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第67話 銀髪の超常者


 セシルを連れて、シャーリーに書いてもらった地図の指し示す場所に向かう。

 その場所は、西地区の《人民街》の北西のはずれ。教会の隣の二階建ての建物だった。

 仮にも、超常者(イモータル)などという大層な名前だから、てっきり、大豪邸にでも住んでいるのかと思っていたが、周囲の建物と大差ない所々傷んだ小さな民家に過ぎない。建物内部に特殊なスキルや魔術の付与でもなされているんだろうか。

 玄関口に吊るしてある小さな鐘を鳴らして、暫く待っていると、扉が勢いよく開かれ、五、六歳の子供達が飛び出してきた。


「お客さん!」

「お客さんだよぉ~、セレーネお姉ちゃん」

「な~、兄ちゃん達、冒険者か?」


 俺達の周りをパタパタと飛び跳ねはしゃぐ。


「セレーネさんはいるか?」


 最も年長らしき少年の頭に掌を置いてワシャワシャと撫でつつも、そう率直に尋ねる。


「いるよ。呼んでくる!」


 頼られたのがよほど嬉しいのか、喜色を顔一面に浮かべると居間のほうへ駆けていく。

 ほどなく、二人の女性が玄関口へ姿を現す。

 一人が一一、一二歳くらいの銀髪の美少女、違うな、美幼女か。

 光に反射してキラキラと輝く長い銀髪に、眠そうな瞳だが完璧に整い過ぎている神秘的な顔。白磁(はくじ)のように白い肌は、肩が露出した白いワンピースと殊の外似合っていた。

 隣の一人は修道服を着た二十代前半の黒髪のシスター。垂れ気味だが優しそうな容姿に、スラリッと伸びた手足とくびれた腰、さらに豊満な胸が修道服を押し上げている。こいつが、セレーナだろう。


「俺はユウマ・サガラ、冒険者だ。少々、込み入った話がある。少し時間をもらえないか?」


 銀髪幼女が、目を嬉しくてたまらないというようにキラキラ光らせて、右手を差し出してくる。大方あの餓鬼共の友達か何かだろう。


「悪いな。今から少々、大人の話がある。あいつに遊んでもらいな」


 左手の親指の先を背後で既に子供達の生贄となっているセシルに向け、修道服の女に振り向く。


「違うんです」

 

 修道服の女は、脇で俯いて震える銀髪幼女を気まずそうに見下ろし、口を開いた。


「は?」

 

 二人の予想外の反応に首を傾げていると、銀髪幼女の口から言葉が漏れ始める。


「こ、こ、……」


 壊れたラジオのように『こ』をひたすら連呼する銀髪幼女。


「ん? どうした、何か悪いもんでも食ったのか?」


 しゃがみ込み、目線を銀髪幼女に合わせる。


「こ、こ、こ、こ――」

「おい、こいつ顔が真っ赤だぞ。熱でもあんじゃねぇのか?」


 銀髪幼女の額に右手の掌を当てると、確かに熱を持っていた。


「ユウマ様、多分、彼女、病気じゃないと思いますよ」


 熱じゃない? 照れてるとか? いや。というよりこの状況、遂最近経験したことあるような。

 記憶の糸を手繰り寄せるにつれ、その銀髪幼女の真っ赤に発火した顔が、六花のそれと重なった。

不意に銀髪幼女が顔を上げ――。


「おい、おい、嘘だろ……」


 その銀髪幼女の憤怒で彩られた顔を見て、俺はシャーリーの言葉の意味と自分の籤運の無さを改めて再認識する。


「まさか、このちんちくりんが?」

「この――無礼者ぉ~~!!!」


 耳を弄するような怒鳴り声と共に、俺の左頬に銀髪幼女の平手打ちが見事にクリーンヒットした。


                ◆

               ◆

               ◆


 シスター――アンジェが子供達と席を外し、俺達は居間の小さな木製のテーブルの各席についている。

 プイッと、そっぽを向く銀髪幼女――セレーネ。一応謝罪はしたが、この調子で話が先に進まない。六花と同じ。こいつも、外見同様、内面も餓鬼だ。

 それにしても、六花、朝比奈先輩、セシルに、今度は銀髪幼女か。俺、幼女の呪いでもかかってるんじゃねえだろうな? 

 兎も角、この流れを早急に断ち切らねぇとマジで幼女趣味(ロリコン)のレッテル張られるぞ。というか、もう一部からは既にかけられている気もするわけだが……。


「それで、セレーネ、俺達と契約する気があるか? 無いなら諦める。俺には時間がないんだ。この場で決めてくれ」


 これ以上の時間のロスは、論外だ。この後、このピノアで用を一つ済ませねばならないわけだし。

 姿勢を正し、依然としてそっぽを向くセレーネの横顔を見つめる。


「う……」


 ちらり、ちらりと横目で俺の様子を伺うセレーネ。

 この強烈な不安に彩られた様子から察するに、契約する気はあるんだろう。ただ、振り上げた拳の下げ方がわからない。そんなところか。まったくもって不器用な餓鬼だ。

 肺に溜まった空気を吐き出し、席を立ちあがり、セレーネの傍まで移動する。


「あっ……」


その右手を握り、ブンブン振る。


「これで仲直りだ。お互い餓鬼じゃない。建設的な話をしよう」

「……わかった」


 耳元まで顔を紅に染めつつも、セレーネは俯き気味に頷く。


「もう一度聞くぞ。俺と契約する気はあるか?」

「ある。妾は《滅びの都》を攻略しなければならんのじゃ」

 

 即答し、両拳を強く握りしめるセレーネ。


「《滅びの都》を完全攻略したいのは、俺も同じだ」

「そ、そうか! ならば――」


 歓喜の表情で席を立ちあがるセレーネを右手で制する。ホント、せっかちな奴。


「俺と契約するにあたり、いくつかの点を条件として提示したい。その条件が飲めなければ、俺は契約しない」

「それは?」


 ゴクッと喉を鳴らすセレーネ。その顔には、不安が汚点のように付着していた。


「第一が、俺達のギルドについての一切の情報漏洩の防止。

 組合に知らせる必須の情報は、セレーネ、あんたについてだけ。そうだな?」

「そうじゃ。だから妾は……」


 悔しそうに歯ぎしりをするセレーネ。


「なら、今まで通り、セレーネ個人の情報のみを組合に伝える」

「どういうことじゃ? 妾にはチンプンカンプンじゃ」


 セレーネはキョトンと小首を傾げる。セシルはそもそも話には入れておらず、ポケーと俺達のやり取りを眺めている。


「俺の言いたいことは直ぐにわかるさ。話を進めるぞ」


 二人が頷くのを確認し、話しを進める。


「第二に、ギルドのメンバーは原則、メンバー全員の同意があって初めて加入が許される仕組みにしたい」

「そんなことすれば、ギルドに入るメンバーがいなくなるぞ?」

「有象無象などいても、邪魔になるだけで、かえって有害だ」

「し、しかし――」

 

 再度席を立ち上がろうとするセレーネに、座るようジェスチャーする。

 今まで、仲間がいなかったセレーネにとって、メンバーの確保は最重要事項なのだろうが、それも俺と契約するまで。俺の予想が的中すれば、セレーネの価値は今後劇的に上昇する。むしろ、どうやって殺到する冒険者を堰き止めるかの方が遥かに重要となる。

 そもそも、セシルはよほどのことがない限り、俺の決定に異を唱えはすまい。この第二の条件の要旨は、セレーネが勝手に暴走してメンバーを増やすことを防止する決定権を俺に留保するためにあるわけだ。


「実際に《滅びの都》に入るのは俺達。背後を意識して戦うなど真っ平ごめんなんだ。こればっかりは譲れない。それに、《滅びの都》の攻略は人数を集めれば為せるほど簡単な代物ではない。そんな甘ちゃんな認識持ってんなら今のうちに改めてもらおう」

「……」


 ぐっと、言葉を飲み込む姿からも、納得は全くしていないんだろうが、聞く耳は持つようだ。想定していたより、ずっと大人なのかもしれない。


「俺の加入の条件はこの二つだけ。後は、各々好きにすればいいさ。

さあ、選びな、セレーネ、俺との契約を受けるか否か!」


 俺の言葉に、セレーネは天井に視線を固定すると、親指をガチガチと噛み始める。

 こいつにとっては、一世一代の決断だ。直ぐに決心はつくまい。

 とは言え、今のこいつに俺の誘いを断れる余裕があるとも思えない。俺に去られれば将来契約する冒険者など事実上皆無だろうし。大方、今考えているのは、いかに俺が提示した条件を緩和させるかだろう。

 暫く放っておこう。あとは――。

 俺の左隣に座るセシルに顔を向ける。


「セシル、お前はどうする? 

 あくまでお前を雇ったのは、運搬人(キャリア)としてだが、セレーネと契約しなければ《滅びの都》には連れて行けない。これは、さっきの秘密の保護と、お前自身の保護の観点からだ。もし他に目ぼしいギルドがあるなら、断ってもらって構わない。

 その場合でも、武具や魔道具の買い出し等やってもらいたいことは山ほどあるし、報酬としてとびっきりのものをやる。いずれを選択しても、お前の不利にはならないから安心して決めてくれ」


 俺のご無体な言葉に、セレーネが爪噛みを止め、段ボール箱内に捨てられた子犬のような哀れな表情を浮かべる。

 セシルは、俺とセレーネに無邪気な笑みを浮かべる。


「僕も契約します」

「それ本心か? そこの残念超常者(イモータル)に気を遣わんでもいいんだぞ?」


 即座にセレーネから、射殺すような視線を向けられる。表情から推測するに、余計なことを言うな、クソボケが!ということだろう。


「冒険者としての僕を必要だと言ってくれる人達は初めてですし……」


 俺をチラリと見ると、セシルは笑みをさらに深める。


「僕、ユウマさんと冒険してみたいです」

「そうか……あんがとよ」


 セシルの頭をグリグリと乱暴に撫でると、セレーネに向き直る。


「セシルは俺とセットだ。俺と契約すれば漏れなくついてくるが、断ればお前と契約することはなくなる。どうする? 契約するか?」

「する! すればいいんじゃろ! その代わり、今まで通り、スカウティングには出るぞ?」

「ああ、好きにしな。もっとも、ギルドに入るには、俺とセシルの合意が必要だがな」


 ぐぬぬと歯ぎしりをしていたが、セレーネは諦めたように大きく息を吐き出すと机に突っ伏してしまう。


「さっさと契約とやらをするぞ。ギルドの登録もしなきゃならんし、今後の方針も決めたい」


 セレーネは自身の顔を数回パンパンと掌で平手打ちすると、意を決したような面持ちで俺とセシルを見つめ、


「妾の後についてきてくれ」


 そう要求してきた。



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