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第52話 救助


 徳之助の立案した作戦は、非常にシンプルだった。

 最高戦力の《狂虎》が、カリン達、バンの皆を守る。

 二匹のレッドラビットの一匹は『エビルフロッグ』の殲滅。もう一匹は、公園内のA、Bランクの捜査員と民間人をバンまで連れて来る。その際、邪魔となる『エビルフロッグ』は駆除。さらに、全捜査員が救助し終えたら、『エビルフロッグ』の駆除に加わる。

 もっとも、レッドラビットと『エビルフロッグ』との絶望的なまでの力の差を鑑みれば、『エビルフロッグ』の殲滅の方が早く終わるだろうが。

 兎も角、レッドラビットの指揮権は一時的に徳之助に預けている。あとは奴が上手く遂行処理するだろう。

 俺は、赤目坊主と相対している《(まむし)》と《(ふくろう)》とかいうサーチャーの補助。具体的には、遠距離からによる【エア】による射撃。奴の両手両足を打ち抜き達磨にして、一切の抵抗できなくなってから、《(まむし)》達が確保する。

 武帝高生であるが、民間人に過ぎない俺が作戦に加わること自体が前代未聞だろう。さらに、最重要容疑者からテロリストにまで格上げしたとは言え、あの赤目坊主頭への攻撃を指示するなど、幾つもの警察のルールに抵触しそうだ。それとなく尋ねてみるが、心配ないとの一点張りで取り付く島もない。

 まあ、徳之助からは今まであった悲壮感が抜け落ち、代わりにとびっきりの歓喜に塗り替えられている。奴にとっても最悪な事にはならないんだろう。

 兎も角、難解なカリンの説得も徳之助と堂島がしてくれるらしいし、後はこの戦争を終わらせるだけ。


 公園を疾走するが、道端には夥しい数の『エビルフロッグ』の死体が散乱していた。

 ――首が捻じれている『エビルフロッグ』。

 ――胴体が吹き飛んでいる『エビルフロッグ』

 ――身体が粉々になり、地面に飛散っている『エビルフロッグ』

 レッドラビットに殲滅を命じた際、かなり興奮気味の様子だった。やる気満々での結果だろう。所詮、相手は魔物だし、自重させる必要もない。これでいいさ。


 徳之助に指示された最も高い大樹の枝に上り、【エア】を狙撃銃(ライフル)にし、スコープから、赤目坊主頭を探す。

 奴はすぐに見つかった。

 手足の長い骸骨のような男――《(まむし)》の頸部を右手で鷲掴みにして、今まさに真っ赤に染まった指先を突き立てようとしているところだ。

 黒マスクの青年――《(ふくろう)》も、公園灯にもたれかかっており、ピクリとも動かない。

どうやら、危機一髪ってところだったようだ。

 スコープの標準を赤目坊主頭の左前腕に固定する。引金(トリガー)を押す。

 ドウンッと乾いた音が夜空を裂き、奴の前腕が消し飛ぶ。間髪入れずに、右前腕も撃ち抜き、粉々の肉片にまで分解しておく。

 《(まむし)》が地面にドサリッとうつ伏せになるのを確認し、赤目坊主頭の両脚も根元から破砕させる。

 ほら、達磨(だるま)の出来上がりだ。

 にしても、これは《時限弾》ではないただの弾丸創造に過ぎない。しかも、特殊な威力制御などしていない通常の威力。今更だが、【エア】ってマジですごい武器なのかもな。

 ともあれ、これ以上やれば奴は死ぬ。

 《(まむし)》と《(ふくろう)》には、奴を捕縛するだけの力は残されちゃいまい。俺がやるしかないんだ。

 

「徳さん、奴の両手両足は破壊した」

「ごくろうさん。見てたよ。実に見事な手際だった」


 持たされた無線でバンに連絡すると、捜査官達の歓声をバックミュージックに、やけに陽気な声が耳に飛び込んで来る。

 

「そういう褒め方されても、かなり微妙なんだけどな」

「それもそうか……すまないね」


 声色が低くなっていることからも、落ち込んでもいるんだろうか。変に真面目そうだからな。


「いや、そもそも、巻き込んだのは俺だ。あんたが謝る必要はねぇよ」

「今回の君の功績には僕ら警察は最大限答えるよ。それに――」

「おい、おい、まだ終わっちゃいないぜ」

「あははっ、その通りだね」


 俺の茶化しに、ようやく徳之助の奴も、調子を取り戻しつつあるようだ。


「《(まむし)》と《(ふくろう)》が戦闘不能となっている。奴らを【HP回復薬(ポーション)】で回復させ次第、俺が、赤目坊主を捕縛する。それでいいか?」


「頼むよ。それと、《フール》の処理は君に一任する。以後、独自の判断で行動してもらいたい」


 《フール》? 話の流れから言って、あの赤目坊主の事だろう。


「独自の判断ってことは、万が一戦闘になったら俺の好きに戦っていいってことか?」

「ああ、君に託す」

「了解した」

「では、成功を祈ってる」


 徳之助の通信が切れる。これで指揮官の了解は貰った。

【エア】を拳銃タイプに変換し、数回の跳躍で、《(まむし)》の下へ行く。

赤目坊主――《フール》が何やら捲し立てていたが、変態の御託など聞く耳持たない。ガン無視した。


 《(まむし)》と《(ふくろう)》を担ぎ、《フール》と十分な距離を取り、地面に寝かせる。

 両者とも、全身の骨が折れてはいるが、致命傷という感じはしない。大傷の範囲内だろう。案の定、【HP回復薬(ポーション)】を飲ませると、傷のほとんどが修復される。これなら、自分で歩けるだろう。


「お前、一体……」


 さっきの、《フール》以上の化け物を見るような視線を向けられるが、これ以上、時間をかけたくはない。奴を逃がせば本末転倒だし。


「徳さんの指示だ。直ちに公園の出入口のバンに戻れってよ」


 それだけを伝えると、俺は《フール》へ向けて駛走(しそう)する。




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