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第64話 自宅での密談


「フィオーレ・メストと志摩花梨が、『一三事件』の被害者候補。

『一三事件』の容疑者には、《(ふくろう)》と《(まむし)》を超える生物一匹に、あの《狂虎》さえも超える使い手が四人。その上に、ボスらしき存在と、捜査本部と志摩家内のスパイ。状況は最悪と言ってもいいね」


 俺の話が終わると、徳之助が難しい顔でボソリッと呟く。堂島と六花は幽鬼のような真っ青な顔で頬を引き攣らせていた。

 こうもっさり、俺の予知の言葉を信じたのは、幾つか警察関係者にしか知らないことも俺の話にでてきたから。


「ああ、そして最悪は、多分、フィオーレ・メストが殺されて加速する」

「イタリア最高の魔術組織――『朱の夜明け』の長の末娘。仮に殺されたりでもしたら、重大な国際問題にも発展するし、日本警察の信用は地に落ちる。ICPOでの発言力の強化を狙っている首脳陣としては、大ダメージだろうね。そこに、志摩花梨も加われば、警察が受けるダメージは想像を絶する」

「まあな……」


 俺が言う最悪とはそんな大人の建前の話じゃない。フィオーレ・メストの死により、奴らはカリンへと鉾先を向ける。フィオーレの死を止める事は、カリンの生存にも直結する。

 何より、フィオーレ・メストの死により、奴らは今までとは比較にならないほど、強引な行動にでてくる。

 第四の殺人までは、大した証拠も残さない隠密性に富んだ行動だった。それがカリンの殺害になり一転する。無論、自爆させるなど情報漏洩に気は使っていたようだが、それでも、第四の殺人までとは行動原理が決定的に違うように思える。

 もし、情報漏洩すれば、これほどの事件だ。探索者協議会による駆除は避けられまい。だからこそ、第四の殺人までは、徹底して秘密を貫いて来たんだ。

その上での行動の変化は、カリンの死があれば、協議会に発覚しても生き延びる自信があるということを示唆している。このように解せば、《フール》の『もうじき、ボスは至高へと至る』の発言にも合致する。

 要するにカリンが生存する限り、奴らは確実に探索者協議会に駆逐されるが、カリンが殺されれば、少なくとも奴らのボスは力を得てこの世界に生き続けることになる。

 ともあれ、これは俺の想像に過ぎない。まだ話すには早計だろう。


「《上乃駅前事件》と《一三事件》が関連する。結局、長門君の主張が正しかったわけか」


「そうなるな。徳さん、フィオーレ・メストの保護を協議会に求められないか?」


 徳之助はすまなそうに首を左右に振る。


「正直、難しいだろうね。上層部は『一三事件』をただの連続殺人事件としか見做していない。君の予知夢のようにレベル4の魔物が実際に大量発生するなんてことがあれば話は別だろうけど、確たる証拠もなしに上は動かない」


 やはり警察は『一三事件』の危険性を理解するまで動けない。だとするとフィオーレ・メストの保護は俺達だけで為し得る必要がある。

 今はまだ動かない方がいい。余計な事さえしなければ、木曜日の夜まで、時間はあるんだ。


「相良、絶対に無茶するなよ」


隣座っている六花が、心配に耐えないという表情で俺の上着を掴み、見上げて来る。


「わかってる」


 予知夢とは言え、六花の前で俺が戦ったなどと口走れば、過剰に心配して、今後、俺の予想を超えた行動にでかねないからな。六花が帰った後で、徳之助達とは戦力増強策につき相談する必要がある。


「少し、整理しよう。今回の僕らの武器は、相良君の予知により、『一三事件』の容疑者の動きにつき、ある程度ながら予測がつくこと。さらに、長門君が命を賭けて得た奴らのアジト等の情報……」


 徳之助は途中から口を閉ざすと、俺の瞳を凝視する。


「な、なんだよ?」


 心の中を見透かされそうな徳之助の鋭い眼光に、若干戸惑い気味に奴の意図を尋ねる。


「君の予知、どうも僕にはただの断片的なイメージには見えないんだよね。まるで過去を実体験しているようでさ。いくつか、疑問もあるし……」

「そ、そうか? 発想豊ってことでありがたく、受け取っておくよ」


 やっぱ、徳之助は危険だ。流石に俺の『ロード』の能力まで知られるのはマズイ気がする。


「まっ、いいんだけどね。

 兎も角、奴らの行動が変わって、先が読めなくなるのは避けたい。木曜日の襲撃までは大っぴらな行動は控えるべきだろうね」

「それには私も同意しますが、目下標的となっているフィオーレ・メストは危険ではりませんか?」


 堂島の当然の言葉に、徳之助が含み笑いを浮かべる。


「その件は本部に帰ってから煮詰めていこう。彼、まだ学生だしさ」


 深い息を吐く六花。徳之助の意図を理解した堂島も素直に引き下がる。


「それでは、後は捜査本部と志摩家のスパイに奴らの『工房』の場所の特定ですが、本部の誰が敵かもわからない状態では、捜査協力は見込めません。私だけでは、事実上不可能と言えます」

「それだよ。捜査本部として動けば、情報が筒抜けである以上、そのアジトとやらを奴らは早々に放棄するだろう。そうなれば、協議会を動かせる状況になった際に支障をきたす」

「とはいえ、私達だけでは情報を得るのは不可能です。だとすると――」


 堂島が徳之助の言葉に続く。


「襲われても問題ないほどの強さと信用がおける外部の探索者を探すしかないだろうな。やっぱ……」


 俺の言葉に、苦い顔をする徳之助と堂島。そんな探索者がそうそういないことくらい俺でもわかる。


「相良、その志摩花梨はお前にとって大事な人なのか?」


 袖を引っ張られ見下ろすと、六花が恐ろしく厳粛な顔で俺を見上げていた。


「そうだ」


 俺の言葉に、暫し、腕を組み考え込んでいたが立ち上がる。


「用事を思い出した。今日の所は失礼させてもらう」


 俺達を一瞥すらせずに、退出してしまう六花。多分、また六花の対応に失敗した。あの思いつめた様子、また首を突っ込むつもりだろう。

 俺が六花に望むのは唯一つ。何もしないで大人しくしていること。それをあいつは、てんでわかっちゃいない。


                ◆

               ◆

               ◆


「フィオーレ・メストは、俺達が下手に動かねぇ限り、金曜日の午後までは狙われねぇよ」


 一週目も三週目も大まかな事象の流れには変化はなかった。これは、俺が出来る限り一週目と同様の行動をするよう気を配っていたからだ。

 つまり、俺がこの地球で一週目や三週目と同様の行動をしていれば、起こる事象に大きな変化がないことを意味する。


「でも、君の予知はズレる可能性があるんじゃないの?」


 それはそうだ。三週目は一週目と比較し、僅かな事象のズレはあったわけだし、堂島の危惧には十分な理由がある。

 しかし、今回ばかりは、護衛をすることは明らかに悪手。


「確かに、金曜日まで襲われないと断定まではできない。だけど、俺達が目立つ動きを見せなければ、予知通りになる可能性が高いのも事実なのさ。

 それに護衛したとしても、協議会が動かない以上、襲われれば皆殺しになるだけで、意味などねぇよ」

「それはそうかもしれないけど……」


 要するに堂島は、民間人に過ぎない女性が狙われているとわかっているのに、何もできない。その行為がどうしょうもなく悔しく許せないのだろう。気持ち的には俺も同じだ。彼奴らに好き勝手させる無力な自分自身には反吐が出る。

 しかし、今の俺達が弱いのも事実なんだ。強くならなければ何もつかめない。本来必要な己の信念一つ守ることもできやしないんだ。


「堂島君。今回は、相良君の意見が妥当だ。今の僕らは襲撃がない事を祈りつつも、金曜日までに、ラヴァーズの討伐方法をまず優先的に考えるしかない」


「はい」


 堂島は頭を下げると、口を噤む。


「奴らの討伐方法については、俺に考えがある」

「簡単に言ってくれるねぇ~、相手は目算で最低レベル8以上だよ?」


 最低(・・)レベル8の言葉に、改めて本事件の困難さを再確認したのだろう。堂島は血の気が引いた顔で唇を噛みしめていた。


「簡単じゃないさ。だが、成し遂げられなければ俺達は終わり。俺の予知通り、皆殺しになる。それだけの話だ」

「何とも、分の悪い賭けだねぇ~」

「でも、のる気満々なんだろ?」

「あっ、わかる?」

「ああ」


 そりゃわかるさ。徳之助の本質には最近気付いたし。


「ん~、どうも君今日初めて会ったようには思えないんだよねえ~、発言に若干の矛盾もあるしさ」

「そ~かよ。んな事より、時間もない。話を煮詰めるぞ」




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