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第73話 猫娘の加入

 放心状態の残念ロリっ子に、《改良》の使い方を教えた後、セシルの武具を創ることにする。

 セシルは俺の指示通り、四〇点近くの武具を購入していた。その中から四つの弓と四着のローブを《改良》する。


 直ぐに、上級の弓とローブが出来上がった。

いずれも、元の武具がかなり良質だったせいか、今まで俺が作った中でも最高クラスの性能だった。

まず、【爆裂弓】。これは、魔力により矢を造り出し、矢が標的に命中すると爆発する。命中すると爆発するって、どんだけ兇悪なんだよ。

次が、【闇のローブ】。魔力によって闇を固定化し、防御壁を形成するローブ。

 予想に違わず、狂喜乱舞するセシルを連れて俺達は《滅びの都》へ向かう。

 


 《滅びの都》城門前に到着――したわけだが……。


(あいついるんだよな……)


 今俺は一分一秒が惜しい状況だ。なのにどうしても、あの猫娘、放ってはおけない。小雪とアイラは危なっかしい所などよく似ている。大方、無意識に、小雪をアイラに重ねてしまっているんだろう。

まあ、腹が減っているのも確かだ。


「セシル、腹ごしらえだ」

「はい!」


 嬉しそうに微笑むセシルを連れて、酒場へ入ると、案の定、猫娘が当たりを忙しくなく見回している。

 猫娘と向かい合う形で、同じ円形のテーブルの席に座る。


「よう。猫娘」

「お前、昼の変な奴!」

 

 パッチリした目を大きく見開いて俺を指さす猫娘――アイラ。


「変な奴じゃねぇ、ユウマ・サガラだ。そんでもって、こっちのちっこいのがセシル」

「小さいは、酷いですぅ~」


 非難の声を上げるセシルを無視して、料理三人前を頼む。

セシルが自分の分の料理の代金を払うときかなかったが、何とか説得し俺が払った。

 あのお気楽ロリっ子は、浮かれてばっかりで、ギルドの運営について検討すらしていないようだが、ギルドである以上、今後メンバーには給与等を払わねばならない。最低でも、一定額の月給の支払いと、衣食住くらいは保障すべきだろう。俺は(ちまた)で名高いブラック企業、改め――ブラックギルドに就職したのではないのである。

 遅くても数日以内には、セレーネに《滅びの都》で獲得した宝物や魔石の分配について案を出させよう。



「上位ギルド《炎の獅子》とやらがお前達のギルドってわけか?」

「そうニャ」


 快活なアイラには珍しく、声が沈んでいる。アイラは、自身の祖国である獣王国のことや、ウォルトの事は嬉々として話すが、自身のギルドの事になると、途端に口を開かなくなる。

 踏み込むべきじゃないんだろうが……。


「お前、ギルドで上手くいっていないのか?」


 アイラはビクッとその身を竦ませる。これで確定だろう。

 三週目で《炎の獅子》の超常者(イモータル)ネメアに勧誘を受けたが、ブラック色の匂いがプンプンする様なギルドだった。実直なアイラはあの手の愚物とは気が合いそうもない。


「別に普通ニャ」


 不貞腐れたようにそっぽを向くアイラに、セシルも事の次第につき思い至ったのか、心配そうにアイラを見つめていた。

 聞き方のタイミングを誤った。これ以上、尋ねてもアイラの奴、ムキなって真実は決して話すまい。

それに、俺は完璧に部外者だ。これ以上はマジで余計なお世話というものだろう。もし、ギルドで面倒なことになれば、保護者役のウォルトが黙っているはずがないわけだし。



 料理を食べ終え、ピノアの東門までアイラを送っていくと、三週目と同様、門前でウォルトと出くわした。

 アイラを引き渡し、《滅びの都》へ向かおうと思っていたのだが、ウォルトに話があるので時間を作ってくれと頭を下げられる。真冬に冷水を浴びたかのような険しい顔からも、込み入った話なのは間違いない。

 仕方なく、セシルに、ウォルトと話しがあるから、一旦、アイラとセレーネ宅に帰り遊んでいるように指示する。

 てっきり、アイラあたりが、猛反発するかとも思ったのだが、ウォルトのいつになく真剣な様子を目にしたからか、大人しく従った。

 この聞き分けの良さは、本来のアイラではない。やはり、ギルドがらみでアイラに何かあるのは確実だろう。

 近くの定食屋に入り、簡単な料理を注文すると、ウォルトは額をテーブルにつけんばかりに頭を下げてくる。


「ユウマ・サガラ様、本日はお願いがあってまいりました」

「ユウマ・サガラ様ぁ?」


 面食らって素っ頓狂な声を上げる俺に、やはり、厳粛な表情を崩さず、ウォルトは話を続ける。


「ギルドで、《鋼の盾》達メンバーから聞きました。貴方が超常者(イモータル)であると」


 ああ、そういうことか。俺の《改良》は超常者(イモータル)のセレーネをしてお花畑に旅立たせるほど非常識な能力だ。ベム達が俺を人間ではないと判断するのは寧ろ当然かもしれない。


「勘違いだぜ、俺は人間の契約者だ。ベム達は超常者(イモータル)から与えられた俺の恩恵を見て、俺を奴らと勘違いしたにすぎねぇよ。だから、敬語は使うな」


 ウォルトは暫し腕を組んで考え込んでいたが、再び頭を下げてきた。


「それでもかまわない。話を聞いて欲しい」

「話せ」


 無言で頷くとウォルトは説明を始める。



「要するに、ネメアとかいう業突く張りの超常者(イモータル)が、餓鬼のアイラにまでギルドのために働けと言ってきた。でも、アイラはレベル1だから、《滅びの都》での戦闘は無理だし、お嬢様育ちで、真面に仕事一つできない。故に、ギルド内でも肩身が狭くなっている。こんなところか?」


「概ねその通りだ。特にネメア様とアイラは相性がすこぶる悪いようで、頻繁に衝突している」


 俺の言葉にはネメアに対する侮蔑の意思がたっぷり含まれていたが、ウォルトは顔色一つ変えない。多分、ウォルトもネメアに対し、碌なイメージを持っていないのだろう。


「だろうな。俺も基本的にアイラよりだから、あいつの気持ちもよくわかる。それで俺に何をして欲しい?」


 ウォルトには三週目ではあるが、セシルの件で世話になった。受けた恩は返すさ。


「君のギルドにアイラを入れて欲しい」

「俺達は一向に構わねぇが、アイラは無事お前らのギルドを抜けられるのか?」

 

 俺達のギルドの加入に障害などない。むしろ、セレーネは小躍りして喜ぶことだろう。


「アイラは端から契約者ではなかった。契約者以外のギルドの離脱に超常者(イモータル)の了解など不要。たった今、冒険者組合の方でアイラの《炎の獅子》の離脱の申請をしたばかりだ」

「なら、何ら問題はないな。アイラを俺達のギルド――《三日月の夜(クレッセントナイト)》に受け入れよう」

「恩に着る」


 それにしても、なぜ、三週目とここまで違うんだ? 聞いてみるか。


「どうしてアイラを自分の元から放す決心がついたんだ?」


 ウォルトはアイラを目に入れても痛くないほど可愛がっている。仮に一時的であっても、アイラを他者に預けるなど、本来断腸の思いのはずだ。


「今日はネメア様の機嫌がすこぶる悪く、アイラに対する当たりが激しかった。

 多分、今噂のレベル8の新人の冒険者が、他の超常者(イモータル)にとられたのが原因だろう。それで、アイラが《炎の獅子》でやっていくのは不可能だとの結論に達したんだ」


レベル8の冒険者ね。それ、俺だな。偶然にしては出来過ぎてやがる。


「理解した。アイラは任せろ。俺達の主様(あるじさま)は、頼りはないが腐ってはいない」

「感謝する」


 席を立ちあがり、再度、大きく頭を下げるウォルト。


「今回、俺に飯を奢りな。それでチャラだ。だから、もう頭を下げるなよ」

「しかし――」

「勘違いするな。俺達のギルドにとってもアイラの加入はメリットがある。それだけだ」


 俺は立ち上がり、はっきりと宣言した。


                ◆

               ◆

               ◆

 

 再度、セレーネ宅へ戻り、アイラにギルドの移転の話をする。

 ギルドが移るだけで、今まで通り、ウォルトの隣の部屋に宿泊するのは変わらないし、今後も行動を共にすることに制限が加わるわけではない。

 単に、金輪際、ウォルト以外の《炎の獅子》の奴らと縁を切るだけ。そのことを伝えると、二つ返事で受け入れる。よほど嫌だったのだろう。

 相次ぐメンバーの獲得に、子供のようにはしゃぎまくるセレーネを宥めて契約をさせる。その間に、アイラの武具と防具を作ることにした。

 セシルの購入した武具の中に、剣が四点とライトアーマーが四点あったので《改良》する。

 【雷剣】――魔力により、雷を操作する剣。

 【風鎧】――攻撃を察知し、魔力により自動的に風の障壁を造り出す軽鎧。

 いずれも上級の武具だが、トップレベルの強度だ。元の武具が優れているとこうも、性能が向上するのか。今度セシルにこの元の武具を作成した鍛冶師を紹介してもらうとしよう。



 契約直後、アイラは著しく興奮していた。それも事情を聴くと合点がいく。

 アイラはネメアから、お前のような無能とは契約などしないと言われ続けてきたらしい。アイラにとって契約するということは、一人の冒険者として認めてもらうことに等しいのだろう。

 喜んで飛び回るアイラに【雷剣】と【風鎧】を渡すと、案の定、《滅びの都》で試したいと言う。それはセシルも同じようで無言の同意をしていた。

 反対したのは、夜の《滅びの都》の極悪さを知識として知っているセレーネ。

 今回ばかりはセレーネの主張に正当性がある。

 俺もセシルとアイラは、一定のレベルに到達するまで、昼間中心に冒険をするべきだと思う。それまでは、俺の夜間修練での精神的ストッパーの役目に関しては、他で補充するしかない。

 ともあれ、昼間、俺は学校やバイトがある。セシル達と一緒に冒険をする時間は限られているが、魔物の数は大したことがないから、《魔物使役》の能力で保護者の魔物でもつければ危険はあるまい。

 ただ、当初の予定通り、レベル2に到達するまでの最初の冒険くらい俺がついてやりたいという気持ちもある。レベル2なら、二〇匹の黒角狼を倒せば至れる。三〇分とかかるまい。

 今後一切の独断専行をしないことを条件に、今晩に限りセシルとアイラの夜間の《滅びの都》の冒険が許された。


                ◆

               ◆

               ◆


 これから、東門を抜け《滅びの都》へ徒歩で向かえば、最低でも数十分のロスになる。さらに、セシルとアイラの送り迎えも加われば、二、三時間は優に超える。

流石にこれ以上の時間のロスは避けたい。アイラとセシルに十分な口止めをした上で、転移可能な門を召喚できる旨を告げ、【覇者の扉】から《滅びの都》の浅域へと移動する。

 

 浅域は、中域ほど魔物はいない。適当に俺が魔物の数を間引きながら、セシルとアイラに攻撃させる。

 始めての戦闘のせいか、当初、二人ともおっかなびっくりだったが、すぐに要領を得て来る。

セシルが爆裂弓で爆砕し、アイラが、【雷剣】により雷を落とし黒焦げにする。

 武具の性能のせいもあり、危なげなく、エンカウント、殲滅を繰り返し、丁度一五分後、セシルとアイラはそろってレベル2となった。


「アイラちゃん、僕、レベル2に……なっちゃった……」

「あたいもニャ……」


 放心状態となり、立ち尽くす二人の手を引き、《覇者の門》をくぐり、セレーネ宅に帰宅する。

 てっきり、俺はアイラあたりが、まだ闘いたいと我侭をいうと予想していた。なのに、二人とも魂が抜かれたように呆けてしまい、俺の指示に一切口答えすることなく、自身の宿泊先に帰宅してしまう。


 少々、想定外の事態だが、別に害があるわけでもない。むしろ、事がスムーズに進んで良かったと考えるべきだろう。

 セレーネは現在、居間にはいなかった。外見が子供なだけに既に部屋で休んでいるのかもしれない。

 居間に置いてある多量の『HP回復薬(ポーション)』と『MP回復役(エーテル)』から、上級の『HP回復薬(ポーション)』と『MP回復役(エーテル)』を各三〇個ほど作り、それらを《アイテムボックス》へ入れて俺も深域へ移動する。



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