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閑話 嫉妬 ネメア


「あの無能がぁっ!!」


 ネメアの右腕により、振り払われた机に静置してあった酒瓶とグラスは、床に勢いよく衝突し、ガラスの破砕音を上げつつも粉々に破壊される。

 肩で息をしつつも気持ちを静めようと椅子に座り直すが、再度嵐のような怒りが襲ってきた。


「ふざけるな! この私を差し置いて、レベル8があんな無能と契約するだと!?」


 契約者でもない人間が、レベル2に至ることすら非常に稀有なのだ。ネメアが運よく獲得できたウォルト・アルウェッグでさえ、契約前はレベル3であったに過ぎない。それが契約前にレベル8? まさに冗談のような存在だ。

 ユウマ・サガラとウォルトがいれば、《滅びの都》の攻略は劇的に進む。あと数年間での完全攻略も夢ではない。念願の完全攻略が叶えばネメアは覇種となる。

 覇種――知能、外見、力、寿命、全てにおいて至高の存在。至っているのは、四界においても指で数えるほどしかいない。

 その理由は、覇種に至った者は、例外なく覇王の眷属としてデスゲームに参加し、命を散らしたから。

デスゲームに自発的に参加するなど正気を疑う。覇種になれば、四界の中でも真の超常者として君臨することができる。神格を得た勝者の覇王の眷属に首を垂れる限り、絶対的権勢を敷くことができるのだ。なぜ、それで満足できないのか、理解に苦しむ。

 ネメアは現実主義者(リアリスト)。そんないっちかばっちかの賭けに出るより、現実世界で我が世の春を謳歌(おうか)する方を選択する。

 ウォルトを手に入れ、《滅びの都》の完全攻略につき、他の超常者達より一歩先に立っている。そう確信していた。

 それが、あんな超常者の中でも、断トツに無能なセレーネに先を越されるなど、あまりに、不条理すぎる。

 しかし、契約を破棄するには、超常者(イモータル)と契約者の同意が必要なのも事実。セレーネがレベル8の冒険者の契約の破棄を認めるはずもない。


「ネメア様、ロキ様がお見えです」


(ロキ?)


 外見上は黒髪の冴えない眼帯男に過ぎないが、ロキは旧世代の超常者(イモータル)一柱(ひとり)。本来、四界の支配層に名を連ねていてもおかしくない人物だ。新世代生まれのネメア達とはあらゆる面で格が違う。


「応接室に通せ」


 このタイミングでのロキの接触、高率で(くだん)の冒険者だろう。

 奴の普段の言葉、行動、全ては虚実で形成されているが、冒険者と超常者(イモータル)との契約事項に関してだけは全て真実であり、信頼に値する。



 応接室に入ると、黒髪眼帯男――ロキがソファーに腰を掛けていた。

 ロキの背後の直立不動している青髪角刈りの大男に視線を向ける。

 ――ミッドガルド――ロキの直属の配下であり、旧世代の怪物の一柱(ひとり)

 ただし、公知の事実なのは僅かこれだけで、種族、他全ては一切不明な超常者(イモータル)でもある。

 ネメアがロキの対面のソファーに腰を掛けると、


「やあ、ネメア、相変わらず繁盛しているようだね」

 

 ロキは部屋内をぐるりと見渡し、端的に感想を述べてきた。


「それはまあ……」


 通常の社交儀礼のはずの言葉も、ロキが発するとどこかカチンとくる。


「僕がここに来た理由、もうわかってるよね?」

「レベル8の冒険者――ユウマ・サガラですか?」


 問に問いを返すネメアに、ロキは口角を吊り上げる。


「話が早くて助かるよ。君、彼を手に入れたくないかい?」

「話が見えませんが……」


 発言自体は、薄っすらと予想はしていたが、ロキの意図が読めない。

 ユウマ・サガラをネメアのギルドに移籍させたからといって、奴にとってメリットなど皆無のはずだから。


「僕の使命は冒険者達を超常者(イモータル)達に適正配分(・・・・)すること。つまり――」

「セレーネにはレベル8の冒険者は相応しくないと?」

「……」


 ネメアの問いにロキは、にぃと兇悪に顔を歪ませる。

 確定だ。少し頭を働かせればむしろ、当然の結果かもしれない。理由は不明だが、ロキは、《滅びの都》の完全攻略を終始推進してきた。あの無能(セレーネ)よりも、ウォルトを有するネメアの方が《滅びの都》の完全攻略に近い。ロキにとっても目的に合致するはず。


「お話を伺いましょう」

「うん、うん、頭のいい子には好感がもてるねぇ。何せ、セレーネは訪問した途端、帰れ!だしさ」


 とことんまで愚かな奴。ロキは性根が心底腐ってはいるが、敵にだけは回すべきじゃない。そんな事は、超常者(イモータル)なら周知の事実。

 

ロキは口を開き、ピノアを舞台とした狂喜の演劇の幕が上がる。

 

 


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