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クエスト受注part1

「ここ……ここがいいの、ハルト君?」

「は、はい……。でも、もっと先のほうも……」

「ふふっ。もっと先の……この辺り?」

「はい、いいです、サリアさん……。下から上に、ゆっくり――」


 ガチャリ、と不意に玄関の扉が開けられる。


 そして姿を見せたダークエルフの女剣士――ララは、無言のままその腰の長剣を抜き、俺の頭に(まあ兜だから頭しかないのだが)それを振り下ろした。


 が、俺が既に《学習》しているスキル、《物理属性ダメージ無効》がその衝撃を消し去ってくれるから何も問題はない。いや、でもそれにしてもだ。


「い、いきなり何するんだ、ララ! それが帰ってきて挨拶もせずにやることか!」

「暇人が、偉そうに説教垂れてんじゃないわよ」


ララは頬を赤らめながらも、氷のように冷めた目で言う。


「っていうかアンタ……セリア姉にそういうことさせるのはやめなさいって言ってんでしょ。いい加減にしないと、岩にくくりつけて湖に沈めてやるわよ。冗談なんかじゃなく、本当に」

「そ、それだけはやめてくれ! いや、でも今のは本当に誤解だ。俺はただセリアさんに身体を拭いてもらってただけで……!」

「そうよ、ララちゃん」


 と、おっとりとした雰囲気の、『妖艶』という言葉を体現したようなエルフの女性――セリアさんは柔和に微笑む。


「ハルト君はこんなに格好いいんだから、ちゃんと毎日綺麗にしてあげないと可哀想じゃない。(つの)の先まで丁寧に……。ねえ、ハルト君?」

「はい」


 俺はセリアさんの操り人形のように応える。


 ララはそんな俺達を苦い顔で見て、


「まさか二人とも、アタシのいない所でもっと、そういう……」


 そうモゴモゴと呟いて、だがその妄想を振り払おうとするように表情を引き締めて言う。


「それより! 今はこんなくだらないこと話してる場合じゃないでしょ? 旅に出るって決めたんだから、ハルト、アンタも何か手伝いなさいよ」

「手伝うって言われても……俺に何ができるっていうんだ」

「そんなの自分で考えなさいよ」


ララちゃん、とセリアさんが口を開く。


「ねえ、本当に行くの? お父さんを捜しに……」

「行くわ」


 ララの目――その緑色の瞳に、迷いの色は全くない。


「もし生きてるなら、どうにかしてでも会って……会ってどうするのかはアタシにもよく解らないけど……でも、本当に生きてるのなら、とにかくそれを確かめたいの」

「そう……。わたしは……」

「セリア姉はここに残ったほうがいいと思う。旅だから、当然危ないこともたくさんあるだろうし……そういうことはあたしに任せて、セリア姉は留守番のほうがいいと思う。もしかしたら、その間に父さんが急に帰ってきたりするかもしれないしね」

「…………」


 セリアさんはどこか複雑そうな、居心地の悪そうな顔で口を噤む。


で? と、俺はふと部屋に満ちた静寂の中で口を開く。


「ララ。お前、今ギルドに行ってきたんだよな? ちゃんといい仕事は取れたのか?」

「モチロン取れたわよ。アンタの言った通り、出てるクエストの中で一番高い報酬が貰えるヤツをね」


 と、ララは手に持っていた一枚の紙を叩きつけるように俺の前に――テーブルの上に置く。


 それには、スキル《学習》のおかげかスラスラ読める楔形文字のような文字で、おおよそこんなことが書かれてあった。


『依頼内容:魔物討伐

 報酬:五百万ニクス(一ニクスでパンが一つ買えるくらいと思えばいい)

 詳細:アルバの森に狂暴なエクス族(エクス族とは、要は馬のことだ)のモンスターが棲み着いている。それを討伐してほしい。その大きさは普通のエクス族よりも二回りは大きく、真っ黒な肌に、金色のたてがみが特徴。健闘を祈る』


 それを読んで、


「ごっ、五百万だと……?」


俺は思わず声を上げる。


 そんな額が貰えるギルドクエストなんて、これまで見たことがない。最終盤で買える最強装備が一つ二十万ニクスくらいだから、このクエストをこなせばそれだけで最強装備が二十個以上も買えることになる。なんて美味しいクエストなんだ。


「もうずっとギルドに依頼されたままになってる、この里直々に出されてる有名なクエストよ。たまになくなることがあっても、またすぐに貼り出されて、その度に報酬が上がってこんなことになっちゃってるの」

「そんなにも強いのか、このエクス族は」

「『黒雷(こくらい)のエクス』って名前がつけられるくらいね。話を聞いたところだと、まだ死人が出てないのが奇跡としか思えないくらいの強さだそうよ」

「へぇ……」


 しかし、そうは言っても所詮エクス族だし、強くてもたかが知れてるだろう。俺がこの前倒したアースドラゴンより強いなんて、そんなことはありえない……とは思うが。


「ともかく、実際に俺達の目でこのモンスターを見てみないことにはなんとも言えないな。今日は様子見になってもいいって感じで、早速、行ってみるか――と言いたいところだが、この『アルバの森』ってのはどこにあるんだ?」

「この里から歩いて一ウルもかからないくらい近くよ」


 ゲームをしていてあまり使わない単位だから記憶が曖昧だが、確か『ウル』とは『時間』を表す単位だったはずだ。『分』は確か……『ディム』だったか。


「そうか。ならいま出れば、まだだいぶ日没までは余裕が――」


 ありそうだな。という言葉を、俺はすんでのところで呑み込んだ。なぜなら、不意に誰かが玄関の扉を開けたからだ。


 招き入れもしていないのに家に入ってきたのは――見るからにガラの悪そうな三人の男達だった。

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