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第70話 覇王編成


 近くの公園の木陰から【覇者の扉】を通り、自宅へ戻ると、セレーネ宅へ直行する。

 グスタフ開放作戦まで、まだ、四五分以上あるし、セレーネ達と今後の打ち合わせがしたかったんだ。

 屋敷に入ると、セレーネ達は二人とも居間でお茶を飲んでいた。


「どうやら契約は終了したようだな?」

「うむ。ユウマ、お主、成長促進スキル持っておったんじゃな?」


 パタパタと欣喜雀躍(きんきじゃくやく)しつつ、俺に近づき両拳を握り力んで見せるセレーネ。

 興奮止まないセレーネを落ち着けて、席につき鑑定の隣の赤く点滅している矢印を押してみる。


――――――――――――――――――


覇王編成ジャガーノートフォーメーション(LV1)』


〇説明:覇王を中心として、眷属と魂を連結させる。主眷属が他者と眷属契約を結ぶと、その者は覇王編成へ組み込まれる。

■主眷属:セレーネ

■一段階称号上昇:覇王の各眷属を強制進化させ、称号を一段階上昇させる。

■権能使用許諾:各眷属は《小進化》、《鑑定》の権能の全部又は一部を使用することができる。ただし、主眷属の権能の使用の委細は、覇王の意思による。なお、覇王の意思によっても、主眷属及び眷属は《ロード》を使用することできない。

■眷属離脱:覇王は主眷属又は各眷属の地位を剥奪することができる。

――――――――――――――――――


 ちょっと待て、覇王の眷属ってことは、セレーネの奴、俺の眷属になったってことか。

 いやいや、いくら残念銀髪ロリっ子でも、こいつは仮にも超常者(イモータル)。人間の俺の眷属になるはずがないだろう。でも、この下についている注意書きのテロップ……。

 

――――――――――――――――――


『覇種化』


〇説明:主眷属――セレーネの覇種化に成功いたしました。

――――――――――――――――――


 マジか。主眷属がセレーネとなっている。間違いなく眷属化したのはセレーネの方だ。

 要するに、次のようなことだ。

 俺の主眷属とやらがセレーネで、彼女と契約した者が俺の眷属として覇王編成へと組み込まれる。

主眷属のセレーネは称号が覇種化し、俺の意思で好きな権能を使わせることができる。もしかしたら、権能の使用方法について一定の制限を付けることも可能かもしれない。まあ、権能の使用制限にどんな意義があるか知らないが。

 主眷属以外の各眷属は、覇種化はされず、称号が一段階だけ上昇する。さらに、《小進化》、《鑑定》の権能だけ使用可能となる。多分、レベルが上がると使用できる権能が増えていくんだろう。

 取りあえずだ。眷属の事実をセレーナにいうべきではないだろう。仮に俺がセレーネの立場でも、流石に人間と眷属契約を結んで人間の眷属になったら、ショックなんてもんじゃない。プライドはズタズタになるだろうし、きっと泣くだろうしな。

 

 

それからやけに上機嫌のセレーナから、情報を収集することにした。


「ところで、セレーネ、お前ら超常者(イモータル)はなぜ《滅びの都》の攻略を目指すんだ?」


 俺の疑問にすまなそうな顔で、手を忙しなく動かす。


「……すまぬ。四界のルールでそれは答えられんのじゃ」


 またよくわからん単語が出てきたな。正直、胃もたれしそうなのも事実だが、情報はあったほうが行動の選択が広がる。


「なら答えられる事だけで構わねぇ。返答できないならそう言ってくれ」

「了解じゃ」

「まず、四界について教えて欲しい」

「四界とは、我ら超常者(イモータル)と呼ばれる者達が住む四つの世界のことじゃ。

 《天界》、《竜界》、《霊獣界》、《冥界》の四つに分かれておる」


 ま~たかよ。《フール》の奴も自身を悪魔と恥ずかしげもなく名乗っていたから、そんな厨二病不思議生物の世界があること自体は予想の範疇だ。


「四界のルールとは?」

「四界は知識や技術の漏洩をこの上なく嫌う。故に、いくつかのルールが定められている」

 

 自身を超常者と名乗るわりに、随分とせこい奴らだ。思考回路は、人間と大差ないな。


「ルールを破ったらどうなる? いや、そもそも、ルールを破ったか否かを誰がどうやって判断している?」

「この世界を訪れる直前に、いくつかの事項につき誓約の魔術により誓わされている。誓約を破れば即強制送還し、二度とのこの世界に足を踏み入れることができなくなる」


 なるほど、誓約の魔術か。それなら監視の必要もない。破ったら元の世界に戻るだけだから、誓約者に過度の負担をかけることもない。実にリーズナブルな仕組みだ。


「いくつかの事項とやらにつき教えてくれ。おそらく可能なんじゃないのか?」


 ルールの中身について秘密にしておく意義はないし、契約する冒険者との信頼関係構築の観点からもルールはまず提示されてしかるべきだ。


「その通りじゃ。まず契約したら最初にルールにつき説明すべきことになっておる」


 やはりな。大方、セレーネの奴、浮かれすぎて頭から飛んでいたんだろう。


「そのルールとやらの説明を頼む」


 セレーナは軽く頷くと、説明を開始する。

 要約すると次の通りだ。

 第一、四界からアースガルドへの衣服等以外の物の持ち込みはできない。逆に四界への持ち込みは可能。

 第二、超常者(イモータル)は、契約者以外の人間種に自己のスキルや魔術、魔道具や武具又は物を与えることは許されない。また、契約者による転売も禁止されている。ただし、人間種からの購入自体は可能。

 第三、契約者の有無を問わず原則一切の知識を与えてはいけない。ただし、契約者に対してのみ、四界の存在とそのルール、戦闘に必要な知識は与えることが可能。



 ルールは粗方把握した。要するに、セレーネから技術や知識を求めることはできない。ただし、戦闘に必要な知識については聞ける。そんな理解で十分だろう。


「ところでさ、称号についてお前、どう思う?」


 唖然とした顔で俺を凝視するセレーネ。


「な、なぜ称号について知っておる?」


 この取り乱しようから察するに、超常者(イモータル)達にとって、それなりの位置を占める概念のようなのだ。


「《ステータスオープン》で見れますよ。セレーネ様」


 ようやく話しに混ざれたのがよほど嬉しいのか、弾むような声色で答えるセシル。


「ス、ステータスオープン? 自己の能力値を見れるという能力のことじゃろ? 

それは、冒険者のギルドカードのようなものではないのか?」

 

 これ以上は面倒なことになる予感しかしない。


「いえ、え~と、ギルドカードの事項に加えて、《称号》、《次レベルへ至る条件》、《HPとMPの残量》もです」


 セレーネは、埴輪のように目と口をまん丸化し硬直化していたが、直ぐに俺の上着を掴むとブンブン揺らす。


「どういうことじゃ?」

「何がだ?」

「《HPとMPの残量》はさておき、《称号》と《次レベルへ至る条件》の解析など超常者(イモータル)でも滅多に居らんぞ。しかも、二つとも有するとなるとそれこそ希少じゃ」

「そんなの、俺に言われても知らねぇよ」

「成長促進スキルに、ふざけた解析スキル。まさか、お主、《固有種》か?」

「違うが……」

「なら――《希少種》?」

「違う」

「こ、こ、《古代種》?」

「違うな」


 滝のように汗をダラダラ流しながら、セレーネは俺の胸倉を掴む手を震わせる。何なんだろ、こいつ……。


「まさか、いや、しかし……ちょ、《超越種》……?」

「それでもねぇな」

「そ、そうか、《一般種》か……そうじゃな。そんな馬鹿な事あるはずがないな」


 安堵と残念さがごっちゃになった複雑な表情を浮かべて、セレーナは独言(どくげん)する。

 《一般種》でもないんだが、どうも言い出しにくくなったぞ。


「それで、お前達にとって称号とはどんな概念何だ? いい加減答えろよ」


 称号は戦闘に関する事項。なら俺達契約者には話しても誓約違反にはなるまい。


「そうじゃな。称号につき解析できるなら、それは気になるじゃろ。よく聞くのじゃ」


 ゴホンッと咳払いをすると、姿勢を正すセレーネ。


「称号とは、その者の存在の格を決める絶対概念じゃ。

この称号は、《一般種》、《固有種》、《希少種》、《古代種》、《超越種》、《覇種》の順に高くなり、通常、生涯で変わることはない」


ここまでは、鑑定や厨二病悪魔フールの説明と酷似している。


「《固有種》以上って珍しのか」

 

 中二病悪魔の言い方からすると、希少なのは確実だが。


「珍しいもなにも、人間種では皆無じゃろうな」


 セシルが笑顔のままビクッと身体を痙攣させる。その気持ちわかるぞ、セシル。だって、お前、《固有種》だろうしな。


「存在の格を決めるって言われてもよくわかんねぇよ。具体的にどう違うんだ?」

「全てじゃよ。寿命、成長速度、扱えるスキルや魔術の高度さ、その他諸々じゃ。

特に外見は称号の格が上なほど、より美しく(・・・)華美(かび)であるとされておる」


 恍惚な表情で熱っぽく力説をするセレーネを視界に入れ、俺はこの話のオチを本能で理解していた。


通常(・・)生涯で不変ってことは、称号上昇の手段は存在するってことか?」


 その手段も検討がつくが。


「そうじゃ。その手段は――言えんがの」

「それ、《滅びの都》の完全攻略だろ?」

「は?」


 狐につままれたような顔でぽかんと俺を凝視するセレーネ。


「お前、まさかと思うが、美しく(・・・)なるために《滅びの都》の攻略を目指してんじゃねぇだろうな?」


 セレーネは、ギギギッと錆びついた機械のようなぎこちない挙動で俺に顔を向けると乾いた笑みを漏らす。的中だな。


「な、な、何の事じゃ?」

「称号とやらを上昇させて、大人の色気のある女になりたいがため《滅びの都》の攻略を目指してんのか?」


 回りくどいのは趣味じゃないんで、はっきり、言ってやった。

 

「そ、そんなわけあるか! 妾には他に(・・)《滅びの都》を攻略するべき目的がある!」


 セレーネの奴、本音を暴露しやがった。


他に(・・)ってことは、やっぱ大人の女になりたいってのも目的なんじゃねぇか」

「べ、別にぃ~、妾は……美しくなど……」


 最後の言葉は見事に尻すぼみとなる。


「それ、絶対本心じゃねぇよな?」

「……確かに、その一面も期待しているのも事実ではあるのじゃが……」


 真っ赤に耳先まで紅潮させつつも、セレーネは指を忙しくなく動かす。

 ホント、わかりやすい奴。《滅びの都》を攻略すると攻略者冒険者と契約を結んでいる超常者(イモータル)の称号は上昇する。セレーネは称号が上がれば、幼い外見ではなく、大人の女に成長できるとでも考えたのだろう。

 だがそれは絶対に不可能だ。なぜなら、既にエレーネは最上位の称号、覇種だから。何をどうしようが、セレーネの外見は残念銀髪ロリっ子のまま。

 不憫だ。不憫するぎる。あっ、思わず目から汗がっ!


「そうか……頑張れよ」


 熱い涙を流しながら、セレーネの頭を掌でポンポンと叩く。


「何だか、妾、猛烈に馬鹿にされたように感じるんじゃが……」

「気のせいだ」

 

 セレーネが覇種に昇格したことを知らせるのは止そう。あまりに哀れ過ぎる。


 兎も角、これで粗方は聞いた。得た情報でセレーネが使用できる権能について決定した。

 まず、《小進化》と《休息》だ。セレーネは《滅びの都》に入れないらしいから、一見、必要がない様にも思える。しかし、セレーネが弱すぎると、人質に取られるなど厄介な事態に発展しかねない。この二つの権能は必須だろう。あとは、セレーネの修行場所だが、おいおい考えていくとしよう。

 次が、《アイテムボックス》。今のところ、使用する場面は思い描けないが、一応つけておく。

 《改良》。セレーネにはこの権能で、暇なとき回復薬等を造ってもらう。《滅びの都》に入れない以上、臨時で俺達のギルドの生産系の役職についてもらうとする。

 最後が、《鑑定》だが、原則鑑定はできるが、【覇王】の称号に繋がる事項はすべて削っておいた。これは全眷属徹底することにする。

 『覇王編成ジャガーノートフォーメーション』の項目の《権能使用許諾》を操作し、制限的にセレーネに権能を付与し、セシルの鑑定にもセレーネと同様の制限を加える。


 セレーネに使用許諾した権能につき説明するが、話が終わるころには真っ白に石化してしまい反応しなくなってしまった。

 残念銀髪ロリっ子は放っておいて、セシルに二〇〇〇万ルピを渡し、次の二つの指示を出す。

 一つ目が、複数の武具の購入。特に、弓とローブを最低でも各々四つ以上を購入すること。これはセシルが得意なのが弓と聞いたからで、ローブは三週目ですれ違ったとき着ていたから。

 二つ目は、残りの代金全てで『HP回復薬(ポーション)』と『MP回復役(エーテル)』の銅級を有りっ丈の購入。

 頼られたのがよほど嬉しかったのか、セシルはやけにテンションが高かったが、どうにか落ち着かせてセレーネ宅を出る。



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