだ」

「謝りたい? 何をよ」

「お前、なぜかは解らんが、ここしばらくルナールの野郎から妙に目ェつけられてただろ? お前がまともに仕事を取らせてもらえないのを見てて、俺もどうにかしてやりたいとは思ってたんだ。

 だが、『ここから追い出されたくなかったら余計なことはするな』と野郎から直々に脅されてな。何もしてやれなかったんだ」

「……何よ。やっぱりみみっちい男じゃない」


 ボソリとミアは言う。


 もっともだ。というかたぶん、コイツはルナール直々に脅されてなんかいないだろうな。こんなチンピラごときに、里長がわざわざ釘を刺す必要なんてどこにもない。……ああ、ララがコイツを嫌う理由がもう解ってきた。


 ベランジェも調子に乗って余計なことを言ったと思ったらしい、どこか慌てたように、


「だ、だからそう冷たくすんなって。第一、このクエストにはそれなりに頭数が必要なはずだぜ。お前ごときじゃ力不足ってのは言うまでもなく、セリアまで一緒について行くんだろうからな。――そうだよな、セリア?」


 どこか脅しを含んだような笑みを浮かべながらベランジェが尋ねると、セリアさんは息を呑んだような表情でそれを見返して、それから逃げるように目を伏せた。


 ……何か、この男に弱みでも握られてるのか?


 俺はそう思いつつ、部屋の中央でセリアさんとベランジェの表情を見比べて――強い衝動に駆られる。言いたい。叫びたい。


『テメエらの助けなんていらねえよ!』


 と。


『今のララは、こう見えてテメエらなんかよりずっと強い(はずな)んだぞ!』


 と。


 だが、今は堪えて黙っておく。コイツらに俺のことが知られて、何かいいことがあるとは思えないから。


「……いらない」


 ボソリと、ララが言った。腰の剣に手をかけ、今度は怒鳴るように言う。


「アンタらの助けなんていらないわよ! アンタの手を借りるくらいなら、さっさと死んだほうがマシよ! 解った!? これがアタシたちの答えよ! 解ったなら、さっさとここから出て行け、チンピラ共っ!」


 おお、よく言ったぞ、ララ。その度胸はやっぱり大したものだ。


 が、ベランジェは取り巻きの男達と苦笑し合いながら、


「そうカッカするなよ、ララ。全く……お前はセリアと違っていつまでもガキだな。特にその、胸の辺りが」


 言って、取り巻きと一緒に声を上げて笑い合う。


「ッ……! アンタら――」

「ヒッ! はっ……な、なんだあ!? や、やめろ、来るな! コイツら、どこから湧いて来やがっ……!? う――うわああああああああああああああああっ!」


まるで目の前に爆弾でも置かれたか、あるいは幽霊でも現れたように、ベランジェとその取り巻き二人が急に何かに怯え始めた――と思うと、何もかも放り出すような勢いで家から逃げ出していった。


 ララはキョトンとしながら、


「え……? な、何、急に?」


 と、背後に何か現れたのかと思ったようにこちらを振り向くが、そこにいるのは変わらずセリアさんと俺だけである。


「ハルト君……何かしたの?」


 セリアさんが尋ねてくる。もう連中はいなくなったし、黙り続ける必要もない。


「少しだけ幻を見てもらいました。放っておいたら、ララがヤツらを殺しかねないと思ったので」


 冗談じゃなく割と本気で。だからこそスキル《神層学習》によって、相手に幻を見せる黒魔法ネブラを今この場で習得できたのだろう。


「別にあんなヤツら、あたし一人の力でどうにかできた――って言いたいところだけど、ここは素直に礼を言っておいてあげるわ」


 と、ララは拗ねた子供のような顔で俺を見て、


「アイツらに手を出してたら絶対、後々面倒臭いことになってたし……まあ、助かったわ、ありがとう」

「お互い様だ。俺はララとセリアさんの好意で、こうして『保護』してもらってるわけだしな。番犬ぐらいには喜んでなるさ」


ところで、と俺は尋ねる。


「アイツらはどれくらい強い冒険者なんだ? 性格はそうとう捻じ曲がってるみたいだが、実力のほうは?」

「悔しいけど、この里じゃ一番の強さね」


へえ。じゃあ、ルナール直々に釘を刺されたってのも嘘じゃないかもしれないのか。


「でも、だからウザいのよ、調子に乗って……。っていうか、アイツがここに来た目的は絶対セリア姉よ。ルナールの目がなくなったから、早速セリア姉に手を出そうとしてんのよ」


 だろうな。


「セリアさんは、これからなるべく一人で出歩かないようにしたほうがいいでしょうね」


 ――って言っても、俺とララは遠からぬうちにこの里を出て行ってしまうわけだが……。


 セリアさんは俺達についてくるかまだ迷っているようだが、もしついてこないのなら誰に守ってもらえばいいんだろう。そう考えると、むしろ俺達についてきたほうが安全なようにも思えるが。


 はぁ、とララが深く溜息。


「ったく、本当に鬱陶しい連中だけど……今はアイツらのことよりクエストよ。さっさと準備して行くわよ、ハルト」

「ああ、そうだな。でも、セリアさんは?」


 ベランジェの話では、セリアさんもついていきたいと思っている、とのことだったが……?


「セリア姉も……行くのよね?」


 と、ララが行くことを前提にしたように尋ねて、俺は驚いた。ララならきっと止めるだろうと思っていたのに。


「……そうね。私も行くわ」


 セリアさんも、当然のように頷く。


 なぜ? と訊きたいところが……簡単にそう訊いていいような空気には感じられない。


 スキル《空気を読む》を発動して、また今度……タイミングがよさそうな時にでも訊いてみることにしよう、ということにしたのだった。


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