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第87話 シスター捕縛


 地球の俺の自宅の地下工房の倉庫へ行き、アイテムボックスのストレージを確認すると、リング、ブレスレット、ペンダント、カチューシャ、スヌード。様々なものが続々と入庫されていく。

 セシルは想像以上に使える奴だ。これで時間はかなり、節約できる。


「きゅ~」


 甘えた声を上げて、(きゅう)が俺の肩に乗り顔をペロペロと舐めて来る。


「起きたか」


 立ち上がり、皿に盛りつけられた(きゅう)の朝飯をアイテムボックスから取り出す。

これは、《滅びの都》でとられた巨大牛の魔物肉を焼いたものであり、俺も食してみたが、頬がとろけそうなほど美味かった。

 ちなみに、食材にも一〇段階のレベルがあり、一から一〇に行くほど美味になるらしい。この牛の肉はレベル四。


「きゃうわうわう」 


九本の尻尾をブンブン振り、獣特有の甘い声を上げつつも肉に齧り付く(きゅう)


「さて、始めますか」


 俺は(きゅう)を尻目に《改良》に没頭していく。

 


 約三〇分で、次のものの改良が完成した。

 新規メンバーとなるグスタフ、ベム、ノックの武具と、セシル、アイラ、地球組の各メンバーの武具を神話級まで改良した。今は時間がない。《鋼の盾》の一般メンバーの武具は、後日改良することにした。

 アイテムボックスを付与する際、各人のストレージは武具や魔道具のみ俺にも引き出せるようにしておいたのだ。無論、俺には他人の持ち物を物色する趣味などない。こうしておけば、ストレージ内の武具や魔道具を自由に改良できるからだ。

 『一三事件』の壊滅にせよ、《滅びの都》の攻略にせよ、俺達には危険は付き纏う。奴らに万全な装備を供給することは、地獄に引き入れた俺の責務でもある。

 

次のブレスレット式の魔道具を人数分作成した。


――――――――――――――――――


【蜃気楼】


■説明:解析、分析、鑑定等、あらゆる人物、所持物への検索に対して、誤情報で真の情報を覆い隠す。

 ・《人物蜃気楼》:所持者の姿を視認できなくする。

 ・《気配蜃気楼》:所持者の気配を消失させる。

■武具クラス:神話級


――――――――――――――――――


 鑑定能力版ファイアウォール+αの機能。初期設定として、当初のレベルと能力変動値に見えるよう設定しておいた。

 また、姿と気配を所持者の意思で消せることはそれなりに役立つだろう。一応神話級のアイテムには違いないんだから、相応の効果があると思いたい。

 次が俺の武具。セシルに購入してもらった数十点の武具をつぎ込み、次の武具が完成した。


――――――――――――――――――


【ムラマサ】


■説明:日本で造られた神話級の妖刀。

・変幻自在:形態や大きさは一定の限度で、所持者の意思により自在。

・絶断全硬:切断と硬質化につき途轍もない効果を有する。

・切断面調節:切断面の範囲を所持者の意思により調節する。

■武具クラス:神話級


――――――――――――――――――


 俺としては形が俺の意思で自在に変化できて、よく切れればそれでいい。切断面調節は若干意味不明だが、仮にも神話系だし、役にくらいたつだろう。

 

――――――――――――――――――


【ヘルメスの靴】


■説明:英雄ペルセウスがヘルメスから借りた靴。空を自由に駆けることができる。

・若輩無敵:自身のレベル未満の一切の物理攻撃、状態異常を無効化する。所持者に対する第五階梯以下のスキル・魔術の一切を無効化する。

■魔道具クラス:神話級


――――――――――――――――――


 砂の海を渡るために開発した武具。故に神話系とは思えないほど機能は大したことはない。元々俺には状態異常など効果はないしさ。

 第五階梯は、序列三百番台のシーカーや最高位のサーチャーの発動し得るスキルと魔術と授業では習った。第五階梯以下のスキルと魔術が無効となるのだ。本来ならば、手を叩いて歓喜すべきところだ。

 しかし、相手が中位以上のシーカーなら無用な能力。今度の戦闘においてこの武具の効果を期待するのは危険だ。

 最後は、ラヴァーズ捕縛用の魔道具。役に立つかは不明だが、あって損はあるまい。


 アイテムボックスのストレージに武具を入庫し立ち上がると、(きゅう)が俺の胸に飛び込んで来る。(きゅう)を抱き上げ、俺はピノアのセレーネ宅まで移動する。


                ◆

               ◆

               ◆


 セレーネ宅には誰もいなかった。代わりに外がやけに騒がしい。

 また新たなアクシデントの匂いがする。運命さん。後生だ。いい加減、俺を休ませてくれ!このままでは過労死しそうだ。


 セレーネ宅を出ると、教会の門の前でセレーネが歯を食いしばって一点を睨みつけていた。泣きじゃくる子供達に抱きつかれながら、身体を小刻みに震わせるその姿からも、漠然とした事情は俺にも飲み込めた。

 セシルとアイラは俺が頼んだお使いから、まだ戻ってこないようだ。正解だな。こんなシーンはあいつらが目にすれば傷を残す。

 煌びやかな白い鎧を着た男達が、教会から荷物を次々に運び出している。

子供達にとって思い出の品もあったろう。掛け替えのない絆の証明は、無粋な白鎧共に蹂躙され踏みつけられる。


(あいつら、教会か……)


 十字のマークがある。十中八九、教会の関係者だ。こんな粗暴な行動に出た理由は予測もつかないが、どうせまともなもんじゃなかろう。

 その俺の予想は直ぐに最悪な形で、真実と証明される。


 絢爛な装飾がなされた白鎧を着用した金色の長い髪を後ろでまとめた騎士風の男が、教会の聖堂から悠然と姿を現す。

 その白色騎士の背後に、両手を縄で縛れた女。


「シスター!」


 子供達が次々に甲高い悲鳴のような声を上げる。

 

「私は大丈夫だから。いい子にしているのですよ?」


 シスターが立ち止まり、セレーネに抱きつく子供達に優しく語りかける。


「止まるな! さっさと歩け!」


 背後の白色鎧の兵士に蹴飛ばされ、地面に転がるシスターを視界に入れ、セレーネが憤怒の表情で奴らに殴りかかろうとするので、後ろ襟首を掴む。


「放せ、放すんじゃ!」


 ジタバタと喚くお子様を無視して、『サンダーバード』の一匹を解放(リリース)し、シスターの身に危険が及んだら助けるように命じる。これで取りあえず、シスターの安全は確保した。


「手は打った。シスターは心配ない。いずれに転んでも、五体満足で餓鬼共の元へ戻ることになる」


 暴れるセレーネの耳元でそう囁くと、すぐさま俺の顔を伺ってくる。俺の言に嘘偽りがないとようやく判断したのか、大人しく従った。やれやれだ。

 兎も角、情報が不足している。


「俺はそのシスターと取引をしているものだが、なぜ連れて行く? 勝手な事をされちゃかなわんぞ?」

「何だ、貴様商人か? 貴様も邪教信徒と見做されたくなければ、引っ込んでいろ」


 邪教徒ね。この超常者(イモータル)達がわんさかいるこのピノアで、マジ顔でそんな言葉吐かれてもな。正直、滑稽だぜ。


「まあまあ、そう言いなさんな」


  長髪白鎧の男の肩に腕を回し、俺の右手に握る白金貨を見せる。こいつ等にとって、シスターの捕縛などに大した意味もあるまい。この程度で飛びつくはずだ。

 一〇〇万ルピの大金を目にして、長髪白鎧の男は、喉を鳴らすと、ゴホンと咳払いをして、ベラベラと説明し始めた。聖職者としては、マジで失格な奴。まあ、今は都合がいいわけだが。

 要するに、次のようなことだ。

 昨晩、《民聖教会》のシスターに邪教徒の疑いがあるとの市民からの密告があった。

 その通報の元、教会に踏み込むと、シスターの寝室から邪教徒信者用いる儀式用の置物が出てきた。そんなところだ。

 金に目がくらんだとは言え、こうもペラペラ暴露するんだ。その置物とやらをシスターの寝室に置いたのは、こいつ等じゃないだろう。

 だとすると、狙いはなんだ? シスター一人、陥れたところで誰も利などない。


(俺達が原因だろうな……)


 そう。行き着く結論など結局一つだけなんだ。シスターはセレーネの友人、そして、俺達のギルドができたこの絶妙のタイミング。無関係と考えるのには無理がある。


「そうか、あんがとよ」


 白金貨を渡し、シスターと放れたくはないと泣き喚く餓鬼共を連れて、セレーネ宅へ入る。

 今晩は、ラヴァーズ捕縛戦の予定だっての! どこのどいつか知らんが面倒事持ち込みやがる。


「餓鬼共、心配すんな。シスターは無事お前らの元に帰ってくる」

「ほんと……?」


男の子が涙を袖で拭うと、俺を見上げてくる。


「ああ、お前らがちゃんといい子に笑ってたらな」

「僕、もう泣かない!」

「あたしも!」

「あたいも!」


 次々にピョンピョンジャンプして、意思表示をしてくる餓鬼どもの頭を撫でつつ、最終確認する。


「もしかしたら、ここには二度と戻れんかもしれんが、それでもいいか?」

「いい。シスターや皆と一緒なら!」


 年長の男の子が、声を張り上げる。


「そうか、お主、シスターと子供達を地球に……」

「最悪、そうなるな。まあ、俺の勘では、その前にこの茶番(ゲーム)を仕組んだ阿呆から何らかの形で接触があるだろう」


 でなければ、茶番(ゲーム)の意味がない。どんな滑稽な提案をしてくるかは、正直見ものだが、喧嘩を撃ったのはそっちだ。徹底的に捻り物してやる。


「ユ、ユウマ?」


 すっかり血の気の引いた顔で俺に意図を尋ねて来るセレーネ。口元に触れると、口端が裂けんばかりに吊り上がっていた。


「お前は、直ぐに冒険者組合に仲裁を求めろ。おそらく、それも計画の一部に組み込まれている」

「け、計画の一部?」


オウム返しに答えるセレーネ。

察するに俺達のギルドの摂取が目的だろう。既に俺がレベル8であることは超常者(イモータル)共に知られているわけだし。


「ああ、大方、組合では、奴らに都合のいいような打開策が提案されるはずさ。勝負という方法でな」

  

 俺達に勝利の可能性があるという体裁でなければ、黒幕は俺達のギルドを奪う正当性を確保し得ない。


「妾はどうすればいいのじゃ?」

「簡単だ。俺達に勝利の可能性が僅かでもある限り、どんなに無謀な提案でも全て受けいれろ」

「そうか、そうだな、仮に負けても妾達には転移がある。最悪地球に逃げ込めばいい。地球から《滅びの都》に移動すれば何ら問題は――」

「仮に負ける? 地球に逃げ込む? くはっ!」


 セレーネの言葉に耐えきれず、思わず吹き出してしまった。


「何が可笑しいのじゃ? 今は緊急事態じゃぞ!?」


 そりゃ可笑しいさ。だってあまりに的外れだもの。


「セレーネ。それじゃ、俺達が追われる立場みたいじゃねぇか」

「しかし、現に――」


 もういいさ。どうせ俺の言いたいことはセレーネも直ぐに理解するだろうし。


「これは狩りだ。兎は奴ら。ハンターは俺達。このゲームを仕組んだド阿呆から全てむしり取ってやる」


 だから俺は、そう俺は宣言した。








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