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第55話 管理官の演説


 一一月六日(日)二〇時五〇分。


 俺は、志摩家からは滅法毛嫌いされている。仮に志摩本家の者が屋敷にいた場合、俺が交渉の場にいれば進む話も進まない。そう主張すると、《(ふくろう)》が顔の大部分を覆う黒色の髑髏模様の入った悪趣味なマスクを渡してきた。さらに、多門のおっさんからフード付きのパーカーを借り、それを羽織れば、あら不思議、勘違いした痛い奴に早変わり。一瞬、カリンさえも俺だと気付かなかったくらいだ。大して面識のない志摩家の重鎮共には見分けがつくまい。


 屋敷に到着し、カリンを自室へ待機させ、俺達は応接室へ通される。

 本日、志摩家は定例の会議か何かだったらしく、重鎮達が揃い踏みしていた。そんな中、徳之助は、全員の出席を求めたのだ。

 予想通り、俺の存在は見事にスルーされ、皆の前で徳之助は事の経過を一同に簡略化して説明した。


「そうですか。カリンが……」


 実際に愛娘が襲われたのだ。殺人計画を聞かされるだけとはわけが違う。それなのに、辰巳おじさんも、ジェシカおばさんも、顔を悲痛に染めてはいたが、奇妙なほど落ち着いていた。まるで、カリンが襲われる危険性を朧気ながらに予想していたかのように。


「ことは急を要します。つい先刻、電話で上司の決裁は得ました。

 既に警察庁長官から国家公安委員会を介して探索者協議会へ志摩花梨の護衛と、容疑者の確保のため、シーカーの要請が為されているはずです。

 実際に担当シーカーが花梨さんの護衛につくのは、明日の午前九時。それを凌ぎ切れば我らの勝利です」

「そこまでする必要があるのですか? 私には聊か過剰に思えますが?」


 目つきは鋭いが整った容姿に、ブラウン色の髪。細身の体にブラウンスーツは殊の外似合っている。まさに非の打ち所がないこいつは、志摩時宗(しまときむね)。トップレベルで俺が苦手な人物の一人だ。


「過剰ですか……そちらの認識を改めていただくためにも、テレビをつけていただいてよろしいですかな?」


 徳之助の言葉に、眉をしかめながら辰巳(たつみ)おじさんは、テレビを付ける。

 テレビからは、女性のアナウンサーのやけに興奮した声が、俺達の耳まで飛び込んで来た。


『皆さんご覧ください。《府道公園》がすり鉢状に抉れております』


 テレビは、もはや公園の輪郭の欠片すらもない巨大なクレーターの映像を絶えず映しだしていた。


「これってまさか?」


 辰巳(たつみ)おじさんが雷に打たれたように目を大きく開き、他の志摩家幹部達の真っ青な顔にも、いくつもの怯えの筋が走っている。ようやく、事の重大さを理解したのかもしれない。


「公式発表は後日となりますが、これは、花梨さんを襲った賊と私達の戦闘の結果です」


 至るところから、驚愕の声が上がる。

 ジェシカおばさんは遂に耐えられなくなったのか、クタッとなっていまいミラノに支えられ部屋を退出してしまった。

 徳之助はさらに話しを続ける。


「もちろん、勝利はしましたが、辛勝(しんしょう)でした。そのせいで、私達の大切な仲間が一人命を落としました」


 徳之助は冷静に振る舞ってはいるが、その声には明らかな怒気が含まれていた。

 この志摩家の重鎮の中には、『一三事件』を利用し、カリンの命を狙っているものがいる。そいつさえいなければ、志摩家と連携できたし、あんな無茶な囮作戦を敢行する必要もなかったんだ。間接的とは言え、志摩家に潜む黒幕は徳之助にとって部下を殺した一人には違いない。徳之助の憤りも容易に察することができる。


「そうですか。ご愁傷様です」


志摩時宗(しまときむね)は眉ひとつ動かさず、ただ軽く一礼する。

 奥歯を噛みしめ徳之助は口を開く。


「さらに、私達警察は《一三事件》とは別に花梨さんの命を狙っている輩がいる事実を掴んでいます。ですが、ご安心ください。卑劣な冷血漢共は、草の根を分けても探し出し、法の裁きを受けさせます」


 応接間に、先ほどとはまた違う騒めきが起きる。


「八神さん、そのような重要な機密事項を私達の前で言う意義は?」

「私は、ただ私達警察の覚悟のほどを身内の方々に知って安心して欲しかっただけです」

「覚悟ですか?」

「そう。覚悟ですよ。賊は日本警察全体に正面切って喧嘩を売った。私達、警察は一匹残らず見つけ出し、相応の報いを与えるということを!」


志摩時宗(しまときむね)はニコリと笑い、


「私も、本事件が解決することを心から願っております」


 そう静かに告げた。


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