02
「いやー助かりました、軽く迷子になってたので」
双眸を布で覆った青年が、明るく人懐っこい声音で母親に礼を述べる。巨大な犬をものともせず、きっちりトドメをさした青年二人は、助けた母子から森の中にある小さな村に案内されていた。
なお先程倒したその犬は、剣を持つ青年の肩に担がれている。勿論息などしていない。
「いえそんな、お礼を言うのは私達の方です。危ないところを助けて頂きまして……ほら、リリィ、貴女もお礼を言って」
「おにーちゃんたちありがとー!」
母親に促され、リリィと呼ばれた少女は三つ編みを跳ねさせながら勢いよくぺこっと頭を下げる。そんな様子を微笑ましいとばかりに頬を緩めるのは目隠しをしている青年で、犬を担ぐ青年は無愛想な顔のままだ。
「ああそうだ、村長さんはどちらですか?俺達、村長さんからの依頼を受けてきたんですけど」
「まあ、貴方たちが……!?」
母親は少女と繋いでいた手を離して両膝をつき、砂利石だらけの地面に頭を打ち付ける勢いで伏した。
「どうか、どうか私達をお救いください!!」
張り裂けんばかりの悲痛の叫びに、村の人達が何だ何だと外に出てくる。とてつもなく居たたまれない気持ちになった青年達は、慌てて母親の頭を上げさせようとする。何より周りの村人からの視線がとても痛い。
「え、いや、あの!落ち着いてください、まずは顔を上げて!」
何とか母親の気持ちを落ち着かせようと、目隠しをしている青年が優しく背中をさすっているところ、何時の間にか集まってきた周りの人の話から母親が村長の娘だと知る。そして当の村長本人は最近村の付近を荒らしている魔物に襲われて以来、ずっと床に伏しているのだという。
村長のことは勿論、このままでは村ごと潰されかねないと焦った母親と村人たちは一番近い大きな街へ討伐の依頼を出したのだが、貧しく小さな村から出せる報酬金の少なさに誰も依頼を受けてくれず、そもそも依頼を斡旋する仲介役のギルドですら魔物に対しての情報を調べることもしないまま、要は捨て置かれたままの状態だったらしい。
「お願いします、報酬が少ないというのなら私が一生の稼ぎを捧げます、どうか、何卒…!」
落ち着きを取り戻した母親がはたはたと涙を落としながら、深く深く頭を下げる。
それを見た青年二人はお互い顔を合わせてニッと笑った。
「任せてよお母さん。俺たちはまさに、その魔物が目当てできたんだからさ」