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第72話 訪問者


 セレーネ宅に戻ると、居間中に置かれた無数の袋の山。この量、レベル1に過ぎないセシルが屋敷に持ってくるのは不可能。それが可能となった理由はおそらくあいつらだろう。

 黒髪をオールバックにした右目に眼帯をした男がセレーネに向かい合う形で座っていた。そして、その背後には、スーツ姿の大男が直立不動している。

この黒髪眼帯は一度あった事がある。確かロキと言ったか。

 背後に控えている青髪のもみ上げがやたら長い角刈りの大男には会ったことはないが、多分人間じゃない。この肌がピリつく感じ、十中八九、超常者(イモータル)だ。


「帰ってもらおうか、お(ぬし)と話すことなど何もない!」


 セレーネが焼け付くような視線をロキに向けつつも、言葉を叩きつける。

セシルが、オロオロとロキとセレーネを相互に見やっていた。


「つれないなぁ~、回復薬や武具を運ぶの手伝ってやったろ?」

「それには感謝する。だから、帰れ!」

「は~、君がこんなに小さい頃は本当に素直でかわいかったのに……」


 ロキは肩をすくめると、掌を自身の顔の前に置く。もちろん、席に座っている状態だから、今のセレーネの背丈と大して変わらない。おちょくるセンスは、中々のものだ。


「帰れ!!」


 ぐぬぬと唸り声を上げると、セレーネは拒絶の言葉を吐き出す。

セレーネの態度に背後の青髪の野獣男の眉がピクリと動く。この一触即発の雰囲気、下手をすれば、戦闘になりかねない。

 俺はただでさえ、『一三事件』の奴らとドンパチやらねばならぬ身だ。これ以上、不必要な敵を作って欲しくはないのが本心ではある。


「セレーネ、そう敵視しないでくれ。僕は《滅びの都》に興味などない。誰が攻略しようと好きにすればいい」

「なら、なぜ来た?」


 セレーネは俺を眼球だけ動かし一瞥すると、犬歯を剥き出しにしてロキに疑問を投げかけた。

 セレーネの様子からも、俺がこのロキとかいう超常者(イモータル)に説得され鞍替えするとでも考えているんだろう。随分と失礼な奴だ。俺はそこまで尻軽ではない。


「今日の僕の目的は君だ。だから、君の危惧は、お門違いもいいところさ」

「妾? 何の用じゃ?」

「用というよりは確認かな。君らの一族は才能がある血脈であるとは思っていた。でも、まさか君だとはね」

「どういう意味だ?」


 眉をひそめ、セレーネは疑問を口にする。


「さーてね、そのうちわかるさ」


 席を立ちあがると、ロキは胸に手をあて、俺に軽く一礼し、居間の扉の前まで足を運ぶ。そして、扉の前で立ち止まり、肩越しに振り返る。


「セレーネ、一度、実家に帰ってみては?」

「大きなお世話じゃ!!」


 セレーネの怒鳴り声を背中に浴びながら、ロキは今度こそ部屋を出ていく。



「カリカリすんな。俺はお前との契約を切る気はねぇよ」


 怒り心頭のセレーネの頭に掌をのせて、そう宣言すると若干勢いが収まった。

 

 それから、セシルを入れて、今後の事について話し合う。


「とすると、ギルド名は、その《三日月の夜(クレッセントナイト)》でいいのか?」

「それでいいのじゃ」「はい」


 俺はギルド名になど興味はない。好きにすればいい。


「それじゃ、セレーネは明日、冒険者組合でギルドを作ってきてくれ」

「おう、なのじゃ!」


 右拳を上げるセレーネに苦笑しつつも話しを続ける。


「今後の予定を簡単に決めるぞ。まず、セレーネ、お前は《改良》でここにあるHP回復薬(ポーション)をひたすら融合し、上級のHP回復薬(ポーション)にしてもらう。やり方は教える」

「うへぇ~」


 幼女とは思えない踏み潰された蛙のような声を上げながら、机に突っ伏す残念銀髪ロリっ子。

 俺とセシルは《滅びの都》の攻略に行かねばならない。人員を遊ばせておく余裕など俺達にはない。


「セシルと俺は《滅びの都》の攻略。レベル2に上がったら、暫くは俺の指示する保護者と一緒にチームを組んでレベルを上げてもらう」

「はい……」


 シュンと項垂れるセシル。一貫して俺と冒険したいと言っていたし。俺もついていてやりたいのは山々だが、他人の面倒をみていられるほど余裕に溢れているわけではない。


「レベル7を超えな。そうしたら、直ぐにでも最前線に連れて行ってやる」

「レベル7……」


 絶望一色になるセシル。確かに、俺の精神的なストッパーという観点からも、直ぐにでも連れていきたいのが本心だ。でも、今俺の冒険ステージである《深域》はレッドラビット数百匹が一斉に襲いかかってくるような狂気の場所。最低でもレベル7はないと危険極まりない。


「ちょ、ちょっと待て、レベル7を超えろって……お主、今レベル、幾つじゃ?」

「レベル8。もうすぐ9だな」


 顎を外れんばかりに開けて、硬直化するセレーネ。毎度、オーバーリアクションなお子様だ。時間もない。放っておこう。

 

「心配すんな。暫くっていったろ? 四日目以降は一緒に冒険しようぜ」


 今にも泣きそうなほど意気消沈しているセシルの頭を撫でながらも、笑顔を向ける。


「はい!!」


 セシルは喜色満面で快活な返事をしたのだった。




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