表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/253

第53話 つまらない結末


 驚いた事に、両手両足を【エア】でぶち抜いた赤目坊主は五体満足の状態に戻っていた。

 回復スキルか何かだろうが、命を奪う危険性がないなら、俺も全力でやれるし、むしろ都合がよい。


「私を傷つけたのは、あなたですか?」


 《フール》は、先刻見た変態的はしゃぎようは鳴りを潜め、無言、無表情で俺を注視している。


「さあな」


 【エア】の銃口を《フール》に固定する。


「なら、試させていただきます!」


 俺との距離を喰らいつくさんと、地面を爆発させながら迫る《フール》。

 その重戦車のごとき迫力は中々のものだが、如何せん、それではレッドラビットにすら及ばない。

 おおきく振りかぶられた右拳を鼻先で交わし、奴の二の腕に【エア】の銃口を向け引金(トリガー)を引く。


「ぐごぉ!」


 右腕が根元から破砕され、夜空に真っ赤な血肉の雨が地面にパラパラと夕立のごとく落下する。


(回復できるんだろ? 一々、痛がるなよ)


 間髪入れずに右脚で、奴の右わき腹にヤクザキックをかます。

メキメキと深々と突き刺さった俺の右の爪先(つまさき)が奴の肋骨を粉砕し、内臓をグシャグシャに押しつぶす。

 砲弾のように一直線にぶっ飛ばされ、樹木に盛大に叩きつけられた《フール》は、それらをなぎ倒しつつも、視界の外に消えていく。


【エア】を構えつつ、奴に接近する。

 《フール》は木々にもたれかかり、血の気の引いた顔で口からコポコポと多量の血を垂れ流している。奴の右腹部と肩口から煙が上がっているが、あれが両手両足を回復させた力ってやつか。

 先ほど俺は奴の内臓を滅茶苦茶に破壊した。通常なら動ける傷ではない。回復力だけはかなりのものだな。まあ、あくまでそれだけだが。


「あなた――」


 不快な《フール》の言葉が紡がれる前に、奴の左上腕に向け銃弾を発射する。


「ぐぎゃぁ!!」


 絶叫と共に、奴の左肩口付近が砕け散り、ちょん切れた左腕が地面に叩きつけれる。

 鮮血を噴き出す左肩の断面を抑えて、騒々しく喚く奴。

 念のため、もう一度、両足も砕いておくか。

 【エア】を奴の両脚に向けるが――左足首にチクッと痛みが走る。地面に視線を落とすと、奴の左手の真っ赤な爪が俺の左足首の皮膚に僅かに突き刺さり、蜥蜴の尻尾の様にピチピチと動いている。

 右脚で奴の左手を踏み砕く。こいつ、存在そのものがキモイ。


「これであなたも私の子供達の苗床ですねぇ~、あなたほどの強者ならさぞかし、極上の子供達が生まれることでしょう」


 してやったりと、《フール》はドヤ顔で喚いているが、俺の身体には微塵も変化は訪れない。


「別に何ともないが?」

「な、なぜ、私のスキルが利かない!? いや、そもそも、なぜあなたは私の結界を破れる?」


 隠せない狼狽の色を顔面に漲らせながら、俺に疑問を投げつけてくる《フール》。

 スキル? 戦闘前に技術班の職員からくれぐれも触れるなと注意を受けた左手の赤色の爪のことだろうか。生憎、俺の本能が全く警告を発しなかったから過剰な警戒はしていない。

 結界とは、奴を覆う薄気味の悪い黒色の被膜のことだろうが、俺が触れると霧散してしまったし。


「さあ、お前が大したことがねぇからじゃねぇの?」


 これが偽らない俺の感想。


「大したことない……この私が?」


 上ずった声を上げる《フール》に、満面の笑みを向け――。


「ああ、いわゆる雑魚補正って奴」


 そう俺は当然のごとく断定する。


「くく……」


 《フール》から笑みが漏れ――。


「あはははっ!」


 俺もこの滑稽なピエロに大声で笑ってやった。

 俺達の笑い声が誰もいない公園内にシュールにも木霊する。


「ふざけ――るなぁ! 人間風情がぁ!!」


 《フール》が笑みを消し、肩を激しい怒りに震わしつつも激昂する。刹那、奴の身体中から黒色の霧が吹きあがる。

 あっという間に、黒霧により周囲の視界は遮られ、数メートル先すら見えなくなり、ゴキ、バキ、ゴシュという耳障りな音だけが静まり返った公園内に反響している。

 数回のバックステップにより、黒霧の範囲外まで退避した俺は、【エア】の銃口を向けつつも、いつでも動けるように身構える。


 十数秒後、黒霧はまるで換気扇に吸い込まれる煙のように木々の中に消えていく。

 そして入れ替わるように、公園の木々をなぎ倒し、姿を現す頭に二本の角と背中に蝙蝠の翼を生やした巨躯の化け物。

 赤い目と、剃り込みの入った坊主頭。加えて、所々、破けているスーツから察するに、あいつが《フール》だろう。

 近頃、変身する化け物の類にとことんまで(えん)がある。《魔物図鑑》により、鑑定を試みるが失敗する。レベルが俺よりも上なのか、それとも、魔物にカテゴライズされていないのか。

 いずれにしても、奴と相対してもバーサクモードになっていない。それは俺の本能が敵と見做していない証拠でもある。

 どうやら、つまらない結末になりそうだ。

 

「下賤で、矮小で、貧弱で、低俗な人間ごときが、この悪魔たる私に対する不敬の数々、許し難し」


 悪魔ね。もう何でもありだな。今更驚きもしねぇよ。それに、悪魔だろうが、天使だろうが、弱ければ食われる。それだけだろ?


「ご高説ありがとうよ。モブっ子君。ちなみに、その手のお約束の台詞、確実に死亡フラグだぞ?」

「モ、モブ?」

「あっ、そっか、悪魔って猿並みの知能っぽいし、言葉の意味わかんねぇか。モブってのは、通行人のような背景にいるキャラのことだ。なっ、お前にぴったりだろ?」

「貴様……」


 《フール》が悪鬼のごとき形相に変わっていく。


「おっ!? 二人称は『あなた』じゃなかったのか? もう既に大分、メッキがはがれてきてるぜ? つうか、お前、全て嘘くせぇんだよ」


 そうさ。《フール》の言動は全て造り物であり、故意の演出に過ぎない。そんな狂ったふりでは、嫌悪するだけで恐怖は抱かない。

大体、人間だろうが、悪魔だろうか関係ないんだ。恐怖や狂気の有無は、そんなことでは決まらないから。

 真に恐ろしくも狂った奴は、余計なことを口走ったりしないし、過剰な演出もしない。ただ、その場に存在するだけで、人の恐怖の根源を呼び起こす。そんな奴なんだ。一週目の芽黒駅前のスクランブル交差点で会った、あの赤髪の男のように――。

 あの赤髪の男と比べれば、こいつなど、ただのマッド気取りのゴッコ野郎に過ぎない。

 

「……」

「どうやら、心当たりあるようだな? いい歳した大人が、狂ったふりしてれば、カッコイイとでも思ったか? 餓鬼か、てめぇ」

「殺すっ――貴様はじっくりなぶってから殺してやるぞぉ!!」


 獣染みた怒号を上げる《フール》。


「やってみろや、サイコ気取りの厨二病悪魔が!」


 【エア】の銃声を合図に俺と《フール》は激突する。


                ◆

               ◆

               ◆


 《フール》の攻撃手段は、接近状態からのスパスパ切れる爪と遠距離からの口から吐く黒色の炎。

 確かに奴の十本の爪は脅威だ。樹木はもちろん、公園灯、トイレの建物などの金属さえも綺麗にバラバラのブロック状まで切断される。その上、少し離れると黒炎で火炙りだ。

 このコンボは中々凶悪な組み合わせであり、現に、つい数分まで俺は防戦一方を強いられていた。

 しかし、それでも負ける気が全くしなかったのは、奴の戦闘技術が皆無に等しかったから。確かに、身体能力は今の俺と同等であったが、圧倒的に錬磨が足りないのだ。おそらく、生まれながらに超常的力を持つがゆえに、碌な戦闘技術も学んではこなかったのだろう。

 奴の黒炎は一度吐くと、次の二発目までタイムラグが生じる。さらに、効果範囲はそこまで広くはない。だから、俺は奴と距離を取りつつ、周囲を疾駆し続けるという方法を取った。結果、奴の攻撃はあたらず、俺の【エア】による銃弾が、クリーンヒットし続けている。


「さあ、どうした。消し炭にするんだろ? してみろよ」

「蛆虫がぁ!」


 怒りと憎しみに歪んだ顔で、口から黒炎を吐き出す《フール》。

 死闘に最も必要不可欠なものは冷静さだ。これを失えば、あっさり勝利はその手から抜け落ちていく。

そして、通常、冷静さを最も失わせる要因が焦燥であり、怒りを初めとする興奮だ。一度失った冷静さは、戻るどころか逆に悪化の一途をたどる。今の奴はまさに、その状況。


 【エア】から放たれた弾丸が狙い違わず、《フール》の頭部と右腕に命中。奴の頭部は地面に叩きつられた真っ赤な西瓜のように破裂し、右腕は根元から粉々に粉砕される。奴は頭部を破壊されても生きているという不思議生物だが、一度破壊されると、行動能力が著しく低下する。故に――一切の間を与えず、撃破すべし。

 俺は右脚で地面を蹴り上げる。

 次の瞬間地面が爆ぜ、《フール》との間合いを食らいつくす。

 俺は、左手に持つミリタリーナイフの形態の《絶刀》をそのがら空きとなった右わき腹に突き立てると、上に持ち上げ、さらに捻じり上げる。

ゴシュッと胸の肉と骨が捻じれ、潰される。

 同時に【エア】をその《フール》の右腕から、胸部に掛けて連続射出する。

 即座に胴体と足だけとなった奴から距離を取り、《時限弾》に変え、《特殊弾威力範囲制御》により、範囲を半径一〇センチに設定し六発だけ弾丸を創造する。

 狙いを奴の右脛、右大腿部、左脛、左大腿、左肩付近、右肩付近に一発ずつ放つ。《時限弾》は、《フール》の各部分に突き刺さり、深々とめり込んだ。

次いで、《時限弾》の《特殊弾威力範囲制御》により、半径を三メートルへと変え、弾丸を二〇発創造し、腹部に一〇発、胸部に一〇発ずつ相互に撃つ。

《滅びの都》の度重なる実験で判明したことではあるが、起爆していない《時限弾》には物体を穿孔し内部に侵入する力はあるが、破壊力や貫通力はない。というより、物体に当たると、その場所に留まる効力があるようだなのだ。それを今回利用する。

 侵入した《時限弾》ごと、《フール》の身体は超高速で癒えていく。

 もう、勝敗は決した。俺は《フール》の黒炎の射程外まで移動すると、【上級HP回復薬(ポーション)】と【上級MP回復役(エーテル)】を飲み完全回復し、奴が完全に癒えるのを待つ。


「どうした? もう攻撃しないのか?」


 俺が諦めたのだと勘違いした奴は、勝ち誇ったように声を弾ませる。


「まあな。もうする必要ねぇしよ」

「貴様が素直に恐怖と絶望で染まっておれば、喰らって終わりにしてやったものを。貴様は私を激怒させた。もうただでは殺さん。貴様にあるのは、苦痛と後悔だけだ」

「……」


 俺の無言を肯定と見做した奴は、完璧に悦に浸り、妄想を垂れ流し始める。


「ボスの工房に連れて帰り、キメラの実験にしてやる。

キメラはいいぞぉ~、身体を切り刻んでも、中々死なんからなぁ~。それから、時間をかけて少しずつ切り刻む。無論食事は与えてやる。お前自身の肉だがなぁ、いや、あの娘の肉の方がいいか?」


やっぱりこいつ殺したい。生かしておくのが害悪に等しい。


「一つ、聞いていいか?」

「何だ? 今更、命乞いしても無駄だぞ。有限な貴様らとは違い私には時間がある。地の果てまでも追うからな」

「お前のいうキメラ、他の人間にもしてんのか?」

「勿論だとも。以前、狩った人間の兄妹はよかったぞ。妹をキメラにして兄を襲わせた。

 兄がジワジワと愛する妹に食われていく。まさに、至上の鑑賞であったわ。

 されど、メインディッシュは他にある。何だと思う?」

「さあな」


 俺の狂気が再現なく体中を暴れまわる。同じ小雪をいう妹を持つ身だから過度に共感でもしているのか。それとも……。


「妹の理性は食事が済むと戻るのだ。兄の悲鳴をバックミュージックに、その肉の味と感触を思い出す。

 ああ、最高だ、まさに最上の娯楽!」


奴の顔が悦楽と狂喜に染まり、身を震わせる。

 俺というと――。


「……」


 そう、とっくの昔に臨界など過ぎてたんだ。

 無言で俯く俺を見て、感情の種類を勘違いした奴は、顔を恍惚に染め上げる。


「ああ! その人間の恐怖、絶望、憎しみこそが、我ら悪魔の最高のスパイスなのだ。貴様という強者の恐怖と絶望で染め上げられた魂を喰らって、私はあの者達(・・・・)より一歩先へ行く。

 もっと――」


 ドゴォッ! 


《時限弾》が起爆し、右脛が爆破する。


「なぁ!?」:


 《フール》の右脛に半径一〇センチの球状の超高熱の熱源体が生じる。その熱は今までの俺の銃弾や奴の黒炎などとは次元が違った。その爆発の熱量により、大気は歪み、接した地面はマグマのようにドロドロに溶解している。

 次いで、右大腿部に起爆し、《フール》の右脚を根元から綺麗さっぱり消失させる。


「貴様、私の身体に何を――」


 左脛を起爆。

 俺は奴に緩徐に近づいていく。


「よせぇ!」


 左大腿部起爆。


「や、止めてくれ!」


 左肩付近と右肩付近が相次いで一瞬で蒸発する。

 両手両足をもがれた《フール》の瞳の奥には、とびっきりの恐怖があった。


「お前が寝ている間、身体の中心に二〇発の爆弾を埋め込んだ。二〇発とも、半径三メートルほどの範囲がある。威力は今体験した通りだ」


「んな!」


 《フール》の全身からたちまち、サーと血の気が引いていく。


(低能が。その様子、自分で滅びると言っているようなものだぞ)


 俺はほぼ全身に銃弾を浴びせて爆砕した。それでも奴は、完全なものとして回復した。

 奴の身体中に無数の核があり、残存した核が他の核を高速で複製でもしている。こう考えれば、当該現象を全て説明できる。

 要するに、一度に全ての核をこの世から消滅させればこいつは御臨終というわけ。


「さて」


 もがれた四肢でワサワサと這いつくばって逃げる様は、まさにゴキブリだ。


「こ、今回、お前だけは見逃してやろう」

「……」


 こいつ、気を抜くと遂殺しそうになる。まだ聞くべき情報があるんだが。

 【エア】の銃口を奴に向ける。


「まて、まて、まてぇ! そうだ。き、貴様、超常的力を得たくはないか?」


「超常的力?」

「称号という存在の格を決める絶対概念だ。通常、称号は生涯不変。

 しかし、至高なるボスへの参列はこの偉業を可能とする。現に私も『固有種』から『希少種』へと至り、今の力を得た。

 もうじき、ボスは至高へと至る。もし私の口利きで参列すれば、人間の身のお前でも、『固有種』へ至ることが可能となるかもしれんぞ」


 称号ね、そんな無機質なもので、物事の優劣など決まらない。これは真理だ。現に潜在能力など決して高くないレッドラビットの方が俺にとってよほど脅威だった。

止めよう。これ以上、馬鹿との会話に意味などない。


「お前の歩む道は二つ。俺の質問に答えるか否か。ただそれだけだ」


「わ、わかった。何でも答える。だから――殺さないでくれ!」


 その崇敬の主とやらすらも、いとも簡単に裏切るか。とことんまで俺をイラつかせる奴だ。


「お前の組織について全部――」

「ぐが……」


 俺の言葉を遮るかのように、《フール》の身体がボコボコと盛り上がり始めた。


「ぶぼぼぉ――」


 たちまち、空気をパンパンに入れた風船のように膨れてしまう。


(やべぇ!)


 無意識に全力で《フール》から放れるべく、全力で疾走する。

 背後から幾つもの閃光が炸裂していく。

 刹那、視界が真っ白に染まり、同心円状には衝撃波が吹き抜けていく。同時に、耳を聾するような轟音が鼓膜を殴りつける。


 背後を振り返ると――。

 半径数百メートルの規模で、巨大なボール状に抉れた公園の地面。まさに、天変地異のごき惨状が視界には広がっていた。


「自爆しやがった……」


 この自爆、《フール》の意思ではあるまい。まず間違いなくボスとやらの仕業だ。

 使い捨ての駒を処分した。そんな所か。普通なら憤りを感じるころなのに、毛ほども覚えないのは、《フール》の弛まない極悪行為のたまものだろう。

 兎も角、これでまた奴らの手掛かりを失った。さらに、奴らがどんな行為にでるか全く読めない。

 また防戦となってしまったし、徳之助の力を借りるしかない。


 

 公園前のバン前には徳之助、堂島、そして無数の捜査官がいた。

 百戦錬磨のはずの捜査官達は、俺が近づくと姿勢を正し、リーダーらしき捜査官が一歩前に進み出る。


「相良悠真殿、《A-3》――いや、佐藤の仇を取っていただき、警視庁魔技特殊急襲部隊を代表して感謝する」


 リーダーらしき、三十台後半の髭面の男が敬礼すると、他の捜査官達も、一斉に敬礼してくる。

 突然の事態についていけず、目を白黒させていると、リーダーのおっさんが、俺の前まで来て、右手を差し出してきた。


多門長太(たもんちょうた)だ」

「宜しく」


 俺が多門のおっさんと握手すると、突如、お祭りでも来たかのような賑やかな顔をした捜査官達に取り囲まれる。

 

「少年、回復のオーパーツ、助かったぞ」

「あの化け物兎、お前の魔獣なんだってな。どうやったんだ? やっぱり、召喚術か?」

「阿呆、召喚術でレベル7の魔獣なんて召喚できるかよ!」

「拳銃タイプの武具も、オーパーツだろ? どこの迷宮でとれた一品だ?」


 彼らの奇行について行けず、面食らう俺。そこに、堂島が咳払いをする。


「お前ら、撤収だ」


 隊長が一声かけると、一斉に数台のバンの中に乗り込み始める捜査官達。

 数分後、指揮車に使っていたバン以外、一台もなくなり、代わりに数十台のパトカーがサイレンを鳴らしながら近づいてくる。


「相良君、詳しい話は、中で話そう」


 徳之助と堂島、そして、今回多門のおっさんだけがバンに乗り込む。


「ユウマ!」


 バンに乗り込み、俺の姿を一目見ると、カリンが俺に飛びつき、顔を俺の胸に押し付けたまま動かなくなってしまう。

 カリンを抱きしめると後頭部をそっと撫でてやる。


「カリン、もう大丈夫だ。今から屋敷に帰る。だから、少しだけ徳さん達と話させてくれ」


 それでもピクリとも動かないカリン。


「カリン?」


 ようやく、顔を上げたカリンは泣いていた。また、こいつ……。

 ポロポロと大粒の涙を流すカリンを抱きしめる腕を強め――


「心配すんな。俺がお前を守るから」


 力強く宣言するとカリンは涙を拭うといつもの無邪気な笑顔を見せた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ